消えゆく世界、再生の街へ
自殺志願のこどもが笑ってる。
それでも、鼓動どくんどくん。
俺のこの気持ちは、絶望と呼べばいいのだろうか。
うっすらと月が顔を出す夕暮れ時、高校からの帰り道で俺が住むS市A区の空は無数のミサイルに埋め尽くされた。
こんな事態はやはり、空想科学(イマジナリー)が織りなす芸当なのだろうか。
想像力が物質を創造する科学技術、空想科学(イマジナリー)。世の中に公表されたのは2年も前ではなかったと思う。テレビでそのニュースを見たときには、難病の治療や貧困問題を解決する画期的な発明であり、ユートピアの到来のように語られていたはずだ。未成熟な精神にしか宿せないと言われたその技術を、しかし現実は、人々は、世界は、傷つけるために唱える魔法へと容易く変えてしまった。1年も経たないうちに、俺達の住む国も争いの中にある事が知らされた。それでも、俺の住む世界は変わらず、夜を超え、朝を迎えてきたはずなのに。
ミサイルを前に俺は祈る神もいないため、死の訪れをただ待つ事しかできずにいた。
瞬間、目の前から景色に光が走る。
光の筋と交わったミサイルが音も無く次々と姿を消す。2拍ほど遅れて、残るミサイル達が轟音と爆炎を街中にあげた。変わり果てた景色の中で、光源に見慣れた人物を見つけてしまった。奇しくも、それは祈りの姿のようにみえた。
「いーちゃん!!大丈夫だった?!!」
裏返った声で駆け寄ってきたのは、俺と同じ高校に通う友人キミカだった。
「あ、あぁ。」
彼女に対していつも通り気の抜けた返事をした自分自身を、何故か笑いそうになってしまった。物心がついたころには既に傍にいて、空気か水のように当たり前の存在であったキミカ。高校では目立つでもなく、虐げられるでもなく普通の女の子であったと思う。
そのキミカの左手が、薄緑色に光る半透明体になっている事が、この信じ難い光景が現実であると告げていた。
【続く】