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【平成中村座】小倉城公演レポ(11/1夜の部、11/2昼・夜の部)|第三世代が大活躍!

11月1日(水)から11月26日(日)にかけて、福岡県北九州市小倉にて『平成中村座小倉城公演』が行われています。

■特設サイト:平成中村座小倉城公演|博多座公式

私は初日夜の部、二日目昼・夜の部の計3公演を観に行きました。二泊三日の観劇遠征についてはこちらの記事にまとめましたので、よろしければあわせてご覧ください。

気付いたら千秋楽も間近……。観劇からずいぶん日にちが経ってしまいましたが、感想をつづっていきます。なお私は平成中村座の若手組(橋之助さんらがおっしゃるところの第三世代)贔屓なので、彼らへの言及が多めです。そしてめちゃめちゃ長いです。よろしければお付き合いくださいませ。


平成中村座が特別である理由

2020年から歌舞伎を好きになった私にとって、はじめての平成中村座は昨年の浅草公演でした。虎之介が長吉をつとめた『角力場』や有吉佐和子作の『綾の鼓』、若手による『対面』……各演目はおもしろく拝見したのですが、平成中村座そのものにそこまでの魅力を感じてはいませんでした。

火がついたのは、今年5月の姫路城公演でのこと。

劇場前、長屋越しの姫路城

後援会枠でチケットを確保し、昼の部を1列目上手側通路横で観られることに。これがすごかった……。平成中村座は小屋も小さければ舞台も低く、役者との距離が近い。『播州皿屋敷』では虎之介が自分の目の前に倒れ込み、そんな虎之介越しに見えるのは刀を手にした橋之助。続く演目『鰯売恋曳網』では舞台の背景が開くと、晴天に真っ白な姫路城が映え、そこに勘九郎・七之助お二人の姿が重なり……あまりに美しく、泣きそうになったのを覚えています。

役者の姿やたたずまい、舞台上の景色は、どの場面を切り取っても絵になるような美しさ。その光景が、自分の目の前で変化していく。歌舞伎の舞台は、現実と地続きの非現実な空間といった印象があって、そんなところに魅力を感じています。

平成中村座では、それを芝居小屋ならではの距離で味わえます。なんなら役者は客席に降り、現実と非現実の境界をこえてきます(余談ですが、吉田修一『国宝』でも“垣根をこえる”ことについて描写があったのを思い出しました)。以前小劇場によく行っていたころ、自分が第三者なのか当事者なのかわからなくなる、その感覚に魅力を感じていたのを思い出します。

2階からおさめた中村座。
舞台と客席の近さが伝わるでしょうか

そんなわけで平成中村座に目覚めた身としては、今回の小倉城公演、非常に楽しみにしていたのでした。

昼の部(11/2(木)2日目・松席)

公演概要

演目は『義経千本桜 渡海屋・大物浦』『風流小倉俄廓彩』。公演時間は11時から13時45分まで。演目の間に1回の休憩があります。

チケットは中村屋後援会枠で松席を購入。1列14番、いちばん上手の席でした。

1列14番からの見え方

最前だと足を伸ばせるし、さらに端なので後ろを気にせず正座もできる。着物を着るのであぐらがかけず、この公演中、座り方の正解を探っていました。結果、腰紐が食い込まずに済むので、ベストアンサーは正座と判明(ただしできる座席は限られる)。

義経千本桜 渡海屋・大物浦

前回本演目を観たのは歌舞伎座・仁左さま一世一代の知盛でした。碇をかかげて海に身を投げるときの、あの迫力たるや。

勘九郎さんの知盛も七之助さんの典侍の局も、その覚悟が伝わってくるようでした。あんな芝居を毎日するって、どれだけ大変だろうと思います。

平成中村座の場合、花道横はもちろん、正面であっても表情が細部まで見えます。客席との距離が近い分、舞台上の緊張感もそのまま伝わってくる。そういう空間で観る古典は、また違う味わいがあるように感じました。

風流小倉俄廓彩

20分程度の舞踊です。七之助さん、新悟さん、鶴松さんら芸者衆の艶やかさ! 七之助さんの着物には波が描かれていて、八掛にも柄があって素敵でした。新悟さんの青の着物もよくお似合い。あとお三方とも博多帯を締められていて、それがなんとも粋でかっこよかった。

花道を歩いてくる鳶頭たちも、なんとまあ色っぽいこと……! 不思議なもので、勘九郎さん・亀蔵さんらと若手組とで、色気の種類が異なるように思います(どちらも魅力的には違いない)。

この演目は観客も参加しつつ、ひたすらに楽しい雰囲気。お家ごとの踊りもあり、きゃー!と歓声をあげたくなるくらいでした。

個人的には、虎之介さんがちょうど目の前にこられてハッピー。カーテンコール後、客席に手を振る虎之介さんに全力で手を振り返しました。

夜の部(11/1(水)初日・松席)

公演概要

演目は通し狂言『小笠原騒動』の序幕から大詰。15時30分開演の19時30分閉演で、2回の休憩を挟みます。

チケットは中村屋後援会枠で松席を確保。7列3番、花道近くの座席でした。7列といっても平成中村座なので、正面もまあ近い。花道は真下から役者を見上げる勢いで近い。

7列3番からの見え方

演目自体、拝見するのははじめて。橋之助さん念願のお役ということは頭に入っていました。橋之助さんのPodcast『中村橋之助のカルチャー幕見席』鶴虎ゲスト回が好きで繰り返し聴いているのですが、そこでも触れられています。

演目の感想

悪役を演じられる勘九郎・七之助のお二人は、登場から大物感がとてつもない。とんでもない悪であることが伝わってきます。さすがの存在感です。

二幕目では美しい鶴松さんが登場。鶴松さんの女方って何度見てもはっとします。目元が涼やかで、鼻がすっとして、口元が上品で……(『相生獅子』しかり『天守物語』しかり、特に七之助さんと並ぶと、七之助さんはその美しさが、鶴松さんはその可愛らしさがより際立つように思います)。歌之助さんとのコンビも素敵。聡明で美しいお二人という印象です。そこに登場する虎之介さんのお早も、おしゃべりでかわいい。

いよいよ橋之助さんの良介が登場したかと思えば、姫路公演に続き、橋之助に斬られる虎之介という構図に。斬られる前のひととき、お早と良介の掛け合いが笑いを誘います。このときお二人が真横にいらして幸せでした。他の劇場でこんな距離で拝見することはないので……。橋虎コンビもなかなか好きです。お二人で『傾城反魂香』いかがでしょうか。怨霊つながりで『色彩間苅豆』なんかも素敵だと思います。

最後は舞台の背景が開き、夜の小倉城が出現。小倉祇園太鼓が披露されるなか、花火があがります(なお翌日の公演では花火の演出はありませんでした)。役者陣の目線の先に、勘九郎・七之助のお二人が現れる様子がなんとも幻想的でした。

見どころだらけの本演目、どの役者も素敵でしたが、やはり成駒屋三兄弟に大拍手をおくりたい。橋之助の良介、福之助の小平次、歌之助の隼人、それぞれ本当に魅力的でした。成駒屋の自主公演『神谷町小歌舞伎』でも思いましたが、お三方はお似合いになるお役が異なるのがいいですね。それぞれのお役が公演を重ねてどう変化したのか、千秋楽公演をぜひとも拝見したかった。

夜の部(11/2(木)2日目・桜席)

公演概要

初日に続き2回目の観劇。何気なく残席情報を見たら桜席が余っている……ということで一般でチケットを確保。桜席は幕の内側に設置された2階席で、公演前後も幕間も舞台上を見ることができます。ここからの写真撮影は控えるよう案内が貼られていました。

座席は上手側、R1列5番。思ったより舞台上に近い。手すりが邪魔になる場面もあるけれど、2回目であれば大して気になりません。

演目の感想

良介住家が舞台である三幕目、舞台の転換中に良介の妻・おかのを演じる新悟さんが子役と登場します。子役の子は緊張している様子(そりゃそうだ)。その子の背中をぽんぽんとして、緊張をほぐそうとする新悟さん。素敵。

さてこの三幕目、良介住家ということで、床に畳がテープで固定されています。上演中、そのテープが役者陣の足裏にひっつくうちにめくれ上がり、なんと橋之助さんの足に絡まってしまうという場面が。上から見ていてハラハラしたのですが、目立たないタイミングでさっとテープを引き剥がす橋之助さん。そんなことには気づいていないかのごとく良介を熱演。かっこよかったです。

そんなハプニングがあった一方で、この場面は二回目のほうがぐっときました。家族のためと思ってしたことが家族のためになっていなかった、それどころかさらなる不幸を招いていた……良介、悲しすぎます。橋之助さんが良介を魅力的に思うのも、この場面を通して理解できた気がします。

四幕目の水車小屋は、桜席だと屋根上での立廻りを橋之助・福之助と同じ目線で楽しめるという。よりハラハラしました。立廻りのあと、舞台がまわって福之助さんがセットの裏側に。おそらく桜席からしか見えていないと思うのですが、その間も小平次を演じられていて驚きました。

大詰は立廻りでびしょ濡れの舞台から屋敷への転換。上手側には七之助さんが登場。お美しい。桜席をぱっと見上げられた瞬間があったんですが、射抜かれるようでドキッとしました。鶴松さん虎之介さんも下手側に登場。この間、幕の向こうの客席側では祇園太鼓が披露されて賑やかなのですが、舞台上のお三方には緊張感が漂っていました。

さて公演終了後、役者陣は各々桜席に向けて手を振りつつ去って行かれました。みんなにこにこしていてかわいかった。成駒屋三兄弟は愛嬌のかたまり。良介からの振り幅で橋之助がかわいいよー。鶴虎の二人は舞台上でしばらくにこやかに話されたのち、手を振りつつ舞台をあとにされました。

そしてこの公演では、転換中の様子を観られたことにも感動。水車小屋の屋根にスタッフさんが乗って確認したり、水浸しとなった舞台を片付けてあっという間に屋敷を作ったり……転換中ってけっこう声が聞こえるなあと思っていたのですが、とても声かけなしでできる内容じゃありません。納得。一日目は花道横で、翌日は裏側も含めて拝見するという、なかなか贅沢なことを経験しました。

平成中村座地方公演の楽しさ

小倉城公演もあとわずか。歌之助・鶴松も復帰されて何よりです。休演は誰よりもご本人が残念だったでしょうし、今回隼人代演が実現されなかった虎之介さんも悔しかったのではないかと……。いつか虎之介隼人も見てみたいものです。

私は歌舞伎以外の目的で遠征することもたびたびあるのですが、その場合、公演は公演、観光は観光で、まったく別の思い出として記憶されます。それが平成中村座目的の遠征だと、公演自体が旅行の記憶として残るから不思議です。移動式の芝居小屋で、長期間公演をするという前提があって、地域が中村座を歓迎する。街全体に中村座の気配があって、遠征組も大変楽しいんですよね。

街中の至るところで幟を発見

ということを考えているうちに、今週なんと『名古屋平成中村座 同朋高校公演』開催決定のお知らせが。鶴虎参加の『弁天娘女男白浪』なんて観ないわけがないし、七之助・鶴松の『二人藤娘』だと……?

さらに勘三郎十三回忌追善公演である『猿若祭二月大歌舞伎』の詳細も公開。『野崎村』のお光が鶴松。涙が出ます。来月の歌舞伎座『天守物語』について、勘九郎・七之助が「(玉さまが亀姫を演じるので)鶴松が外された」と冗談まじりにおっしゃっていましたが、まさかこんな展開が待っていたとは。しかも久松は七之助。七之助さんの立役のお姿が大変に好みなので、ちょっとこれはたまらない。

話はそれましたが、できることなら1か月小倉に滞在して見届けたかった小倉城公演。みなさまにとってよい公演となりますように、東京から祈っています。

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