「フィッシュストーリー」伊坂幸太郎
fish storyは,英語で法螺話という意味だ。
「フィッシュストーリー」では,魚に絡めた表現が特徴の小説をきっかけに盛大な法螺話が紡がれる。
初めは,バンドマンがやりきれない思いを叫ぶ。次は,彼らの作った曲のおかげで繋がった夫婦が出会い,彼らの正義感の強い息子がハイジャック犯を制圧して,そこで出会った女性が世界的な危機を救う。
「俺たち全部やったよ。やりたいことやって…」と叫んだバンドマン。「もう、何もしたくない。生きるのって…」と放ったハイジャック犯。
前者は世界を救い,後者は世界的なパニックを起こしかけたが,きっと紙一重の存在であった。
ほんの小さな出来事を経験したかしてないか,自分の意思を尊重したかしてないか。少しずつの積み重ねが大きな差を招いたのだ。
きっかけを拾うためには,準備がいる。
ハイジャック犯を制圧した彼は,幼い頃から鍛錬をしていた。そして彼自身は暴力事件を機に繋がった夫婦の子であり、そのきっかけを作ったのはバンドマンが作ったCD。
各々が行動を起こし,それが脈々と繋がった。
ずっとずっと準備されていたのだ。勇気が,力が。
小さなきっかけが繋がり,誰も知らない大きな結果が生まれる。しかるべき準備のもとで。
そんなことを思わせる作品だ。
私たちもきっと,飛んだ法螺話の上で踊っている。
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