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#93:菊池良和著『吃音の世界』

 菊池良和著『吃音の世界』(光文社新書, 2019年)を読んだ。吃音に関する本としては、以前に、近藤雄生著『吃音 伝えられないもどかしさ』(新潮社, 2019年)を読んで、多くのことを知ること、学ぶことができた。最近たまたま新聞記事で著者のことを知ったこと、また仕事で吃音の問題について考える機会があったことから、本書を読んだ。

 著者は自身が吃音を抱える吃音症の専門医であり、そうした立場から、吃音についてとてもわかりやすく、コンパクトに、そして丁寧に、読者に説明してくれている。私が一番感銘を受けたのは、当事者の家族や、周囲の人々の吃音に対する理解のあり方が、当事者の生活の質を大きく左右すること、適切な理解に基づいた関わりと対応があることで、当事者にとって二次的な困難さが大きく低減することである。逆に言えば、周囲の理解の行き届かなさや誤解が、当事者をひどく追い詰めている場合があることである。

 吃音の問題に限らないが、社会生活の中では、互いが生きている状況に関する無知や無理解や誤解が、互いを追い詰め、あるいは追い詰められることで、本来はなくても済むはずの苦しみを、繰り返し生み出してしまっていることが少なくないと思う。本書の第4章に紹介されている、著者が診察にあたった一人の成人患者さんから著者に届けられた感謝のメールの中に書かれている、「本当にありがとうございました。これからも、吃音で困っている人を助けてあげてください。」という一文が、ずっしりと重く胸に残った。