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どうして空は青いのか?

子供の疑問シリーズとしてベタな話題で、誰かが既に書いていそうだけど、考えて書く練習として記事にする。それほど空の青さに興味ない人は、目次の「1.」~「3.」を読み飛ばして最後だけ読んでいただければ幸い。

素朴な疑問ほど学問を横断する

「空はなぜ青いの?」を検索すると出てくるのは、「波長が短いほど散乱が強くなる」みたいな物理学からの説明である。コッソリ検索して「これが模範解答だ!」と言って疑問をおさめる。

...でも説明として不十分ではないか?と私は思っていた。だいたい巷の説明は下に挙げる「1.」「2.」に注力していて、「3.」は無視している。

1. 太陽の光はどんな性質を持っているのか?
2. 太陽の光が地球の空気に触れると何がおきるのか?
3. 地球の空気に触れた太陽光が目に届くと脳で何がおきるのか?

「パパは工学で学位とったので心理学の事はよく分からないんだ」でよいのか。学問として縦割りになっているのは大人の都合で、単純な疑問ほど横断的な教養が必要になることは伝えていきたいなと思う。問いに対する答えはこちら。

1. 太陽の光はいろんな波長の光が合わさっている
2. 太陽光が空気に当たると波長の短い光ほどレイリー散乱しやすい
3. 視覚神経は紫より青に感度が高く、脳に届くと青い質感覚が湧く

1. 太陽の光はいろんな波長の光が合わさっている

まず「1.」からやっつける。目に見える光も、スマホの電波も、健康診断のX線も波長が違うだけでどれも「電磁波」だよという話である。

1-1. 光は波の性質を持っている
1-2. 光は波長と強度によって特徴づけられる
1-3. 太陽光は長い波長から短い波長までの光が合わさっている

1-1. 学ぶうちに「粒」でなければ説明が付かない現象も出てくるけれど、今回の説明では「波」をイメージすることが役立つ。一端を柱にくくりつけた縄跳びのもう一端を持って揺らすように、ゆらゆら揺らせば波長の長い波が、小刻みに揺らせば波長の短い波が伝わってゆく。波は重ね合わせることができる

1-2. 太陽光にさまざまな波長の光が重ね合わせられている。それぞれの波長の光のどれだけの強度を持つのかは、太陽の高温5500Kから発せられる黒体放射のパターンを持っていて、Wikipediaに載っている「太陽放射スペクトル」のグラフが参考になる。この中に目に見える可視光線(380~780nm)も含まれていて、波長の短い方から紫・青・緑・黄・橙・赤のような虹色が並んでいる。

1-3. ピンクフロイドのジャケ写で見たことあるやつ。もともと虹色が合体して白色光になっているのがプリズムに通せば分解でき、再度合成すると白色になることが実験で確かめられている。

2. 太陽光が空気に当たると波長の短い光ほどレイリー散乱しやすい

この節は「空が青い理由」を調べると模範解答として挙げられる話。

2-1. 太陽光が地球の空気に当たるとレイリー散乱がおこる
2-2. レイリー散乱の強度は赤色よりも青色(短波長)の方が強い

2.1. レイリー散乱は「光の波長よりも小さいサイズの粒子による光の散乱」であるという説明通り、可視光線(380~780nm)に対して空気中に含まれる窒素(0.36nm)や酸素(0.35nm)は確かに小さい。

2.2. 「散乱強度は入射光の波長の4乗に反比例」するのがポイントで、赤色(625~780nm)と比べて波長の短い青色(450~485nm)の方が散乱が強い。赤色は空気を素通りするのに、青色は四方八方に散乱してその光が目に入るから空は青いというお決まりの説明になる。

ここで生まれる疑問は、青色よりも紫色(380~450nm)の方がレイリー散乱が強い筈なのに、なぜ私たちは「空は紫」ではなく「空が青」と言うのかということ。物理的な性質と人間の知覚についての話は切り離せないので「3.」につづく。

余談:白い雲や赤い夕陽の説明

ここまで理解できると、他の「どうして○○は△△色なの?」にも応用がきく。雲が白い理由は「ミー散乱」を調べるとよいだろう。

夕日が赤い理由については、空気の層に対して斜めから光がさすと、地上に届くまでの空気の層が長くなることと関係する。空気の層が短ければ地上に届く青色が、空気の層が長すぎるとあらぬ方向に散乱して地表まで届かないため、レイリー散乱の影響を受けない赤色だけが目に届く。

日中も夕日も赤色の強度は同じなのに、他の色が目立たなくて赤色と感じる。なんだか、日本酒の辛口は「甘い成分が少ない」ため相対的に辛く感じる話みたいだなと思う。

さきほどの「空は紫じゃないのか問題」も、昼間に通る空気層の厚さがちょうど青色の散乱光を通すのにちょうど良くて、紫は散乱が強すぎて届く量が減るというのはあるだろう。

3. 視覚神経は紫より青に感度が高く、脳で青い質感覚が湧く

物理の世界に「赤色の光」なんてものは無く、「波長625~780nmの光」と言ったところでピンとこないので、「赤色」と呼んでいるだけの話である。人間の目でセンシングして脳で処理した結果として、初めて「赤い」という感覚質が生まれる。

この節の話題は、空気にぶつかったレイリー散乱光(~485nm)を紫ではなく青と感じるのは何故かについて、目と脳の働きから解き明かそうとする。

3-1. 人間は青・緑・赤の3種類の錐体細胞で色を区別している
3-2. 青色に反応する錐体細胞が刺激されると「青い」質感覚が生まれる

3-1. 人間の視覚は3種類の錐体細胞(青・緑・赤)と桿体細胞(暗いところで見る)によって光を捉えている。Wikipediaリンク先にもグラフがある通り、紫の光によって青と赤の錐体細胞が反応するのだけど、端の方になると強度が弱い。だから、物理的には青と紫の両方を含んでいても、センサーの性能として青が優位に働くと考えている。

3-2. はいわゆる「クオリア」の話。空を見ると湧くあの「青い」感覚がどこからやってくるのかは、まだ解明に至っていないハードプロブレムである。私が空を見て感じる青さは、きみの心の中に沸く青さと同じだと言えるのだろうか。知らんけど。

分かっていないことを説明に挙げないのではなく、分かっていないなりに「こういう議論もあるんだ」「すべての疑問に答えが用意されている訳ではないんだ」ということは示してゆきたいと思う。

一番の問題はどうやって説明するか

冒頭で「書く練習」と言ったのは、バーバラミント先生の「考える技術・書く技術」を意識しながら書いたつもり。

これを読んだ頃は読了した本の内容の要約メモを描いていて、今見ても内容がうっすら思い出せる。今回は「どうして空は青いのか?」についてキーライン1.~3.まで挙げて、それを個々に掘り下げて書いた。意味のあるタイトルを付けるような配慮はしたつもりだけど、キーラインから演繹の連発なので読みにくいかもしれない。

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子供が疑問を持った時にどう答えるかで言えば、ピラミッドを網羅する必要は無いと思う。お品書きとして「1.」~「3.」の論点があることを示して、物理と心理のどちらに関心があるのかが引き出せたら、答えを示すより意義があるのかなと思っている。

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