見出し画像

タイ最後のホープ、チャイノイがサム・グッドマンと対戦 ~ 2022年に取り上げたホープたちの現在

タイボクシング界のホープと言われて久しい、WBC世界スーパーバンタム級8位のチャイノイ・ウォラウット(タッタナ・ルアンボーン)は、7月10日に敵地オーストラリアのウロンゴンで、WBO、IBF世界同級1位のサム・グッドマンと対戦する。

この試合が正式発表される前にタイでは、6月19日のオーストラリアでのグッドマン対チャイノイ戦が噂されていたが、チャイノイをプロモートするNKLプロモーションは、7月のパタヤでのNKL定期興行にチャイノイが出場するとして、オーストラリア行きを否定していた。

WBC世界ユース、WBCアジアスーパーバンタム級王者だったチャイノイ

グッドマンは9月に東京で井上尚弥への挑戦の話もあったが、これを回避してチャイノイ戦に挑むことになる。日本ではグッドマンの「調整試合」との報道も目に付くこの試合、チャイノイの強打が炸裂すれば、グッドマンにKO勝ちすることも不可能ではない。

チャイノイ・ウォラウットはこれまで25勝(15KO)1分の戦績を誇る無敗のスラッガー。1997年生まれの26歳、父も叔父も元有名ムエタイ選手という格闘一家に育つ。2人の兄と幼少時から始めたムエタイは250戦(一説には100戦)を経験、2018年にプロボクシングに転向した。ムエタイ時代からパンチでの一発KO勝ちも見せていたチャイノイ、プロボクシングキャリア初期は毎試合のように衝撃的なKO劇を演じて5戦目でWBC世界ユーススーパーバンタム級王者に、9戦目でWBCアジアスーパーバンタム級王者を獲得した。

無敗対決を制したチャイノイの5戦目は著者は会場で生観戦、叩きつけるような右ストレートでムハマド(6勝1分)をKOした。

筆者は2年間にタイのホープ紹介の記事で、世界王者候補の筆頭にチャイノイを挙げたこともある。

しかし、世界王者候補もキャリアを重ねるにつれて倒せずに、判定までもつれ込むケースが多くなった。2021年3月に行われた元WBO世界バンタム級王者のプンルアン・ソーシンユ―(パンヤ・ウトック)戦は、プンルアンの6ポンドオーバーだったが試合を決行、チャイノイのパンチがプンルアンに効かないようで、可哀そうな試合(判定勝ち)だった。

この試合あたりから、相手が格下の試合でも、右強打に頼りすぎて、荒っぽくなるパターンが見られた。フィリピンやインドネシアの中堅どころや中国選手との試合を続けているが、キャリア初期と比べて、最近の対戦相手の質は、上がっているとは言えない。

NKLプロモーションは元WBC世界スーパーフライ級王者のシーサケット・ナコンルアンプロモーションを有し、またナワポン・ナコンルアンプロモーションをWBC世界バンタム級戦線に送り込んでいたが、コロナ渦もあり、なかなかチャイノイのチャンスは作れずに、これまでずるずると来ていた模様。WBC世界ランキングはこの3年ほど、5位から8位あたりをキープしていた。

そして、決定したグッドマン戦により、チャイノイのキャリアも動き出していく。所持していたWBCアジアスーパーバンタム級王座は返上し、空位となったチャンピオンの座はNKLのポンサポン・パンヤクンがフィリピンのロンメル・オリヴェロスと5月31日に争った。この試合はポンサポンが判定勝ちで新チャンピオンとなった。ポンサポンは24勝(11KO)2敗、デビュー戦は日本で石澤開と戦い、2回KOで敗れている。

ポンサポンがチャイノイ返上のWBCアジアスーパーバンタム級王座を継承

NKLプロモーションはナワポン、ダナイ、アピチェートとメインイベンターを次々と日本や海外に送るのが気になる(いずれも敗戦)が、タイでONEチャンピオンシップやRWSなどのムエタイの盛り上がりと反比例するように、ボクシングが低迷している事情も絡んでいるのではないだろうか。

2年前に取り上げたタイボクシング界のホープのうち、現在残っているのはチャイノイとOPBFライトフライ級チャンピオンのタノンサック・シムシーくらい。目新しいホープは登場していない。このまま、チャイノイがタイボクシング界「最後のホープ」となる可能性もある。

5月10日に"元"ホープ、元WBAアジアスーパーフライ級王者のサーム・タンテレコンはフィリピンで元2階級世界王者のマーロン・タパレスと対戦したが、相手にならず、初回で沈んだ。一時期活動が活発だった、タンテレコンプロモーションは自主興行もなく、所属選手は海外に噛ませに出ている。

元WBA世界スーパーフェザー級王者、ヨーサナン・3Kバッテリーの息子、ジャッキー・リトルヨーサナンはタンテレコンを離脱し、5月30日にハイランドボクシングプロモーションの興行に登場した。ABF(アジアボクシング連盟)スーパーフェザー級王座決定戦に勝利した。ただし、対戦相手のキティパックは決定戦までで3勝3敗(BOXRECデータ)だった。ジャッキーは10戦全勝と無敗をキープしている。

ジャッキー・リトルヨーサナン(Chaiyapong Phongwankittikun)はABFスーパーフェザー級王者で10戦全勝(9KO)

タイ唯一の世界王者・ノックアウト・CPフレッシュマートを有するペットインディープロモーションも、毎月のようにタイの地方で、大手食品メーカー、CPフード社の感謝祭(展示即売会)と抱き合わせでボクシング興行を行っていたが、スポンサーであるCPフード側の経費削減の為か、感謝祭とセットの興行は減っている。ノックアウトは2年も防衛戦を行っておらず、指名戦はタイ国外で行われるだろう。

現在、ペットインディーはボクシング部門よりも、ムエタイ部門のほうが活発に見える。2022年に取り上げた、ペット・CPフレッシュマート(井上拓真とのWBC暫定王座戦に敗戦)は格下を相手に連勝を続けて、現在で75勝(53KO)1敗だが、数字先行で今後は分からない。ゴンファー・CPフレッシュマート(タイで比嘉大吾に敗戦)は、RWS(ラジャダムヌン・ワールドシリーズ)に出場するなどムエタイに転向した。

NKLとペットインディーに並ぶ大手の、TL&ギャラクシープロモーションは新人発掘を主としたThe Fighter Next Generationなる興行を月に1回実施しており、地下格闘技出身の喧嘩屋・ジョーカー(3勝(2KO)1敗)や、スーパーライト級プロスペクト、チャイヤプック・チャイニコムな(10勝(5KO)1敗)などを出場させているが、世界タイトルに届く選手はまだ出ていない。

ギャラクシープロモーションが誇るホープだった19戦全勝のセンアーティット・ルークサイゴンディンは昨年ギャラクシーを飛びだし、WBAアジアスーパーライト級のタイトルも返上、WBA世界ランキングからも名前が消えてしまった。ボクシンググローブメーカーのYOKKAOがプロモートする選手となり、アメリカで現役活動をするとの触れ込みだったが、1年経っても次戦の話を聞かない。

↓ ↓ チャイノイ対モハメドアシクの無敗対決

↓ ↓ チャイノイのキャリア初期のKO集


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?