#66:バーバラ・H. ローゼンワイン/リッカルド・クリスティアーニ著『感情史とは何か』

 バーバラ・H. ローゼンワイン/リッカルド・クリスティアーニ著『感情史とは何か』(岩波書店, 2021年)を読んだ。書店の店頭で見かけて、書名そのままだが(笑)、「感情史って何だ?」と興味を惹かれて購入。

 感情がテーマというと、心理学、脳科学、あるいは社会学あたりが主なフィールドになると思われるが、本書は「史」とついているだけあって、歴史学のフィールドでの「感情」の研究を外観したもの。「歴史学で『感情』?」と、はじめは意外にも思ったが、他の研究領域との間を横断する学際的な研究領域ということで納得。「感情史」の研究者たちが登場してまだそれほど時間が経っていないようだが、歴史学者たちがこうした領域に関心を持って研究が盛り上がりつつあるということは、とても興味深い。

 私自身は、感情のテーマとの関わりは、徹底的にさまざまな個人の経験を通してになるので、個人の感情や感情をめぐる経験や言説が、社会からどのような影響を受けているか、それが歴史的にどのように変遷しているのか、その逆に、個人の感情経験が社会や歴史にどのように影響を及ぼしてきたのかについて、こうした視点から取り組まれている研究に触れることはとても刺激的である。

 先だって読んだばかりの北村隆人氏の著作にも「歴史」の視点は含まれていたが(ただし、それぞれの臨床家がどのようにそれぞれの臨床観と臨床実践にたどり着いたかという「心理歴史的視点」が中心である)、自分が取り組んでいる実践ばかりでなく、私たちが日々営んでいる生活のあり方について、それがどのようなコンテクストで、どのように自覚的かつ無自覚的に意味づけられ価値づけられて、どのような自覚的かつ無自覚的な規範に導かれているかを振り返るためにも、個人史に注目するばかりでなく、マクロなレベルでの通時的な視点を取り込んで理解に努める必要があることを、改めて考えさせられた。