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タイムラインが人気銘柄で埋まる現象の分析と応用

Facebookグループに参加して感じた疑問「日本酒会に流れてくる銘柄って偏ってないか?」を掘り下げつつ、データからSNSマーケティングのTIPSを導こうという自由研究。

日本酒会に流れてくる銘柄の偏り

ここ最近、Facebookの「日本酒会」に参加している。メンバーが2万人程度いるため、活発に投稿が飛び交う。気軽に飲み歩けない昨今でも、おうちの中で日本酒の情報収集ができてよい。

しばらく潜入してみて、「人気銘柄の投稿ばかり流れてくるなぁ」という感想を持った。「人気なんだから投稿が多くて当然じゃないか」と言えばそれまでだけど、やっぱり偏りを感じる。

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日本酒をつくる酒蔵は1,400以上、銘柄にして1万以上あると言われていて、私が知らない世界はまだまだ広がっている。素敵な偶然に出会いことセレンディピティを期待するところなのに、タイムラインで流れてくるのは「而今」「新政」「十四代」「飛露喜」などの人気銘柄に偏っていると感じる。

集計すると隠れた投稿に気付いた

仮説は検証されなければならない。もしかすると自分の知っている銘柄ばかりが印象に残るバイアスのせいで、私自身が「人気銘柄に偏っている」と錯覚している可能性だってある。数字で示すべく定量分析を試みる。一気にデータを抜く方法が見当たらないので、日付順に投稿を並べて、目視画像判定も交えて「投稿日時」「銘柄」「イイネ数」を集計した。

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投稿を分析して気付いたのは、投稿そのものは50~100件/日くらいあるのに、タイムラインで目にするのは十数件/日くらいの人気投稿に絞られていたということだった。

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確かに考えてもみれば、グループ投稿が全件流れてくると友達の投稿が埋もれてしまい、SNSとしての居心地が悪くなってしまうので当然の措置だろう。Facebookはリアクションが多い人気投稿を選択的に表示しているのだ

<独自集計ルール>
・集計期間2021/5/14~2021/5/19までの投稿432件を対象とする。
・リアクションが落ち着くであろう投稿から24時間経過後に集計した。
・1投稿が1銘柄を代表するものと仮定して、「文章で最初に現れる銘柄」>「先頭の画像に現れる銘柄」>「画像内で左にある銘柄」の優先順で選んだ。
・銘柄の集計ではなるべくブランド名を選ぶようにした。特定名称種(例:純米吟醸、大吟醸)、製法(例:ひやおろし、生酛)、原料名(例:山田錦、愛山)が大きく書かれていても惑わされないぞ。

集計には私の匙加減による曖昧さが残る。「陽乃鳥」と「亜麻猫」は「新政」でまとめるのが適切な気がしたり、「仙介」と「琥泉」を「泉酒造」と呼ぶのは違和感あったりする。たぶん、人工知能の開発最前線の人達も、華々しいイメージとは裏腹に教師データつくるために地道な手作業をやっていると思う。知らんけど。

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余談ながら、地道な入力はメンドクサイ集計作業なのに、むしろ「こんな銘柄があったのかぁ」という発見が多くて為になった。投稿に漏れなく目を通してみたことで、ようやくセレンディピティが感じられたのは面白い。

銘柄に対する投稿数とイイネ数の関連をデータで示す

最初に、検証したいことと言葉遣いについて整理する。

検証したいこと:①人気銘柄の投稿は②人気投稿になりやすい。
①人気銘柄:投稿件数が多い日本酒の銘柄を人気銘柄と呼ぶことにする。
②人気投稿:イイネ数が多い投稿を人気投稿と呼ぶことにする。

まずは432件ある投稿全体に対するイイネ数の分布をみる。計算したところ、1投稿あたりの平均イイネ数は51.3なのに、標準偏差は56.4もあってバラツキが大きい。中央値は33で、一部のバズった投稿が平均を引き上げている。Facebookが人気投稿の表示頻度を高く調整することで、さらにイイネを集めて人気投稿になる正帰還になっていることで説明がつきそう。

「イイネ数」のヒストグラム

①人気銘柄を把握するため、投稿数トップ20の銘柄を抜粋した。私の思う人気銘柄イメージとも合っている。②人気投稿との関連として、隣の列に平均イイネ数も併記した。トップ10銘柄のうち9銘柄は平均イイネ数56.4を超えているので、①人気銘柄の投稿は②人気投稿になりやすい雰囲気は感じられた。

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ただし、相関係数は0.35程度なので「綺麗な相関」とは言えない。ソガペールなどは投稿しようにも入手困難だけど、いったん投稿すればイイネが付くので、相関から外れる方向に働く。他にも単独でイイネを集める銘柄がちょくちょく現れるので相関は出にくい。

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①人気銘柄を左から順番に並べた投稿件数のパレート図を書いてみると、意外といろんな銘柄がまんべんなく投稿されるロングテールとなっている。432件の投稿で253種類もの銘柄を網羅している。

銘柄に対する投稿件数のパレート図

②イイネ数との関係を可視化するために、投稿件数の累積比率(青)に対して、イイネ数の累積比率(赤)を重ねて書き込んでみた。イイネ数の赤グラフが上にあることから、ニハチの法則まではいかないまでも少ない人気銘柄にイイネが集中する傾向は読み取れる。

銘柄に対する投稿件数のパレート図

イイネを集めるような②人気投稿をFacebookがキュレーションする想定から、各日のイイネ数トップ10投稿を抜粋して、①人気銘柄トップ20を黄色で塗って比較してみる。5~8割を占めていて、私が感じた「人気銘柄に偏っている」が可視化できている。

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オマケの分析で、投稿時刻ごとの投稿件数・イイネ数平均のグラフを描いた。日本酒を飲むタイミングであるアフターファイブに投稿が集中するのは自然なんだけど、たくさんの投稿の中に埋もれやすい。イイネ数が伸びる投稿時間としては、通勤時間帯やお昼時まで待って投稿するのが狙い目かもしれない。

時刻ごとの投稿数と平均イイネ数

サンプルが少ないので、たまたま人気投稿を連発する人の活動時間帯が現れているだけの可能性もある。このあたりは自分で試して検証するしかない。

人気銘柄のリアクションが増幅されるメカニズム

人気銘柄ばかりタイムラインに頻出する現象について、たぶんこういうメカニズムなんじゃないかという仮説を立てる。

1. 投稿を見た人は、自分が飲んだことある・知っている・憧れている銘柄に対してリアクションを付けやすい。
2. SNS側は投稿を少人数に試しに表示して、リアクションの多かった投稿を「皆に見せる価値がある」と判定して表示頻度を高める。
3. 表示頻度が高い投稿は、さらにリアクションを貰うチャンスが増える。埋もれる投稿と二極化する。
4. 折角ならリアクションが付いた方が嬉しいので、投稿者は試行錯誤するうちに人気銘柄を投稿するようになる。

1. は自分の経験則によるもので、冒頭で「セレンディピティを求める」とは言ったものの、反対に「慣れ親しんだ銘柄を求める」のもある。ライヴで聴き込んだ曲やってもらえると嬉しいような気持ちに近いかもしれない。

2. はインスタで言われている内容ながら、他のSNSでも情報過多で埋もれるとユーザーが離れるので、イイネ評価されそうな投稿を選んで見せるのは自然な発想だと思う。
肌感覚ながら、繰り返し投稿しているとイイネ数が増えることもありそう。スパム避けのような意味で、人に対する信用スコアみたいなのが裏にあるのかもしれない。

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1.と2.の合わせ技により、小規模なABテストで人気銘柄にイイネが集まると、3. の表示頻度が高まることでさらにイイネが増幅される。2chでいう「age」みたくコメントで浮上したりもする。逆に、誰からもageられない投稿はsage続けられて埋もれる二極化がおこる。

4. は「価値観なんて人それぞれ」ながら、SNS投稿する人の本質的な欲求としてリアクションを求めるだろう。話題の銘柄を飲んだことを人に言いたい気持ちも湧くだろう。発言の影響力を高めるために、人気銘柄の威を借ることもあるだろう。

そういうものと知った上で役立てようとする

人気銘柄の投稿にはイイネの正帰還が働いて増幅される説について述べた。誰もがフラットに情報発信できる時代になると、多様な情報が入ってきそうに思えるところ、実際は場の力学によって絞られた情報が届く。このことを知った上で情報と接することが必要なのかなと思う。

弊害で言うと、本来の実力(そんなものが定義できるかはさて置き)を上回る需要が生まれて、無駄に価格高騰や品切れが起きそう。業界全体にとって良くないこともある。

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「場に働く力学が解き明かす」という理学っぽい観点とは別に、「それを使って何の役に立つの?」という工学っぽい観点で考える。Facebookグループをメディアとして活用するとしたら、次のようなことがテクニックとして役立つのかなと思う。

・いかにも宣伝っぽい内容ではなく、そこに居る人にとって価値ある情報や愛される情報を発信する
・売り込みたいものを紛れ込ませる時にも、人気銘柄などのリアクションを集めやすい要素を取り入れて人気にあやかる
・投稿直後の初動でリアクションを得るために、閲覧者に合わせた時間帯の投稿と、組織票でリアクションを付ける工作をすると伸びそう。

これは2万人のFacebookグループから導き出したTIPSであって、千人程度のグループだとまた話は変わってくるだろうし、プラットフォームによって変わる事情もあるだろう。それでも、デジタルマーケ全般で成り立ちそうな要素だと思う。

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