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#84:ロバート・G・クヴァーニス、グロリア・H・パーロフ編『サリヴァンの精神科セミナー』

 ロバート・G・クヴァーニス、グロリア・H・パーロフ編『サリヴァンの精神科セミナー』(みすず書房, 2006年)を読んだ。先日、中井久夫先生の著書を読んだ流れで、すぐに読んでみたくなり、購入したまま未読だった本書を手に取った。

 本書は当時研修医だった編者のクヴァーニスが提示したリアルタイムで進行中の若い男性入院患者の治療面接の過程を題材とした全5回のケースセミナーの様子を収めたものである。サリヴァンの面接のやり方については、サリヴァン自身による講義を編集した『精神医学的面接』で詳しく語られているが、本書では具体的な事例に対して、サリヴァンがどこに着目して、どのように考え、それをセミナーの参加者にどのように伝えようと努めているかが、おそらくはかなり生に近い、あまり手を加えられていない形で読むことができる。

 ただし、そこには一定の限界もあって、当時のセミナー参加者には、サリヴァンがどういう口調で何の話をしているかが明瞭にわかったであろうが、その場の空気を知ることができない読者が文字になったサリヴァンの発言を読むだけでは、うまく理解できない部分も多くあると思われる。そのギャップをできるだけ埋めるべく、訳者の中井久夫先生は多大な努力をされているのであり、そのおかげで読者の理解が明瞭になる部分もたくさんあることは間違いないのだが。

 とはいえ、サリヴァンの「肉声」に近い形のものを読むことで、サリヴァンが何を大切にして、患者にどの様に接してきたか、どの様に接することを他の臨床家たちに勧めていたかについて、改めて理解を深めることができたと思う。特に、今回やっと、「間接的な再安心保証 indirect reassurance」と呼ばれるサリヴァンのやり方が腑に落ちた気がする。そして、孤独の持つ意味の大きさについてのサリヴァンの語り(pp.229-230)には、改めて強く心を動かされた。

 また、私自身が学ぶ過程で繰り返し接してきた、私が師と仰ぐ先生が事例検討の場で事例提示者とやりとりする様子や他の参加者に語る様子が、本書のサリヴァンの姿と重なって思い出されることが、本書を読んでいる途中に何度もあった。私にとっては、自分が対人関係精神分析の流れの中で学んできているということと、そのことが持つ意味の重みを、改めて感じる機会ともなった。