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タトゥーの女

「遅くなってごめーん」
集合時間から30分遅れて申し訳なさそうな顔をして僕の前に現れたのはC子だった。
C子はラインの返事が遅かったからダメ元でご飯に誘ったらOKを出してくれて、日程も直近の空いているところですぐに決まった。
だらだらとラインするよりも直接会って話したい派だという。
容姿は背が155cmほどで雰囲気が矢口まりに似ている。

「お店どこにしようか?」
とお互い店はその場で決めればいいよねとなり、集合してから探して入ることにした。

「ここの複合ビルにたくさんお店あるからそこで決めようか」
と全く人目を気にせずC子は言う。
この潔さに僕は少し驚いた。人目を気にする必要がないくらい旦那と関係が終わっているのだろうか。
集合場所も人が多い大きな主要駅だった。

なのでC子とは会う前にほとんどやりとりをしていないから事前情報が全然ない。
ビルに入って何軒か店を見たあと、ここにしようと二人の意見が一致した店に入った。

「早くビールが飲みたーい」
とC子が上着を脱ぐ。
上着を脱いだC子の服は肩が露出していた。
僕はそのエロさに一瞬テンションが上がったがすぐにどん底へと突き落とされた。

彼女の肩にはタトゥーが見えていた。
会う人を間違えた。と僕は今更後悔してしまった。
「ビール2つください」
だが、ここで過剰に反応してはいけないと思い、平静を装いながら飲み物を注文した。
なぜか話したら負けだと思いタトゥーにもあえてふれなかった。

タトゥーが入っている女性と会うのは初めてではないが人妻となると話は別だ。
彼女と結婚したということは彼女の旦那はタトゥーが入っていても受け入れるほどの人だ。万が一僕ら二人が一緒にいるのが見つかったときにはどうなるのだろうか。
とコンクリート詰めにされてどこかの湾に沈められている自分の姿が一瞬頭をよぎる。

早く帰りたい思いと一体この女性はどんなバックグランドを持っているのか?と知りたい思いが僕の中で交錯する。
「ごめんねぽちょのこと全然知らないから色々聞いてもいい?」
ビールが運ばれてきて乾杯したあとに可愛らしく彼女は聞いてきた。
そのあどけなさが意外にもギャップで僕は不意打ちをくらった。

もしかしたらこの人は僕の想像している人と全然違うのかもしれない。
「じゃあ俺も色々質問するね」
と軽く自分について自己紹介をしたあとに僕も恐る恐る質問をした。

「C子全然人目気にしないけど旦那さん大丈夫なの?」
と僕はビビりながらも少し厳しめな質問から始めた。

「うちは旦那がオーストラリア人で旦那の友達もこっちにいないから全然大丈夫。しかも今彼は一人暮らし中だしね」

色々突っ込みたいところはたくさんあったが、とりあえず、外国人だとタトゥーにも寛容なのかな?と僕は納得した。
同時に外国人の方が不倫に対して激高するイメージがあったので、今度は僕が旦那に胸ぐらを掴まれて殴られているシーンが僕の中で出てきた。

もう少し詳しく聞いていくと、C子は子供が3人いてしかも20歳で授かり婚をしたという。
「親にあなたなにしてるの?と呆れられちゃったよ」
と苦笑しながらC子は言う。

そこから子供が3人産まれたのはいいが、なんと旦那が職場に近くなるから言って一人暮らしを始めたのだ。しかもそれが今の家から電車で40分ぐらいの距離だとのこと。
「もう笑っちゃうよね。最初はこの人何考えてんだろうと思ったけど、あとからどうでもよくなって、今ではすっかりな慣れちゃったよ」

「旦那さんは家に帰ってこないの?」
僕はその彼女にさらに興味が湧いてもっと質問することにした。
「月に一回ぐらいは帰ってくるかな。でも4人での暮らしに慣れているのに帰ってきたときだけ育児に対してもんくを言われるのはイライラするな~」
と彼女は笑いながら話す。
すごいポジティブだ。

ここで僕はあることに気が付いた。
彼女は僕が子供や嫁の愚痴を言ってもそれに対してすべてポジティブに返してくるのだ。

「子供がわがまますぎて全然言うこと聞いてくれないんだよね。ちょっと怒るとすぐもう泣くからねとか言って脅してくるんだよ」
と僕が愚痴を言っても
「お子さんめっちゃ可愛いね~むしろいっぱい泣いていいからねとか言っちゃいそう」
とC子はここでもポジティブに返してくる

そんなやりとりをしていて僕はいつの間にかC子ともう少しいたいと思い始めるようになっていた。

そして彼女に2軒目にコーヒーを飲まないかと誘った。
彼女からOKが出てぼくらはコーヒーチェーン店に入った。

主要駅のカフェということもあり隣との間隔が狭い。しかもほとんどの席が埋まっている。
それでもお酒も入っていることもあり、僕は人目を気にせずC子と会話を楽しみたかった。

「なんで相手を探そうと思ったの?」
と僕はC子が不倫をしようと思った理由を聞いた。

「私子供を産むのが早かったから全然恋愛らしいことしてなくて。
で旦那は遠距離だし、子供もある程度大きくなって、ふと私なんで我慢しているんだろうと思ってサイトに登録しちゃった。」
「さらに自立しなきゃと思って来月から仕事も始めることにしたの」
と彼女は答えてくれた。

その後もぼくらはお互いの家庭や恋愛観など色んなことを話した。
「もうこんな時間だ。帰らなきゃ」
と彼女は時間を気にする。

「そうだね。そろそろ帰ろうか」
と僕も時計を見たらかなり遅い時間だったので同意した。
そして僕らは店を出ることにした。

彼女を改札まで送り届けた際に
「ぽちょ今日はありがとね。久しぶりに楽しかった」
「ぽちょとならいい友達になれそう!」

一瞬友達という単語が引っ掛かったが僕はその時には特に深くは考えず帰路についた。
帰りの電車の中で気が付いたら僕はドキドキしてまたC子に会いたいと思うようになっていた。
久しぶりの恋愛の感覚だ。

まさかこの歳でしかもこんな短時間で誰かを好きになるとは思わなかった。
でももう一度会ったら僕らは恐らくセックスして、そのまま不倫関係になるだろう。
そうなればこの調査もそれで終了だ。

そんなことを考えつつも、僕の手は無意識にスマホを取り出し、C子にラインを送っていた。
「今日はありがとう。楽しかった。またご飯行こうよ!」
と僕が送ると、C子から少しして返事がきた。

「ぽちょもありがとう。楽しかったよー。ただ今はちょっと忙しいからまた日程分かったら連絡するね」
その返事がきた瞬間に僕は一瞬フリーズした。
そして僕のドキドキは落胆に変わっていった。

女性の日程が分かったら連絡するねは基本的に連絡はもうないと僕は認識している。もう会うことはないと同じだ。

そして僕は「ぽちょとは友達ね」の意味をここで理解した。
楽しかった時間だが、彼女の中では僕はあくまで彼女にとっての友達であり恋愛対象外の烙印を押されていたのである。
いやもしかしたら友達ですらないのかもしれない。

こうして僕の人妻相手の初恋はあっけなく終わった。
そして僕はすべてを忘れたいかのようにC子とのラインを消した。

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