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#87:鶴見俊輔他著『神話的時間』

 鶴見俊輔、谷川俊太郎、工藤直子、佐野洋子、西成彦著『神話的時間』(熊本子どもの本の研究会, 1995年)を読んだ。本書は、発行元である「熊本子どもの本の研究会」の10周年記念事業として行われた、鶴見俊輔氏の講演、谷川俊太郎氏と工藤直子氏の対談、佐野洋子氏と谷川俊太郎氏と西成彦氏の鼎談をまとめたものである。中古書店の店頭でたまたま見かけて出会った本である。

 本書で私が最も興味深く読んだのは、表題にもなっている、「神話的時間」と題された鶴見俊輔氏の講演と、本書のために鶴見氏から寄せられた「ノートブックから」という原稿である。以前、鶴見氏の対談を読んだ時にも書いたことだと思うが、本書においても私は鶴見氏が自分の出会った人物に向ける「眼差し」のあり方に強い感銘を受けた。人と人との出会いと、そこでの関わり合いと、それぞれの人の生き様を、この様に描き出すことができた人を、私は鶴見氏の他には知らない。また、自身の経験を、この様に奥深くまで内省して、端的な表現で力強く文章として表現できた人も、鶴見氏の他にはあまり例がないのではないかと思う。

 鶴見氏の言う「神話的時間」を生きることが、ますます困難になっていること、しかし、そうした時間を生きることこそが、私たちが自分の生に根源的な意味を感じ取る可能性をもたらす不可欠の契機であることを、考えさせられた。