#57:信原幸弘編『心の哲学 新時代の心の科学をめぐる哲学の問い』

 信原幸弘編『心の哲学 新時代の心の科学をめぐる哲学の問い』(新曜社, 2017年)を読んだ。本書は、新曜社の「ワードマップ」シリーズの一冊であり、「第1部 心身問題」「第2部 志向性・意識・自我」「第3部 心の科学と哲学」の3部に分かれており、全部で53の項目あるいはテーマについて、それぞれ4〜8ページで概説されている。この領域における、最近の主要な問題や論点を大掴みに知ることができる点で、役に立つ本であると言えるだろう。

 個人的には、第3部に興味を惹かれる内容が多かった。私自身は、心について考えるにあたっては、物理的環境、社会的環境、対人関係から切り離して捉えることが不可能なオープンなシステムの一種として理解しようとする立場である。「非表象主義」「非本質主義」であり、本書で初めて知った術語である「4E」(embedded, embodied, enacted, extendedの4つを指すとのこと)に親和性を感じる立場である。ギブソンの生態学的心理学や、本書には取り上げられていないがルーマンの社会システム論にも親和性を感じており、個人内(intrapsychic)の表象のシステムを基本的な想定としている対象関係学派、メンタライゼーション・アプローチ、愛着理論とは相性が悪い。本書を通読して、こうしたことを再確認した。

 本書を読んで私が特に興味を惹かれたテーマの例を一つ挙げるなら、「フレーム問題と情動」の中で触れられている「salience」(本書では「際立ち」と訳されている)である。フレーム問題の文脈とは少し異なるかもしれないが、私自身の経験でも、例えば相手の話を聞いているときに、それについて特に意識的に何かを考えていたり推論したりしているわけではないにもかかわらず、その話の中の、あるいは話し方の、ある特定の部分が特に気になって注意を引くことが珍しくない。これは考えてみれば不思議なことで、後で振り返ってみても、どうして自分の注意がそこに向いたのか、ほとんどの場合うまく説明できない。なぜ、どのようにして、そうしたことが生じるのか、改めて関心を持って考えてみたいと思った次第である。