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ラジャとブアカーオと佐藤、そして三浦孝太

~2022年10月25日のラジャダムナンスタジアム

タイの国民的ヒーローとも言えるブアカーオ・バンチャメックと佐藤嘉洋とのエキシビジョンマッチをメインイベントとした興行が、10月25日にラジャダムナンスタジアムで執り行われた。

ブアカーオは40歳、コロナ渦で2年ほどのブランクがあったものの、この7月のヴァラツ・ドミトリー戦の判定勝ちでの復帰から、8月19日の三浦孝太とのエキシビジョンマッチ、9月3日のベアナックルファイトのBKFCでのバロル戦と頻繁に試合をこなしていた。

対する佐藤は41歳、かつてブアカーオからKO勝ちした星が光るものの、それも2008年のこと。すでに引退しており、エキシビジョンとはいえ、今回が7年ぶりの試合となる。試合勘も戻っていないことが縣念されていた。

現在のラジャダムナンスタジアムだが、コロナ流行初期に観戦者にクラスター感染が起こったことで、相当な批判を浴びせられた運営側は、コロナ明けを想定して大幅なリニューアルを行った。

当日、そのラジャダムナンスタジアムに19時に会場に到着すると、以前とは違った雰囲気に驚かされた。古い建屋はそのままなのだが、中に入ると照明、DJブースと音楽、スクリーンに電光掲示板など、場内は派手に演出されていた。

現在は、運営側はラジャダムヌンワールドシリーズ”RWS”を実施し、幾つかの階級での外国人を含めたトーナメント戦をマッチメイクしている。またタブーとされてきた女性選手の試合も行い、注目を集めている。

この日も女子の試合が組まれており、以前日本のNHKのテレビ番組で特集されたことのある、ムエタイ大家族のルークサイコンディン姉妹が2名出場していた。
※Asia Insight 「ムエタイ姉妹は大家族の誇り〜タイ〜」


このムエタイ大家族の父親はムエタイジム(ルークサイコンディンジム)を主宰し、10人以上いる子供たちがそれぞれが選手となっている。出世頭はボクシングWBAアジア王者のセンアーティット選手で、ラジャの女子試合解禁の1試合目を飾ったムエタイのアイーダ選手も有名どころである。

この日は一家から出場したドゥアンダオノーイ選手はタイのモンゴットペット選手と、サイダニア選手はイランのファエセー選手と対戦し、姉妹2人とも判定勝利を収めていた。

~この日のメインイベント

そこからもさらに2時間、3時間と興行は続いた。以前と比べて国際戦も多いせいか、アグレッシブな試合が多く、派手なKOも見られる。観光で来られた方も楽しめるのではないだろうか。

とはいえ、19時から数えて13試合はかなりの長期戦。(プログラムに記載の9試合以外に、オープニングファイトもあったり)そんな中で、メインイベントのエキビションマッチ3回戦、ブアカーオ対佐藤戦の開始は23時過ぎとなっていた。

ブアカーオ、佐藤のリングへの入場、試合前のワイクルー(ワイクルー・ラムムアイ)から真剣勝負の雰囲気が伝わり、緊張感が走る。

ウソか本当か「佐藤は初回から仕掛けていくらしい」などと事前に情報がファンの間で駆け巡っており、リングの上で何かが起こりそうな気配がする。

ワイクルーではロープに触れながらリングを一周するだけの佐藤に対し、ブアカーオは踊りの中でも散々挑発してくる。佐藤の目の前で「お前を倒すぞ」というような、弓矢をいるようなポーズを繰り返すと、観客がどっと沸く。ワイクルーでも魅了するブアカーオはさすがのエンターテイナーと言えるだろう。歴戦の強者である佐藤は平常心を保って、その挑発を気にもしてない様子が不気味でもあった。

ゴングが鳴らされ、試合が開始されると、佐藤の動きは悪くなく、ブアカーオ相手に何かやってくれるのでは、という期待が膨らんでくる。

長身の佐藤から繰り出される前蹴り、ハイキック、ローも距離が長く、ブアカーオは簡単に中に入ることはできなさそうに見える。それでも、ブアカーオは前蹴りの脚を掴んだり、飛び蹴りを浴びせるなどの攻撃を見せて、突破口を開いていく。ブアカーオは華麗なムエタイの技を繰り出し、佐藤も何とか応戦している。このまま3ラウンド、判定まで見たいと思っていたが、それは1ラウンド2分過ぎだった。

ブアカーオの右フックが佐藤のあごに入り、佐藤はダウン。ダメージは深く、そのままストップされた。あっけない幕切れだが、3階席まで埋め尽くされた観客のテンションもマックスとなっていた。

盛り上がった会場は、時計を見るとすでに23時半を過ぎていた。なかなかのロング興行だが、満員の観衆も満足できたのではないだろうか。

※ブアカーオ対佐藤戦の動画

~ラジャに来場した三浦孝太、ロンポーでのブアカーオとの合同練習

この日の興行の途中で、この8月にやはりブアカーオとエキシビションで対戦した三浦孝太が、リングに上がり、観客に挨拶した。タイでは時の人となった三浦の来場も事前に告知され、またサイン付きグッズとセットとなったプレミアムシートも売り出され、この日の動員の助けになったようだった。

この日をさかのぼること4日前、三浦孝太は、バンコク・ラマ4世通りのロンポームエタイジムに姿を見せ、佐藤戦直前のブアカーオと合同練習を行った。

8月のエキシビションマッチの後で、このロンポージムで親交を深める姿がタイのマスコミに取り上げられたが、その流れで、この日の合同練習実施の運びとなった様子だった。

ブアカーオ”トレーナー”からの、練習前のストレッチ、パンチ、キックの打ち方等の伝授、またファンを大事にするブアカーオが練習の合間に見学にきたファンにサインをすると、三浦にもサインをするよう促していた。

ジムのリング上では2人は軽いマススパーやミット打ちなど、実戦練習を行った。まるで2カ月前のエキシビジョンの様子が目の前に蘇るような感覚を覚えた。練習の後、テレビ局のインタビューに応えたブアカーオは「(現役選手としての)残された時間は少ないが、まだまだムエタイ界を盛り上げていきたい」と話していた。

ブアカーオは、年内は12月9日に再びラジャダムヌンスタジアムで、ウクライナのオレクサンダー・イェフメンコ選手とのエキシビションマッチが組まれている。また来年3月には盟友で同じくムエタイ界のレジェンドである、セーンチャイとのベアナックルムエタイマッチも控えている。

※この日の練習の動画~取材に来られていたTJ Channelさんの動画

※ロンポームエタイジムのホームページ

※Photo credit : RWS- Rajadamnern World Series

https://www.facebook.com/rwsmuaythai


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