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指揮者でヴァイオリニストで発掘オタク。ヤン=ヴィレム・デ・フリーントとは

2023年12月、ベートーヴェンの交響曲第9番の指揮で読売日本交響楽団に初登場となったヤン=ヴィレム・デ・フリーント(以下 デ・フリーント)。指揮棒を持たず、手の動きや全身で表現する指揮スタイルは、まるで楽器を持って演奏しながらリードしているようです。そんなスタイルにも関係ある、デ・フリーントのこれまでとこれからを紹介します。

12月の来日中にはインタビューも行われました(音楽の友 2024年2月号に掲載)。

第九のコンサートの模様はこちらに掲載されています。
毎日クラシックナビ『在京オーケストラによる年末「第9」聴き比べ』
https://classicnavi.jp/encore/post-13241/


プロフィール

Jan Willem de Vriend
ヤン=ヴィレム・デ・フリーント(フリエンド)


オランダ出身の指揮者・ヴァイオリニストで世界中のオーケストラに客演。ベートーヴェンの録音などで高い評価を得ています。母国では音楽番組などに出演し高い知名度があります。

バロック音楽の研究者であり、コンバッティメント・コンソート・アムステルダムではピリオド奏法をモダン楽器に適用することで有名曲のみならず17、18世紀の隠れた作品にも新たな生命を与えています。また、オペラの研究者でもあり、モンテヴェルディ、ハイドン、ヘンデル、テレマン、および、J.S. バッハの作品や、モーツァルト、ヴェルディ、ケルビーニ、ロッシーニなど欧米各地で指揮をしています。


略歴
1982年 コンバッティメント・コンソート・アムステルダムを創設
2006〜2017年 フィオン・ヘルダーラント&オーファーアイセル管弦楽団 常任指揮者
2008〜2015年 南ネーデルランド・フィルハーモニー管弦楽団 首席客演指揮者
2015〜2019年 ハーグ・レジデンティ管弦楽団 首席指揮者
2015〜2021年 バルセロナ交響楽団 首席客演指揮者
2016〜2023年 リール国立管弦楽団:首席客演指揮者
2019年〜 シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団 首席客演指揮者
2023年〜 ウィーン室内管弦楽団 首席客演指揮者
ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団 アーティスティックパートナー
2024年〜 京都市交響楽団 首席客演指揮者

ヤン=ヴィレム・デ・フリーントとオクタヴィア・レコード

ヤン=ヴィレム・デ・フリーント(以下 デ・フリーント)とオクタヴィア・レコードスタッフとの出会いは1995年10月。アムステルダムの繁華街、かの有名な飾り窓地区にあるシンプルなプロテスタント教会でのコンバッティメント・コンソート・アムステルダムの録音でした。因みに教会は1400年代初期に起源があるヴァルス教会(デ・ヴァルシェ教会 De Waalse Kerk)という、録音や演奏会でよく使われる非常に音響の良い教会です。

ジャック・ズーン(左)とデ・フリーント(右)1997年頃

約1週間でバッハのブランデンブルグ協奏曲を録音。ソリストにはフルートのジャック・ズーン(Jacques Zoon コンバッティメントのメンバーでもあった)やリコーダーのマリオン・フェアブリュッヘン(Marion Verbruggen)などの名手揃い。

爽快なリズム感と躍動感あるアクセントやフレージングに心奪われた覚えがあります。でもそれは決して感性だけでやっているのではなく、自筆譜や現存された資料を研究した結果の表現なのです。このブランデンブルグは世にあるものの中でも傑出したアルバムになっています。

1995-96年の録音、2023年に最新リマスタリングを施し再発売されました。

コンバッティメント・コンソート・アムステルダム

コンバッティメント・コンソート・アムステルダム(Combattimento Consort Amsterdam)はヴァイオリニストのデ・フリーントを中心に同級生や仲間たちによって1982年に結成されたアンサンブル(現在は活動休止)。トン・コープマンやフランツ・ブリュッヘンなどを輩出したバロック音楽研究の先進国であるオランダにはたくさんのバロック・アンサンブルがあります。

デ・フリーントは音楽監督兼コンサートマスターを務めた

コンバッティメントの演奏スタイルは、解釈や奏法は作曲家の意図やその時代に忠実に、使用楽器やピッチは現代の方法を用いるというもの。現代の人が心地よく聴くには、現代のピッチのほうが自然であり、広い空間でも音が十分に届く楽器のほうが良いからです。


頭が音楽のことでいっぱい

デ・フリーントの頭の中は音楽や作曲家のことでいっぱいで、まぁ作曲家の話が出てくる出てくる。彼の家を訪ねると、彼の部屋は楽譜や資料の山で足の踏み場もないくらい。頭の中もこれでいっぱいなんだなぁ、と納得でした。秘曲や隠れた作曲家の発掘にも余念がなく、やりたいこと、再現したいことがたくさんあっていつでもアイディアが湧き出ています。オランダの「オ・タ・ク」だぁ、と確信しました。もちろん良い意味での話です。才能はこういうところに現れるのです。「夢中」に勝るものなし。

因みにチェコにもすごく似たタイプのヴァーツラフ・ナーヴラット(Václav Návrat)という「オ・タ・ク」がいます。(エンシェント・コンソート・プラハ、プロ・アルテ・アンティクァ・プラハのリーダー)

そんなデ・フリーントが指揮者としてもヨーロッパで引っ張りだこになるのは自然の流れです。日本でもようやく脚光を浴びつつあり2024年は京都市交響楽団 首席客演指揮者に就任します。

「日本にもやっとデ・フリーントの時代が来た」と、これからも演奏記録をどんどん残していきたいと思います。是非彼の来日の際は演奏会に足を運んでお楽しみください。数々の録音はEXTONの江崎サウンドでこれからもお楽しみいただけます。

オクタヴィア・レコードDiscography

指揮者として2022年5月の京都市交響楽団と共演したライヴ録音。デ・フリーントと京響の相性の良さが表れる演奏に、会場は大喝采に包まれました。

試聴はこちら

コンバッティメント・コンソート・アムステルダムとしては、ブランデンブルク協奏曲の他6種のアルバムをオクタヴィア・レコードから発売しています。(一部キャニオンクラシック原盤)

1997年アムステルダム、ヴァルス教会にて収録。2023年に発売されたリマスタリング版です。

17、18世紀の作曲家にとって作品を演奏機会や形態に応じて編曲することは珍しくなく、J.S.バッハも礼拝や演奏会用のレパートリーに対応すため編曲を行っていました。本盤では、そうした編曲の陰で失われた「原曲」復元を試み、バッハのもう一つの意匠に迫っています。

ナチュラル・ホルンとピリオド楽器での演奏。ソリストとしてパウル・ヴァン・ゼルムを迎え、ユーモア・センスを絶妙のスパイスに、驚愕のテクニックと音楽性とが見事に呼応した快演を聴かせます。

エイヴィソン(Avison)は18世紀英国で活躍したオルガニスト兼作曲家。スカルラッティの一連のソナタ集からメロディを借用し、12のすばらしい合奏協奏曲を作り上げました。

オリジナルの楽器編成を基本に、独自のアイデアを加味し曲の個性を新たな視点から見つめています。ダ・カーポ(繰り返し)の多用と変化をつけた楽器編成から生まれる演奏で、ヘンデルの名曲に新たな光を与えました。

大バッハと同時代に生きた作曲家ファッシュ(Fasch)。後期バロックの様式からハイドン、モーツァルトなどの古典派様式への重要な過渡期を示しながらも研究途上のこの作曲家の作品を発掘し、現代に蘇らせました。トランペット協奏曲ではバロック・トランペット奏者デイヴィッド・スターフを迎えました。

その他、母国オランダのレーベルからも多数のアルバムを発売しています。
CHALLENGE CLASSICS(キングインターナショナルWEBサイト)https://www.kinginternational.co.jp/artist/kana-ya/jan-willem-de-vriend/


2024年来日コンサート情報

京都市交響楽団 第689回定期演奏会
2024年5月24日・25日
京都コンサートホール

ヤン・ヴィレム・デ・フリーント(首席客演指揮者)
デヤン・ラツィック(ピアノ)★
 

曲目
5月24日
モーツァルト:ピアノと管楽器のための五重奏曲 変ホ長調 K.452★
モーツァルト:セレナード ニ長調 K.239 「セレナータ・ノットゥルナ」
モーツァルト:セレナード ト長調 K.525 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

5月25日
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58★
シューベルト:交響曲 第1番 ニ長調 D.82

京都市交響楽団サイトより 公演チラシ