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#165:山下賢二著『ガケ書房の頃』

 山下賢二著『ガケ書房の頃』(夏葉社, 2016年)を読んだ。本書は最近、『ガケ書房の頃 完全版 そしてホホホ座へ』(ちくま文庫, 2021年)として再刊されたのを書店で見かけた。「完全版」とあるからには、加筆されているのだろうか? 私が今回読んだのは、数年前に購入したまま未読だった原本の方。いわゆる腰巻き帯の、「京都、本屋さん、青春。」というコピーが、本書を見事に言い表している。

 読み始めて気づくのは、文章の読みやすさ。上手いというのではない。わかりやすいというのでもない。読みやすい。すーっと、自然に読めてしまう。これほど読みやすい文章に出会うことは、そうは多くない。どうしてこの文章はこんなに読みやすいのか? 少し考えてみたが、よくわからない。

 本書は、著者の子どもの頃にはじまり、家を出て、紆余曲折を経て書店経営を始め、その書店を閉店(移転)するまでのエピソードと思索が綴られた、自伝的エッセイと言えばよいか。一言で言えば、やはり「青春記」が一番しっくりとくる。

 少し前に読んだ、『『FMステーション』とエアチェックの80年代』や、ずっと昔に読んだ『おかしな二人 岡島二人盛衰記』もそうだが、何かが始まっていくときの高揚感と、それが終わっていくときの哀しさと切なさが、私の思う「青春記」には共通している。

 著者は私より少しだけ下の年齢の人であり、その書店があった場所は、私が学生時代を過ごした生活圏の中にあり、私もお世話になったことのある今は存在しない近隣の書店の名前など、懐かしさを覚えるところも少なくなかった。