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50代からのグレーゾーン(第14回)

ある日、図画の授業で「松の木」を描くことがあった。どんな授業があったかなど、忘れてしまっているが、その時の課題だけは覚えている。
低学年は、担任が音楽以外の全教科を受け持つため、図工の専任はいなかったのだろう。昼休み前の授業が図工であり、松の木を写生するのだが、終わった人からお弁当の準備を始めて良いとのことだったように記憶している。
皆そつなく描き終えて、机を動かしてお弁当の準備を始めていた。
私は描き終わらず、仕方がないので松の葉をひと塊りずつ楕円にして塗りつぶして先生に見せた。
どうやって描けば良いのかわからなかったのだ。
先生は「これじゃダメよ。松の葉をちゃんと描きなさい」と言った。それから、皆がお弁当を食べている中、松の葉を一本一本描くのだが、途方もない数の葉を描ける気がしなくて、とても焦った。何度見せてもダメと言われ、教卓と机を何度も往復した。
ついに私は泣き出して、その先は覚えていない。
今にして思えば、全員が松の葉を一本一本描いたのか、疑問に思う。たまたま私がその日の標的になったのかもしれない。

また、別の日、隣の子と小テストの答案を交換して、丸付けをすることがあった。
私は、大人っぽい丸を描いたつもりだったが、先生の目にはそうは映らなかった。
私が丸付けをした、隣の子の答案用紙をつまみ上げ、全員に「この子は、隣の子が自分より点数がいいことを妬んで、こんな汚い丸を付けました」と、披露したのであった。
点数がいいとか悪いとか、そんな事考えもしなかったのに・・・。理解に苦しんだ。

しかし、私への風当たりは毎日悪いわけではなかった。前々回に記したように、毎日廊下に立たされて、授業もろくに受けさせて貰えない女の子がいた。立たせる理由など、その先生は幾つでも思いつくらしく、窓の向こうの廊下に立たされる彼女の後頭部を一日中見ていることも珍しくなかった。
廊下に行きたくないとごねると、女教師は彼女を扉に向かって突き飛ばした。倒れた彼女の背景にオルガンがあったのが、私の脳裏に映像として残っている。
2年か3年の時、ついにその女の子は学校を変わるため退学した。もちろん、女教師はお咎めなしである。
私は、その女の子と同じ方向に住んでいたので、よく一緒に登下校していた。
そのせいか、その女教師は私に「どうしてあの子は学校を辞めてしまったのかしらね?」と尋ねてきた。もはや、ホラーである。

私は子供ながらに、人を恨むという気持ちを知った。

次回に続く・・・

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