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#158:司馬遼太郎著『この国のかたち 一』

 司馬遼太郎著『この国のかたち 一』(文春文庫, 1993年)を読んだ。元になった単行本は1990年刊行とのこと。あとがきと表紙カバーの情報を総合すると、1986年から1987年にかけて「文藝春秋」の巻頭随想欄に連載されたエッセイをまとめたものということになるようだ。著者が書いたものを、小説も含めて、私はほとんど読んだことがない。今回がおそらくはじめてではないかと思う。

 読んでみて、著者はこういう文章を書く人なのかと知ったと同時に、自分は何と歴史を知らないことかと恥入った。歴史に疎く、積極的な関心を持ってこなかったからこそ、著者の書いたものに触れる機会もほぼなかったわけだが。

 本書で特に印象に残った一節は次の部分。

 今の社会の特性を列挙すると、行政管理の精度は高いが平面的な統一性。また文化の均一性。さらにはひとびとが共有する価値意識の単純化。たとえば、国をあげて受験に熱中するという単純化へのおろかしさ。価値の多様状況こそ独創性のある思考や社会の活性を生むと思われるのに、逆の均一性の方向にのみ走りつづけているというばかばかしさ。 これが、戦後社会が到達した光景というなら、日本はやがて衰弱するのではないか。(pp.162-163)

 歴史に学ぶことの重要性は頭では理解しているつもりでいても、著者が本書の中に書き留めて所見を述べている歴史の諸断面のほとんどが、私にとっては初耳に近いことにいささか愕然とする思いであった。勉強が足りないことを深く反省。