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読んだ本

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自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。
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#読書

#646:天藤真著『大誘拐』

 天藤真著『大誘拐』(双葉文庫, 1996年)を読んだ。本書は双葉文庫から刊行された「日本推理作家協会賞受賞作全集」の第37巻にあたる。ネットで調べると、この全集は第95巻まで発売されたことが確認できた。以後、刊行は止まったのだろうか?  本作品が最初に刊行されたのは1978年とのことで、翌1979年に第32回日本推理作家協会賞を長編部門で受賞している。文庫版としては、はじめ角川文庫に収録され、現在は創元推理文庫から刊行されているものが入手しやすいはずだ。私は本書を、日本推

#645:河合隼雄著『日本人とアイデンティティ 心理療法家の着想』

 河合隼雄著『日本人とアイデンティティ 心理療法家の着想』(講談社+α文庫, 1995年)を読んだ。巻末に、創元社から1984年に刊行された本を文庫化にあたって再編集した旨の編集者によるものと思われる記述がある。調べてみると、創元社版の方は『日本人とアイデンティティ 心理療法家の眼』のタイトルで刊行されている。ネットで調べてみた範囲では、詳細はわからなかったが、文章の収録順が大幅に変えられ、収録された文章につけられたタイトルが一部変更されているようだ。  著者が「文庫版まえ

#644:アーシュラ・K・ル・グウィン著『風の十二方位』

 アーシュラ・K・ル・グウィン著『風の十二方位』(ハヤカワSF文庫, 1980年)を読んだ。原著刊行年は1975年とのこと。17篇の作品を収録した短編集である。本書の存在は若い頃から知っており、ずっと気にはなっていたが、なかなか手を出せずにきた。  私は著者の作品を、ゲド戦記の初めの三作の他に、やはり若い頃に『闇の左手』と『所有せざる人々』を読んだことがあるのみ。内容はすっかり忘れてしまっているが、『所有せざる人々』には感銘を受け、『闇の左手』はよくわからなかったという印象

#643:村上靖彦著『すき間の哲学 世界から存在しないことにされた人たちを掬うこと』

 村上靖彦著『すき間の哲学 世界から存在しないことにされた人たちを掬うこと』(ミネルヴァ書房, 2024年)を読んだ。私がこれまで読んできた著者の本にはさまざまな形で刺激を受けてきたが、本書もまた、私にとっては刺激に富んだ本であった。  本書のテーマは、大づかみに言えば、さまざまな個人が抱える社会の中での生きづらさが不可視化されていくプロセスと、そのようにして不可視化された人々のあり方に私たちがどのようにして出会うことができるかという実践のあり方と、そのような出会いが私たち

#642:池内紀・川本三郎・松田哲夫編『日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景』

 池内紀・川本三郎・松田哲夫編『日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景』(新潮文庫, 2015年)を読んだ。本巻に収録されているのは、16人の作家による短編作品。  読み応えのある作品揃いの中で、とりわけ私の印象に残った作品を挙げるなら、吉村昭「梅の蕾」(1995)、浅田次郎「ラブ・レター」(1996)、重松清「セッちゃん」(1999)、村上春樹「アイロンのある風景」(1999)、吉本ばなな「田所さん」(1999)、山本文緒「庭」(2000)

#641:池見陽編著『フォーカシングへの誘い 個人的成長と臨床に生かす「心の実感」』

 池見陽編著『フォーカシングへの誘い 個人的成長と臨床に生かす「心の実感」』(サイエンス社, 1997年)を読んだ。フォーカシングに関連する書籍として、最近、村上正治編著『フォーカシング・セミナー』(福村出版)を読んだばかりだが、本書はその『フォーカシング・セミナー』と同時に中古書店で入手したもの。そういう縁もあって、間をおかずに本書を読んでみることにした。  本書のテーマは、さまざまな現場で、さまざまな目的で、フォーカシングがどのように実践され、どのように応用されているか

#640:本格ミステリ作家クラブ編『見えない殺人カード 本格短編ベストコレクション』

 本格ミステリ作家クラブ編『見えない殺人カード 本格短編ベストコレクション』(講談社文庫, 2012年)を読んだ。本書には9人の作家の短編と、1篇の評論が収録されている。解説は我孫子武丸氏。  収録作の中では、黒田研二「はだしの親父」が、私の印象に最も残った。父親が病死したときの奇妙な状況と家族の情とを絡めた作品で、ぎこちなさは感じるが、うまく構成された佳作であると思う。  東川篤哉「殺人現場では靴をお脱ぎください」は、後にシリーズ化され、映像化もされたヒット作品の第一作

#639:相沢沙呼著『午前零時のサンドリヨン』

 相沢沙呼著『午前零時のサンドリヨン』(創元推理文庫, 2012年)を読んだ。2009年に東京創元社から刊行された本を文庫化したものとのこと。本作は2009年度の第19回鮎川哲也賞の受賞作だそうだ。著者の作品については、これまで城塚翡翠シリーズしか読んだことがなく、興味津々で読んでみた。  基本的にはライトノベル系の作品と言えるだろうか。男子高校生を語り手として高校を舞台とした作品である。4篇の短編作品から成る連作短編集の体裁を取りながら、一本の長編として着地させるタイプの

#638:村山正治編『フォーカシング・セミナー』

 村山正治編『フォーカシング・セミナー』(福村出版, 1991年)を読んだ。ずいぶん前に、たまたま近所の中古書店で見かけて買って、ずっと積読状態になっていたのだが、この度、思い立って手を伸ばしてみたという次第。  編者による「はしがき」によれば、本書は、1987年9月に東京で開催されたジェンドリン夫妻によるセミナーの記録を中心に編集された本であるとのこと。当時の熱気と参加者たちの興奮が行間からこぼれ落ちるように伝わってくる本であった。  本書の特徴は、セミナーの主要部分の

#637:森嶋通夫著『サッチャー時代のイギリス その政治、経済、教育』

 森嶋通夫著『サッチャー時代のイギリス その政治、経済、教育』(岩波新書, 1988年)を読んだ。タイトルだけを見ると、回顧的に振り返って評価する内容の本のようにも思われるが、本書を読んでみてわかったのは(本書の刊行年とサッチャーの首相在任期間を対照すれば気がつくことではあるが)、本書がリアルタイムに進行中のイギリスの社会状況を描写し、分析し、近未来についての見通しを述べた本であることだ。  著者の本を読むのは、これが4冊目だと思うが、どの本を読んでも、背筋がピシッと伸びた

#636:アガサ・クリスティー著『マン島の黄金』

 アガサ・クリスティー著『マン島の黄金』(ハヤカワ文庫, 2001年)を読んだ。原題は、When the Light Lasts and Other Storiesで、原著の刊行は1997年。著者の死後、かなり経ってから、単行本未収録の作品を中心に編まれた短編集とのことである。そういう経緯もあって、内容的には、ややごった煮感は否めない。  イギリス版とアメリカ版とでは収録作品に違いがあり、アメリカ版の方が一篇多いとのことで、この日本語版はアメリカ版に準拠して全10篇の作品が

#635:野田知佑著『日本の川を旅する カヌー単独行』

 野田知佑著『日本の川を旅する カヌー単独行』(新潮文庫, 1985年)を読んだ。日本交通公社から1982年に刊行された本を文庫化したものとのこと。「あとがき」によれば、日本交通公社(現JTB)から発行されていた『旅』誌(調べてみると2012年に廃刊となっている)に連載されたものがまとめられているとのことである。解説は椎名誠氏。本書の存在はリアルタイムで認識していたが、これまでは読む機会を作らずにきた。たまたま中古書店で目に留まったのをきっかけに、ようやく読むことができた。

#634:鮎川哲也編『殺しのダイヤグラム トラベル・ミステリー③』

 鮎川哲也編『殺しのダイヤグラム トラベル・ミステリー③』(徳間文庫, 1983年)を読んだ。本巻に収録されているのは、大島秘外史、島田一男、角免栄児、大谷羊太郎、森村誠一、天城一、多岐川恭の各氏の短編作品。  私にとって、本巻中最も読み応えがあるったのは島田氏の「恐風」(1951年)。分量的には、短編というより中編に相当する作品で、駅の荷物預かり所に預けられたトランクから発見された死体の謎を追う作品。新聞記者のチームの視点から、トランクの動きを追いつつ犯人に迫る過程が描か

#633:河合隼雄著『日本文化のゆくえ』

 河合隼雄著『日本文化のゆくえ』(岩波現代文庫, 2013年)を読んだ。本書は、岩波書店から2000年に刊行された本を文庫化したもの。文庫化の前に、2002年に岩波書店から刊行された『河合隼雄著作集』第II期第11巻「日本人と日本社会のゆくえ」に収録されたとのことである。  「まえがき」によれば、本書の母胎になったのは、やはり岩波書店から刊行された『現代日本文化論』全13巻(1996-1998年)とのこと。本書は全12章から成るが、その内容から、それぞれの巻に著者が編者の立