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華やかさに秘めた、静かな情熱 ── 宍戸茉莉衣さんインタビュー

 2021年1月13日(水)に、オペラカッフェマッキアート58が開催する、第3回ストリーミングコンサート。

 メンバーインタビュー第5回目は、第3回ストリーミングコンサートにご出演の、ソプラノ・宍戸茉莉衣さんのお話をお届けします。

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宍戸茉莉衣(ししど まりえ)

福島県出身。東京藝術大学卒業。二期会オペラ研修所第58期マスタークラス修了。これまでにオペラ『フィガロの結婚』スザンナ役、『コジ・ファン・トゥッテ』フィオルディリージ役、『魔笛』パミーナ、侍女Ⅰ及び童子Ⅰ役、『奥様女中』セルピーナ役、『こうもり』アデーレ役等を演じ、東京二期会オペラ劇場《二期会名作オペラ祭》『フィガロの結婚』(宮本亜門演出)花娘Ⅱ役にて二期会オペラデビュー。また、宗教曲の分野では、シューベルト作曲『ミサ曲第2番ト長調』、モーツァルト作曲『レクイエム』のソプラノソリストを務める。二期会会員。

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 宍戸さんは、2016年に二期会本公演《フィガロの結婚》に花娘役でデビュー以降、様々なオペラに出演されておいでです。特に「スーブレット」と呼ばれる、軽快な性格の召使い役を得意として、レパートリーを広げています。

 今年度からは、新国立劇場合唱団の一員としても、さらなる活躍の場を広げられた宍戸さんに、オンラインでお話を伺いました。


「月に寄せる歌」を経て

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「先日、すごく久しぶりにコンサートの本番を迎えたんです。今年の3月以来だったから、9ヶ月ぶりになるでしょうか。この本番ではMCも多めにするなど、新しい試みにも挑んでいたので、とても集中して取り組んでいました。今は終わって、ほっとしています」

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 先日、12月9日に開催されたコンサート「月に寄せる歌」は、宍戸さんにとって特別な本番となりました。

「11月から、コンサートにまとまった時間をあてることができました。曲決めには2日かかったでしょうか…。考えて、考えて、決めました。ピアニストさんとの合わせでも、これまでにないくらい、集中して凝縮した時間を送れました。

 今回はじめてフォーレの歌曲〈夢のあとに〉を披露したのですが、その曲の構成にはとても時間をかけました。ピアニストさんと一緒に、『詩がこうだから、こうやって音楽を運んでみない?』と試行錯誤を繰り返して、気がついたら1時間半ほど経っていたこともありました。

 そんな中、『こういう風に音楽に向き合うのって、すごく好きだな』って気付いたんです。ひとつひとつ、パズルを組み立てていく達成感を感じられるというか…。こういう作業が好きなんだな、ってわかりました。ひとつずつ積み重ねていくやり方が、すごく好きなんですね」

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 新たな、けれど自分らしく堅実な、音楽への向き合い方へと、ゆるやかに歩みを始められた宍戸さん。その歩みは、緊急事態宣言下の春から始まっていました。

「この春は、すごく勉強できました。幸いなことに、これまでずっと本番が続いてきたのですが、久しぶりに本番に追われることのない時間を過ごすことができたんです。一日1作品、オペラを歌う企画というのを自主的に始めたりもしていましたね。『フィガロの結婚』のスザンナや、『ドン・ジョヴァンニ』のツェルリーナ、『コジ・ファン・トゥッテ』のデスピーナなど、併せて6つの役をレパートリーとして勉強を深めていました。

  最初は、新しい作品に関しては譜読みも兼ねて取り組んでいたので、4時間くらいかかった日もありました。でも、続けているうちに、日々短縮されてくるんですよね。気がついたら、1時間半くらいでスルッと通せるようになっていました。5、6月はずっと、この勉強に取り組んでいましたね。でも、7月に入ってしばらくしたら、『あ、もういいかな』って思う時期が来て……(笑)。それからは、通常モードに戻りました」


堅実な積み重ねの先に

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 華やかなイメージの裏に隠れた屋台骨を支える、努力家の内面が窺い知れるエピソード。それを軽やかにさらりと話す、宍戸さんの爽やかな笑顔に惹き込まれました。思えば、研修所の頃からも宍戸さんは地道な努力の積み重ねこそを大事にする人でした。マスタークラスの授業前は、誰よりも早く到着して、ひっそりと勉強をしていた姿が、強く印象に残っています。

「そんなこともありましたっけ(笑)。授業の前に入っていた仕事の時間との兼ね合いもあったと思いますが……。でも確かに、コンスタントに声出しをしたりはしていましたね。そして、授業前にはよく、コンビニのおでんを食べていましたね。おでん、好きなんです。

 マスターの中期の授業では、『真珠採り』の二重唱をいただいたのですが、衣装のサリーを縫ったのがいい思い出です。同じ演目が当たっていたもう一組のソプラノの子と一緒に縫っていたのですが、縫っても縫っても終わらなくて、『終電があるから、ごめん!』と先に帰ったことを思い出します。

 歌い始めたのは、小学生の時。茨城県の龍ケ崎市に越してきて、そこで児童合唱団に入ったんです。合唱団は高2の時まで続けていました。その流れで音大受験となるわけですが、たぶん私、ほかの人とは違う動機で進路を選んだんです。

 当時、私は中高一貫の学校に通っていたのですが、高校進学時に文系・理系を分けてしまうので、中3の段階で進路を選択しなければならなかったんですね。で、本当はシステムエンジニアに憧れていたんです。いま聞くと、びっくりしますよね(笑)。けれど、理系には進めないなというのは、なんとなくわかって。そしたら、どうしようかなと考えていた時に、子供の頃から好きだった〈歌〉が、選択肢として浮かび上がってきました。

 児童合唱団の指揮者の先生が、東京芸大の声楽科卒でらしたので、自然と自分も東京芸大に進もうと決めていました。その先生は高2の時にお亡くなりになりましたが、大きな影響を与えてくださいました」


『フィガロの結婚』と共に

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 そして、東京芸術大学声楽科に進学した宍戸さん。学生生活は、どのようなものだったのでしょうか。

「芸大時代の印象に残っているエピソードは、芸祭委員をやったことです。私は模擬店の係だったのですが、芸祭が終わって夜になっても学内に残っている学生たちを追い出す役割をしていました。当時はまだ未成年だったので、10時すぎて酔っ払っている歳上の学生たちに声をかけるのは、内心どきどきしていました。昔は『裏芸』っていって、一晩中残っているとも聞いたことありますが、私たちの世代では、それはなかったですね。

 ただ、毎年恒例の葉桜飲み会では、当時の上野公園にあった大きな噴水に飛び込む人たちが多くいて、『これが芸大なのか』と驚いたことを覚えています。高校までの私の周りには、他に音楽をやっている子がいなかったから、芸大がどんな学校かっていうイメージがなかったんですよ。だから、『ヘンな人が多いな』って眺めていたのを思い出します。

 大学時代は、地道に音楽に打ち込んでいましたね。E年オペラではモーツァルトの『フィガロの結婚』のスザンナを、そして卒業時には『コジ・ファン・トゥッテ』のフィオルディリージを演じました。」

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「思えば、『フィガロの結婚』は特別な作品です。私の二期会デビューも『フィガロ』だし、これまで一番多く演じているのも『フィガロ』のスザンナ。そして、今もずっと使い続けている楽譜は、お世話になった方から芸大入学のお祝いにいただいた、ベーレンライターの『フィガロの結婚』の楽譜なんです。これからも、この楽譜と一緒に成長していきたいですね」

 宍戸さんの人生の節目節目で、里程標となっている『フィガロの結婚』。この先も、宍戸さんは『フィガロの結婚』、そしてスザンナという役と共に、ご自身の音楽を育て続けていかれるのでしょう。


ストリーミングコンサートによせて

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 最後に、今回のストリーミングコンサートについてうかがいました。

「今回のストリーミングコンサートでは、松岡さんとの二重唱をはじめ、歌曲やアリアをお届けします。歌曲は、松岡さんは日本歌曲、私はイタリア歌曲を中心に歌います」

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「マッキアートは、こうして長いこと活動を続けていますが、これってとても貴重なことだよなあ…って思っています。研修所で他の代だった方々からも、『すごいよね』って言っていただく機会が多くて。自分にとっての財産だなあ、と感謝しています。これからも、みんなで歌い続けていきたいです」

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「これからもしばらく、おうちでの時間が長くなってしまいそうですが、ストリーミングコンサートでお楽しみいただけたら…と願います。2021年が、皆様にとって素晴らしい年になりますように!」


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 宍戸さんご出演の、オペラカッフェマッキアート58 第3回ストリーミングコンサート、どうぞお楽しみに!


オペラカッフェマッキアート 第3回ストリーミングコンサート

 オペラカッフェマッキアート58 第3回ストリーミングコンサートの公演概要は、以下の通りです。


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オペラカッフェマッキアート58
第3回ストリーミングコンサート


日時:2021年1月13日(水)19時開演

出演:宍戸茉莉衣(ソプラノ)、松岡多恵(ソプラノ)/仲村真貴子(ピアノ)

演奏予定曲目:
木下牧子作曲 さびしいカシの木
プッチーニ作曲 オペラ《ラ・ボエーム》より「私の名はミミ」 ほか

URL:https://youtu.be/mJeUEYaYCes
(加賀町ホールより、無観客ライブ配信)

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 どうぞ、お楽しみに!


 次回は、ソプラノ・松岡多恵さんのインタビューをお届けいたします。


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