マガジンのカバー画像

ひそひそ昔話

15
20歳前後までの忘れ去られた記憶を手繰り寄せて、話します。恥ずかしいので、ひそひそ喋るから耳を近づけて読んであげてください。
運営しているクリエイター

2019年12月の記事一覧

ひそひそ昔話-その5 さくら「なんとかなるよ、ぜったい大丈夫だよ」大人になった俺「…まじで?」-

あれは確かとても幼い頃、君は母のコンパクトチークをこっそり風呂場に持ちだして呪文を呟いたことがあるね? 「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン」などと。もちろん、そんな呪文を呟いたところで何者にも変身しなかったし、姉に目撃されてその後ずっと弄られたりもしたもんだ。  だが、あの時の少年よ。その後も凝りもせず、君は、姉の本棚からセーラームーンのコミックを失敬して、ちょっとドキドキしてたりもしていたろう? 中学生のお姉さんが、可憐にクールに変身する様子にきっと頬を赤らめてたろう?

ひそひそ昔話-その4 私を傷つけ続ける大人たち。永遠という、まんざらでもない表情で寄り添ってくる3つの顔-

乾いた泥を掴むと、ぽろぽろと崩れて地面に落ちる。どんな状態にも、どんな空間にもフィットするほどなめらかな身体を持っていたはずなのに、太陽のもとに晒されると脆くなってしまう。  私にとって怒りという感情はそういう具合に、時間が経てば経つほど無意味で無価値で、誰からも無関心であるみたいに、やがて心の片隅に掃きだめを作る。  私も忘れよう忘れよう、と何度も思うのだが、そういう怒りは、どうしようもないくらいに心の片隅で疲れ果てた姿で居座る。で、ことあるごとにその存在が引っかかってしま

ひそひそ昔話 -その3 風をきって きって 風をきってゆくよ。またしても破れかぶれな夕陽の疾走 -

高校生の僕は自転車を漕いでいた。パーカーにジーンズの簡単な恰好。簡単とは言っても安くはない。ジーンズなんか1万はする高価なやつだ。そよいでいた風を置き去りにするようにギアを上げ、加速した。この自転車も安くない。ガチャリンコ。二重鍵。中学に入学して、自転車登校が許可されたときに、じいちゃんが買ってくれた。6万する。  大きな川が、夕陽を反射してキラキラと輝いている。堤防沿いの、色を失い、生命の灯を失いつつある植物が、夕陽色に強制的に染め上げられていた。  僕はテレビゲームが

ひそひそ昔話-その2 お父さん、お父さん、あれが見えないの?ゴリラの幽霊が!息子よ、確かに見たよ 白い服の女の人を-

 実家の隣は駐車場だった。でも実家の壁のペンキが色あせておらず、庭の芝生も生き生きとしていた四半世紀前の新築時は、墓地だった気がする。だからじゃないけれど、私の家にも幽霊が出た。らしい。私の家族はみんなで心霊番組を見ることが家族団らんのひとつのかたちだった。所さんだか嵐だかタモリだかの番組の、心霊写真を紹介するコーナーで、毛むくじゃらのゴリラの幽霊だかが紹介されて、それがなんだかとても怖くて、脳裏にこびり付いて離れなかった。  暗い廊下の突き当りにトイレがあって、幼い私にと