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#116:綾屋紗月・熊谷晋一郎著『つながりの作法 同じでもなく違うでもなく』

 綾屋紗月・熊谷晋一郎著『つながりの作法 同じでもなく違うでもなく』(NHK出版生活人新書, 2010年)を読んだ。「当事者研究」で知られる二人の著者による本書を読むことで、私たちにとって、自分の経験を自分の言葉で語ることに努めることの意味と、そのためにはそのような努力を受け止めて耳を傾ける他者の存在が不可欠で不可欠であることを、改めて考えさせられた。

 私が特に興味深く読んだのは、第4章の中の「自分の成り立ち」について考察するパートの、「構成的体制」と「個人の日常実践」の循環をめぐる論述の部分である。それに続けて、安定した「私」が立ち上がる条件として、

①身体や外界に適度な秩序が備わっていること                ②体験に相当する言葉や物語をコミュニティの構成的体制が与えてくれること

が挙げられているのも、私にとっては示唆的である。私の関心に引きつければ、心理療法の場でクライエントが語ることを通じて自分自身に向き合い自分の経験を改めて立ち上げていくプロセスと、それに伴走しつつ共に取り組むセラピストのあり方、そしてその二人の間に生じていることについて、いろいろな連想が湧いてくる。

 第5章で考察され、本書のタイトルにもなっている、著者たちの言う「つながりの作法」も、私には心理療法場面における二人の関係が思い浮かびながら、読み進めた部分である。第2章で考察されている「密室をほどいて結び直すー睡眠・覚醒サイクル」のパートも私には刺激的で、これらをあわせ読む中で、私には心理療法面接に関して、これまで明瞭には考えたことがなかった新しいイメージが湧いてきたのだった。たぶん、私にとって新しいだけで、他の多くの同業者にとっては陳腐なイメージなのだろうけれど。

 それでも、私は私に湧いてきた私のイメージを大切にして、しばらく自分なりに考えてみたいなと思うのである。まさに、著者たちの言う、「構成的体制」と「個人の日常実践」の循環、のプロセスを目指して。