#63:森茂起著『フェレンツィの時代 精神分析を駆け抜けた生涯』

 森茂起著『フェレンツィの時代 精神分析を駆け抜けた生涯』(人文書院, 2018年)を読んだ。著者の本は、以前、『トラウマの発見』(講談社選書メチエ, 2005年)を読んだことがあるくらい。

 フェレンツィに対する関心は昔からあったのだが、これまでまとまった形で文献を読む機会をなかなか作ることができずにきた。今回本書を読むことで、ぼんやりとしたものでしかなかった私の中のフェレンツィのイメージが、かなりくっきりとしたものになった。その他にも、勉強不足で知らなかった歴史的事実を知ることができたことや、私の中でバラバラだった断片的知識が思わぬところで繋がる部分があったことなど、学ぶことが多くあった。

 とりわけ、私はサリヴァンに始まる対人関係精神分析に関心があるので、第6章で描かれるフェレンツィの二度目のアメリカ訪問の様子は、その頃のアメリカの精神分析実践の状況をフェレンツィの側の視点から捉える試みであり、サリヴァンの伝記からだけではわかりにくい部分に光が当たっていて、とても参考になった。著者が注に書いているように、フェレンツィに対するサリヴァンの指定討論の記録が残っていないことは、歴史的観点からは非常に残念なことである。

 本書の著者の記述は工夫が凝らされており、かつとても読みやすいものであった。大量の資料を駆使して本書を書き上げることは、たいへんな労力を要する作業であったであろうと推察される。著者の努力に感謝したい。