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シリモンコン、魂のファイトでWBF世界ライトヘビー級王者に~2024年10月6日、ルンピニースタジアム

かつてプロボクシングで、WBC世界バンタム級、WBC世界スーパーフェザー級の2階級を制覇したシリモンコン・シンワンチャーは、10月6日、ルンピニースタジアムでWBF世界ライトヘビー級王座決定戦に挑み、無敗のオーストラリア選手、マット・フロイドに12回判定勝ち。マイナー団体ながら、47歳で世界王者返り咲きを果たした。

当日、現地でその偉業を目の当たりにした。会場の雰囲気なども併せてここで紹介していきたい。


シリモンコン、マット・フロイドの拳歴

シリモンコンは、WBC世界バンタム級王者として、1997年に来日し、大阪で辰吉丈一郎の挑戦を受けたことで日本でもよく知られるようになった。2002年には両国国技館でWBC世界スーパーフェザー級王座決定戦に出場、長嶋健吾に2回KO勝ちし、王座を獲得、2003年には後楽園ホールでスーパーフェザー級世界王座を初防衛(対崔龍洙)と、日本で3度の世界タイトルマッチを戦っている。

ライト級でアメリカで世界王座挑戦者決定戦に勝利した後は、覚せい剤密売と所持で刑務所に入り、ブランクを作ったが、これまで積み上げたプロボクシング戦績は、98勝5敗と100戦を超える。ここ最近はベアナックルファイトで2戦2勝、ムエタイで1勝と、他の格闘技のリングにも上がっており、ベアナックル団体BKFCタイランドではメインイベンターとして注目を浴び、2022年5月にはパタヤでロシア人選手を下し、BKFCタイランドクルーザー級王者にもなった。現在は実家であるシンマナサックジムでボクサーやムエタイファイターを育て、ジムでの定期興行では、レフェリーなども担当している。

今回のイベントはタイ在住の欧米人(この日メイン出場のイタリア人ファイター兼プロモーター)が取り仕切る、FCC(FIGHT CLUB THAILAND CHAMPIONSHIP)というプロモーションの主催だが、FCCは、これまでのイベントで元WBO世界バンタム級王者プンルアン・ソーシンユ―や元IBF世界フライ級王者アムナート・ルエンロンを起用した。プンルアンもアムナートも、不甲斐ない試合ぶりで結果的に噛ませ犬となった。

日本でもBサイドでリングに上がった、プンルアン、アムナートのように噛ませ犬としてリングに上がるタイの元世界王者のパターンも度々あるが、シリモンコンの場合はそれとは少し異なる。バンタム級やスーパーフェザー級時代と比べて、大きく太った体型は格闘家のそれではないが、毎回きちんと戦える状態に仕上げて、勝ち星を挙げていく。2回出場したベアナックルファイトにおいてはクルーザー級の大柄なヨーロッパ系選手に連勝した。

今回の対戦相手のマット・フロイドは13戦無敗の戦績ではあるが、メジャー団体のランキングにはその名は見掛けず、実力は未知数である。身長は183センチで、ナチュラルなライトヘビー級(79.3キロ)の体格、ここ4試合はFCCのイベントなどで戦っている。

マット・フロイド対シリモンコンはWBFタイトルマッチ

当日のルンピニースタジアム~アンダーカードなど

ルンピニースタジアムで興行が開始されたのは15時、著者が到着すると香港人対タイ人の女子フライ級6回戦が行われていたが、その後が圧巻のプロボクシング7大タイトルマッチ。10回戦で組まれた謎の認証団体UBO(ユニバーサルボクシング機構)のタイトル戦が続く。トルコ対インド、フィリピン対インドなど、タイ人が絡まない試合ばかりが行われていく。トルコ人選手など、赤コーナーはほぼFCC絡みのようだ。

トルコ対インド! UBOインターコンチネンタルタイトルマッチ

毎試合、出場選手の国歌演奏があり、起立を求められる。インド国歌だけでこの日は4回聞いただろうか。試合自体も迫力不足で、10ラウンド判定の試合が連発してなかなか辛いものがある。

プロボクシング9試合、ムエタイ4試合のロング興行、試合順はポスターと代わり、
マット対シリモンコンはセミファイナルに。

応援に駆け付けたレジェンド元世界王者たち

そんな中で、シリモンコンの応援に駆け付けた元世界王者たちはファンの要望に応え、試合中でも構わず、写真撮影や、雑談に応じる。著者もかつてインタビューしたカオサイ氏、ポンサワン氏に挨拶をする。そして、初対面のデンカオセーン氏については、向こうから「俺のこと知ってるか、デンカオセーンだよ」と声を掛けてくれた。「日本人か?坂田知ってる?広島で戦った。あと、名城だ」とかつての日本人の対戦相手(坂田健史、名城信男)の名前を出していた。

会場に駆け付けた元世界王者の面々、左からポンサワン、カオコー、カオサイ、デンカオセーン、
ポンサクレック

トランスジェンダー戦士ペットチョンプーのムエタイファイト

そして、15時から興行がスタートし、19時近くになったところで、ボクシング3試合を残し、プログラムがムエタイに代わると、急に会場の空気も変化する。ムエタイがタイ人を本当に熱くさせるのだろう、元プロボクシング世界王者たち、特にカオサイ氏は立ち上がって、身振り手振りで赤コーナーの選手に声援をおくる。14戦全勝というクワンムアン対15勝2敗のノックノイ戦については、ノックノイの強烈なパンチでのKO勝ちに会場が大きく湧いた。ムエタイプログラムのメインは、トランジェンダー戦士のペットチョンプー対カンボジアファイター(男子)のブートンで、ペットチョンプーの赤コーナー下には、元祖オカマファイターのパリンヤーなどオネエ軍団とカオサイ氏をはじめとする世界王者軍団が陣取り、それぞれが強力な声援をおくる。この応援もなかなかのカオス感があり圧倒される。

ペットチョンプー対ブートンの熱戦は、シリモンコン戦の次に盛り上がった試合
パリンヤーが引き連れたオネエ軍団と元世界王者たちの応援、白いポロシャツはカオサイ氏
元祖オネエ・ムエタイ戦士、パリンヤーがプロモートの女子ムエタイ+トランスジェンダー対男子のムエタイプログラム
ペットチョンプーは高身長、首相撲からのヒザ攻撃で完勝

シリモンコン登場

ムエタイ4試合で500人程度の観客が盛り上がったところで、ボクシングに戻り、IBO女子世界フライ級タイトルマッチが行われ、その次がようやくマット・フロイド対シリモンコン。両者がリングに上がる頃には、時計は既に21時を超えていた。これまで赤コーナー側のリングサイドに陣取っていた元世界王者たちは、全員、青コーナー側に移り、立ったまま”仲間”のシリモンコンに声援をおくる。

格闘家の体型ではないシリモンコンだが、、

試合が開始されると、183センチのマットはヒットマンスタイルで長い距離から左ジャブを突いて、右ストレートに繋げる。シリモンコンはマットのパンチをよく見ており、ブロックし、時には掻い潜って顔面への右フックを見舞う。右フック、左ボディのコンビネーションはスピードがある。

体格差があるリング上の2人

シリモンコンは手数は多くないが、マットの強打を防いでの右フックなど単発をちょくちょく当てていく。元々のウェイトの違いもあって、効かせるまでには至らない。シリモンコンはリングの業師のようで、その戦いぶりに引き込まれる。

マットがシリモンコンを攻めきれないままラウンドが進む
シリモンコンの左ボディ

4回、ブレイク際にシリモンコンの右フックがクリーンヒット、打ち合いになるもパンチをほとんどもらわないシリモンコン。眼が良い。
6回、いきなりの右が有効、右カウンターを逆にもらうシーンもあった。
7回、左でシリモンコンを押さえつけてアッパー連打のマットにレフェリーが注意。
8回、シリモンコンの右フックがマットの顔面を捉える。揉み合いになるも押し負けないシリモンコン。
9回、マットのホールディングについに減点が課される。
10回、シリモンコンが飛び込んでの左ボディがきれいに決まる。
11回、右フックが再三マットを捉える。

マットのパンチがシリモンコンを捉えることも

危険なマットのパンチを外しながら、コツコツと右フックを中心に有効打を当てる作業を12ラウンドに渡って続けていくシリモンコンの集中力は、達人の技のように感じた。一発でもマットのパンチをまともに喰らったら、ジ・エンドとなる。

12回、勝利を確信した観客や青コーナーの元世界王者たち、シリモンコンのサポーターからも大きな声援があがる。魂を魅せるような試合ぶりでシリモンコンが12回判定勝ち、WBF世界ライトヘビー級王者となった。採点は117-110、117-109、 113-114と2-1に分かれたが、シリモンコンの完勝と言って良いだろう。マイナー団体WBU世界スーパーフライ級王者となったのが19歳、47歳でWBF世界ライトヘビー級王者ということで、4階級制覇ということにもなった。

試合終了ゴングと同時にニュートラルコーナーに駆け上がり勝利アピール
勝者コールに雄たけびをあげるシリモンコン
ファミリーや元世界王者たち(カオサイ、ポンサワン、ポンサクレック)と記念撮影

リング上の勝利者インタビューで「できなくなるまで戦い続けたい」と語ったシリモンコン、このnoteでも今後の彼の戦いを追いかけていく。

↓ ↓ マット対シリモンコンの動画

↓ ↓ マット対シリモンコン含む全試合動画


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