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読んだ本

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自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。
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#雑感

#587:藤井満著『京都大学ボヘミアン物語』

 藤井満著『京都大学ボヘミアン物語』(あっぷる出版社, 2024年)を読んだ。本書を知ったのは、確か某まとめサイトで紹介記事を見かけて。ちょっとした事情もあって興味を惹かれて読んでみた。  本書は、大学入学後にちょっと(?)変わった学内のサークルに入った著者が、そのサークルとの関わりを中心とした学生生活を、郷愁と悔恨と自負とともに振り返る青春記である。プロローグの冒頭すぐに<注>があり、<この文章は(かなりの部分は)フィクションです。実在の人物や団体等とは(それほど)関係あ

#586:青崎有吾著『体育館の殺人』

 青崎有吾著『体育館の殺人』(創元推理文庫, 2015年)を読んだ。本書は2012年に東京創元社から刊行された本の文庫化とのことで、本作は第22回鮎川哲也賞の受賞作とのことである。本書カバーおよび扉の作品紹介には「大幅改稿」との文言があるが、辻真先氏による解説ではそのことには特に触れられてはいない。文庫化にあたって「大幅改稿」がなされたということだろうか?  本作には、The Black Umbrella Mystery という英語での題名がさりげなく併記されている。内容を

#585:森本哲郎著『「私」のいる文章』

 森本哲郎著『「私」のいる文章』(新潮文庫, 1988年)を読んだ。ダイヤモンド社より1979年に刊行された本を文庫化したものとのこと。中古書店で見かけて購入したもの。  私が著者の名前をはじめに知ったのは、高校の国語(現代文)の教科書で立ったように思う。内容は覚えていないのだが、たしか「自分への旅」というエッセイではなかったか。その後、『ことばへの旅』(角川文庫)なども読んだのではなかった。  本書は、新聞記者としての著者の経験をまとめたもので、「第一部 ぼくの取材ノー

#584:バーナド・ウィリアムズ著『生き方について哲学は何が言えるか』

 バーナド・ウィリアムズ著『生き方について哲学は何が言えるか』(ちくま学芸文庫, 2020年)を読んだ。原書は1985年に出版された、Ethics and the Limits of Philosophy、という本である。最近読んだ、渡辺一樹著『バーナード・ウィリアムズの哲学 反道徳の倫理学』が興味深かったため、著者の本を何か読んでみようと思い、本書を手に取ってみた。  本書の著者名の表記が、一般的な“バーナード”ではなく、“バーナド”とされている理由については、訳者の一人

#583:日本推理作家協会篇『Acrobatic 物語の曲芸師たち ミステリー傑作選』

 日本推理作家協会篇『Acrobatic 物語の曲芸師たち ミステリー傑作選』(講談社文庫, 2018年)を読んだ。本書は講談社より『ザ・ベストミステリーズ2015』として2015年に刊行された本を文庫化に当たって二分冊のしたものの片方とのこと。収録されているのは、順に、加納朋子「座敷童と兎と亀と」、下村敦史「死は朝、はばたく」、両角長彦「不可触」、東川篤哉「ゆるキャラはなぜ殺される」、若竹七海「ゴブリンシャークの目」、葉真中顕「カレーの女神様」の6篇の短編作品。  加納氏

#582:舟木亨著『倫理学原論 直感的善悪と学問の憂鬱なすれちがい』

 舟木亨著『倫理学原論 直感的善悪と学問の憂鬱なすれちがい』(ちくま新書, 2024年)を読んだ。書店の店頭の新刊コーナーで見かけて、タイトルが気になり手に取った。  本書の特徴は、倫理学という学のあり方をその根底から考え直すことにあると言えると思う。あとがきによれば、著者が本書を執筆した同期の根本には、「倫理学は倫理に対して何をしているのか」(p.276)という疑念、あるいは問いがあったとのことだ。そういう意味では、本書は著者による“倫理学批判”として捉えることもできるよ

#581:山田太一編『生きるかなしみ』

 山田太一編『生きるかなしみ』(ちくま文庫, 1995年)を読んだ。筑摩書房より1991年に刊行された本の文庫化とのこと。昨年亡くなられた山田氏が著名な脚本家であったことは知っているが、私はこれまで山田作品に接したことはない(有名なテレビドラマ作品のどれ一つとして未視聴である)。かろうじて、大林宣彦監督作品の映画『異人たちの夏』(1988年)の原作者として、間接的にその作品に触れたことがある程度である。本書は、中古書店で見かけてタイトルに惹かれて購入したもの。エッセイを中心に

#580:リチャード・ローティ著『偶然性・アイロニー・連帯 リベラル・ユートピアの可能性』

 リチャード・ローティ著『偶然性・アイロニー・連帯 リベラル・ユートピアの可能性』(岩波書店, 2000年)を読んだ。原書が刊行されたのは1989年とのこと。つい先日、朱喜哲著『NHK 100分 de 名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯』(NHK出版, 2024年)を読んだばかりだが、さっそく本書を読んでみることにした。  一度読んだくらいで十分に理解できるはずもなく、また、まとまった感想を述べる力は私にはないので、印象に残ったところについて、思いつくままにメモしてお

#579:土屋隆夫著『寒い夫婦』

 土屋隆夫著『寒い夫婦』(光文社文庫, 1995年)を読んだ。著者の作品は、主要な長編を高校生の頃にまとめて読んだ。『影の告発』『針の誘い』『危険な童話』など。当時は、著者の主要な作品は角川文庫にラインナップしていて、明るいグレーの背表紙カラーが懐かしく思い出される。若い頃の私は、ともかく“読むのは長編に限る派”だったので、短編作品もポツポツ読むようになったのはその後だいぶ経ってから。今では、集中力の衰えが著しく(苦笑)、むしろ長編作品よりも短編作品のアンソロジーの方に進んで

#578:ルーシー・ワースリー著『アガサ・クリスティー とらえどころのないミステリの女王』

 ルーシー・ワースリー著『アガサ・クリスティー とらえどころのないミステリの女王』(原書房, 2023年)を読んだ。原書が刊行されたのは2022年とのこと。先日、新聞の書評欄で取り上げられているのを見かけて、ここのところ、クリスティー作品の再読(一部、初読、再々読)に取り組んでいることもあり、クリスティーの伝記には触れたことがなかったので、この機会に読んでみようと思った。  本書は結構分厚いハードカヴァー本。はじめに16ページにわたって少女期から最晩年までのクリスティーやそ

#577:朱喜哲著『NHK 100分 de 名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯』

 朱喜哲著『NHK 100分 de 名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯』(NHK出版, 2024年)を読んだ。著者の名には、以前読んだ、谷川嘉浩・朱喜哲・杉谷和哉著『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる 答えを急がず立ち止まる力』(さくら舎, 2023年)の著者の一人として見覚えがある。ローティに関しては、まだその著作は読んだことはないのだが、大学生の頃に大学生協の書籍部に平積みされていた、当時の新刊の『哲学の脱構築』(御茶ノ水書房, 1985年)が、分厚くて重くて高価な

#576:レイモンド・カーヴァー著『CARVER'S DOZEN レイモンド・カーヴァー傑作選』

 レイモンド・カーヴァー著『CARVER'S DOZEN レイモンド・カーヴァー傑作選』(中公文庫, 1997年)を読んだ。1994年に中央公論社から刊行された単行本を文庫化したものとのこと。本書は訳者の村上春樹氏がセレクトした作品集で、村上氏自身の個人訳による『レイモンド・カーヴァー全集』(中央公論社)をさらに新たに訳し直したものとのことである。  私の手元には、大学生の頃に購入して以来未読のままになっている『ぼくが電話をかけている場所』(中公文庫, 1986年)があるの

#575:小池靖著『心理療法が宗教になるとき セラピーとスピリチュアリティをめぐる社会学』

 小池靖著『心理療法が宗教になるとき セラピーとスピリチュアリティをめぐる社会学』(立教大学出版会, 2023年)を読んだ。知人を通じて本書のことを知り、読んでみようと購入したもの。いつも頼りの某密林サイトでは新品が購入できず(中古品はあったが定価の倍以上の価格設定)、他の書店系のサイトをあたって店頭取り寄せで入手した。  著者略歴を見ると、著者の専門は「宗教社会学、心理主義論」とある。タイトルに惹かれて本書を読んでみたのだが、先に書けば、私が想像していたのとは違った内容だ

#573:中島河太郎・権田萬治編『日本代表ミステリー選集6 人肉料理』

 中島河太郎・権田萬治編『日本代表ミステリー選集6 人肉料理』(角川文庫, 1975年)を読んだ。私が入手したのは1980年に発行された第8刷であるが、経年変化による紙の変色はあるものの、保存状態の良い美本であった。全429ページで定価は420円。  表紙カバーの折り返し部分の記載によれば、「 この<日本代表ミステリー選集>は、九〇人の第一線の作家によって戦後発表されたミステリーの中から、名作の名に値する短編一二〇編を選び、全十二巻に編集しました」とのこと。というわけで、本