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#92:出口治男[監修]<心理臨床と法>研究会[編]『カウンセラーのための法律相談 心理援助をささえる実践的Q&A』

 出口治男[監修]<心理臨床と法>研究会[編]『カウンセラーのための法律相談 心理援助をささえる実践的Q&A』(新曜社, 2009年)を読んだ。本書は、心理臨床家がその業務において日常的に出会う可能性のある様々な具体的な問題に関わって、その法的責任のありかや程度などについて、監修者である著者が法律家の立場からポイントを解説して見解を述べたものである。心理臨床家の業務を法律の枠組みの中に置き、法的な観点から評価する実践的な考え方を読者に教えてくれる貴重な本である。

 半ばは自分の直近の仕事のための必要性に促されて本書を読んだのだが、自分では少しは理解しているつもりでいたことが、未熟で曖昧なレベルの理解にとどまっていたことを思い知らされ、目から鱗の連続であった。正直な感想として、恥ずかしい。

 法律家の観点から見た、「法」と「職業倫理」の違い、心理臨床家にとっての「契約」の持つ意味と法的な意味での「契約」の持つ意味と責任の範囲の不一致、具体的な臨床の場の違いによる面接契約が誰と誰との間で結ばれていることになるかの法的な扱いの違い、クライエントが未成年の場合の契約に関する判断能力についての法的見解、注意義務の基準・水準、結果回避義務の範囲などなど、具体的な問題の例に沿って法律家の見解が示されることで、考えさせられ、自分のふだんの考え方を振り返り、これまで曖昧な理解のままきちんと考えてこなかった問題が多々あることに気づかされた。

 自分の認識不足と理解不足と勉強不足を恥じ入るばかりである。出版されてから10年余りが経過しており、公認心理師法を含めて最新の状況を反映していないとはいえ、心理専門職が基本的に身につけねばならない考え方と姿勢を学ぶ(再点検する、自分に足りないものに気づく)ことに間違いなく役立つ良書であると思う。