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日記

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現在進行形で書き続けている日記をエッセイ風にのっけてます
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#毎日更新

2016/7/5の日記~小事件、好きと嫌い、サンタクロース~

片方の靴下だけがどうしても見つからない。僕の生活空間において往々にしてよく起こる小事件である。下の階のコインランドリーで誘拐事件に巻き込まれたか、寝ている間に荷物を持って夜逃げしたか。靴下両方同時に消えるなら、失ったことすら気付かないようなものなのに。わざととも思えるくらいに、僕が失ったものを気付かせるようにして相方を残して旅立つ靴下よ。僕らは片方の靴下だけではどうすることもできない。  人生において、失ったものの内、その半分くらいはきっと嫌いな"何か"、だ。案外、僕らのほ

2016/7/12の日記〜レッドクロス運動、船から降りる、港で手を振る〜

思っていたよりも太い針だった。針は左腕の肘の、反対側の薄い皮を突き破り、静脈へと射しこまれる。その間、看護師はレッドクロス運動(下肢筋緊張運動)を勧め、僕は言われた通りに伸ばした足を重ね、5秒力をキープし、そして5秒間力を抜いた。これを繰り返すことで筋肉の収縮により血管が圧迫される。その圧迫を利用し、心臓から流れてく血液を脳へ多く届け、副作用を防ぐわけだ。僕は空いている方の手で教科書を開き文字を目で追った。文字はうまく文章を構成させる間もなく、思い思いに視界を駆け抜け、僕を置

2018/3/31の日記~月9俳優、パジャマ男、下膨れ~

たとえば、朝、まだ重たい目をこすりながら姿見の前に立ったとしよう。そこに下膨れ顔のヨレヨレパジャマ男が映っているとしよう。それが月9俳優みたいな理想的な朝の寝ぼけ顔とはおおよそ違ったものだとして(いや、もちろん違うんだけど)、どのような言い訳をかけてあげるべきなのだろう?昨日寝付けにハイボール飲みすぎたからだ、とかYoutubeでトイストーリー3のラストシーンを見て泣き過ぎたんじゃない?と気の利かない言葉も聞こえてきそうである。 この頃は、アパートのフロア改装に伴う強制的な

2016/12/25(クリスマス)の日記~兵馬俑、ゴーストに触れようとすること、マチルダ~

50年ぶりに札幌で雪が90センチも積ったとニュースは繰り返し報道した。残り充電1パーセントのスマホを閉じて、幼馴染の築2カ月の新居を出る。昨夜食べた、ポップコーンやスモークチーズの袋のゴミは後にして。跡を濁して立つ鳥みたいに白銀の世界を旅し始める。その鳥の気持ちとはなんだろうか。理解するには少し時間がかかりそうだ。  外の世界では、数多くの自転車やバイク、車が生きたまま雪に埋もれていた。僕は大昔の中国を思い描いた。生きたまま埋められた大勢の人々を。後から調べてわかったが、こ

12/14の日記~ダブルアップル、コヨーテ、日曜日よりの使者~

 土曜日、高円寺の一角にあるシーシャ・バーでは、細かい装飾が施された照明が淡く部屋を照らしていた。約束通り僕ら3人は水タバコを吸いに来たわけだ。  コヨーテと呼ばれるカードゲームをしながら、脚を捥ぎ取られた巨大な甲殻類のような体格のシーシャがやってくるのを待っていると、どうしてもセザンヌを思い出さざるを得ない。ポール・セザンヌの描いた「カード遊びをする人々」のことだ。お互いの顔ではなく、手にしたカードに没頭する姿。彼らはカードを通してしかコミュニケーションをとれないぶっきらぼ

9/6の日記~タコ交差点、天秤に分銅、サナギ~

交差点のアスファルトは、昼の内に取り込んだ熱を冷ますために、その身の奥深くまで雨を染みこませている。雨を染みこませて黒く変色し、夜に擬態しようとする交差点のその姿は、巨大なタコのようにも見える。幾本もの腕のように道が伸びている。点字ブロックが吸盤のようだ。ともすれば、僕が立っているこの辺りは丁度口に該当するだろう。てことはもうじき胃袋の中か? 「いかにも。タコにも。ご名答」 社会人として東京に暮らし始めて5ヵ月と少々。馴染みの店は持てていないし、満員電車で潰れかけのパーソナ

2016/6/21の日記~切り裂かれた妖精のはらわた、蝦夷梅雨、ストロベリームーン~

雨に溺れたミミズが、切り裂かれた妖精のはらわたのように膨れて死んでいるのを尻目に家路を歩いた。大学から家までの帰路が短すぎるので、わざと遠回りをして帰る。そういえば今日は何とかムーンだったけかな、と夜空を見上げても厚い雲に覆われて顔を見せてもくれない。スクリーンのように街に垂れ込んだ雲を、ストロベリー色に染めてその存在を匂わすだけだ。  まったくよぉ、北海道には梅雨なんてなかったんじゃねぇのかよと悪態をついて、木陰で雨模様を窺っている雀に挨拶をした後(あれはたぶん雀だ。)、

2018/7/21の日記~神様メール、ゴリラと妊娠、25歳の抱負~

あなたが知っているのなら話も早いのだけれど…。ブリュッセルには神様が実在する。家出をした息子を除いた、妻・女神と娘エアとの3人暮らし。クズで怠惰で暴力的なこの神様、創造した世界を旧式PCで操り、引っ掻き回し退屈しのぎをしている。そんなDVクズファーザーに嫌気がさしたエア、反抗的な衝動そのままに人類に「余命を知らせるメール」を送る。神様の暇つぶしのためだけの世界を大混乱に陥れる。そして兄キリストに倣って奇跡を起こす6人の使徒を新たに探しに旅に出る。父である神はエアを追って人間界