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#104:仙田満著『子どもとあそび 環境建築家の眼』

 仙田満著『子どもとあそび 環境建築家の眼』(岩波新書, 1992年)を読んだ。著者の本は、以前、『子どもを育む環境、蝕む環境』(朝日選書, 2018年)を興味深く読んだことがある。

 本書は元々朝日新聞の日曜版に連載された記事を、大幅に整理して、手を加えたものとのことである。建築家の視点から、子どもが遊ぶために必要な空間とその性質、そうした空間が子ども同士の関係や子どもと大人の関係にどのように影響を及ぼすかといったことが、豊富なデータに基づいて縦横に論じらていて興味深い。

 本書が出版されたのは30年近く前であるが、すでに子どもたちの遊び空間が急速に狭められ、変質していっていることに対する強い懸念が繰り返し述べられている。現在では、安心して遊ぶことができる身近な屋外の空間はさらに少なくなっているのではないだろうか。

 反面、30年前には子どもたちにとっては(多くの大人たちにとっても)ほぼ存在しなかったインターネット空間が、現在の子どもたちには(良くも悪くも)開かれているわけだが、そのことが子どもたちの成長や人間関係の質にもたらしている影響はどうだろうか。老境に近づきつつある私にとっては、ネガティブな方向の心配ばかりが思い浮かぶ。

 そんな自分を振り返ると、そろそろ静かに一線を退いておとなしくすべきなのだろうかという思いと(若い世代から「今はもうそういう時代ではないのです」という趣旨の世代間ギャップを面前ではっきりと突きつけられる機会が増えてきた)、いやいややはり自分にとって違和感のあること、負の方向への変化だと思えることは、そうとはっきり言い続けねばならない(耳を傾けてくれる人はあまりいないのだけれど)という思いとの間で、気持ちが揺れるところではある。

 とは言え、思っていることを言わずに(書かずに)おくことは我慢がならない性分ではあるので(笑)、結局は周りに煙たがられるジジイになっていく(すでになっている?)のだろうなと、それはそれでまんざらでもなかったりする。