#50:ノーマン・マルコム著『ウィトゲンシュタイン 天才哲学者の思い出』

 ノーマン・マルコム著『ウィトゲンシュタイン 天才哲学者の思い出』(平凡社ライブラリー, 1998年;原著刊行は1958年)を読んだ。先日読んだ古田徹也氏の本の中で本書が紹介されており、これまた買って以来長年棚に挿したまま未読だったところを引っ張り出して読んだ。

 著者が学生として出会ってから亡くなる直前までのウィトゲンシュタインとの個人的交流のエピソードと、ウィトゲンシュタインからの私的な書簡の一部が数多く紹介される中で、ウィトゲンシュタインの人柄が、その対人面での困難さも含めて、敬愛の念と少しばかりの畏怖の念がこめられつつ描き出されている。ウィトゲンシュタインが著者に直接語ったとされる言葉や、その書簡の一部には強く心を揺さぶられた。著者が伝え聞いたウィトゲンシュタインの臨終の言葉とそれに対する著者の思いを綴った最後のページを読んでいて、不覚にも涙がこぼれた。

 併録されているG・H・フォン・ライトによる小伝とあわせて、確かに、ウィトゲンシュタインに関心のある人であれば一度は目を通しておくべき本だと思った。