想い出のまちぶせ
オチボは、ふとLINEを開いて、プリンからのメッセージを見返していた。彼女とは高校時代の同級生で、青春時代のことを語り合うのが二人のささやかな楽しみだ。
「ねえ、覚えてる? 石川ひとみの『まちぶせ』、あの曲が流れるたびに誰かが妙にそわそわしてたよね。フィーリングカップル5対5なんて番組もあったし、あの頃の恋愛事情って、今思うと笑っちゃうよね。」
プリンがそう打ってきた。
オチボは少し微笑んで、あの懐かしいメロディーを思い出しながら返信した。
「そうだなぁ。なんだかんだで、あの頃の恋ってドキドキしたよな。あの番組なんて、なんだかんだでみんな真剣に見てたしさ。」
二人の会話はいつも通り、気楽で軽やかだった。でも、今日のやり取りはどこか違う雰囲気を帯びていた。オチボが冗談交じりに「もし今フィーリングカップルに出たらどうなるかな?」とメッセージを送ると、プリンからの返信が意外な方向に展開したのだ。
「それさ、実はずっと考えてたんだけど…私たち、あのときに一歩踏み出してたら、今どうなってたかな?」
思わぬ告白のような一言に、オチボは一瞬、手が止まった。彼女の意図がすぐに理解できなかったのか、それとも理解したくなかったのか。心の中に浮かぶのは、あの頃の甘酸っぱい記憶と、いま目の前にある現実との狭間で揺れる感情だった。
思い出が動き出す。
ある日、いつものようにLINEで懐かしい話に花を咲かせていたオチボとプリン。
「まちぶせ」の話題が出て、二人は高校時代の恋愛や、フィーリングカップル5対5を通じての甘酸っぱい体験を語り合っていた。
オチボはふと冗談混じりに、
「俺たち、もし今フィーリングカップルに出たらどうなってたかな?」
と送ってみた。
それに対するプリンの返信は、いつもより少し真剣なトーンだった。
「実はね、あの頃からずっと、気になってたことがあるの…」
オチボは思わずスマホを握りしめた。何かが今、動き出そうとしている――あの頃の青春が、ふいに今の時間に重なり合うように。
すると突然、LINEにプリンからの写真が送られてきた。
それはなんと、プリンのカフェの前で撮られた写真で、今日の彼女がフィーリングカップルのように5対5で座っている姿だった。
「えっ、何これ?どういうこと?」
オチボは戸惑いながらも、何かが起きようとしていることを直感的に感じ取った。
その写真には、プリンだけでなく、見知らぬ5人の男女が並んで座っていた。
オチボは、送られてきた写真を見つめながら、心臓がドキドキと早くなっていくのを感じていた。プリンの冗談混じりのいたずらか?それとも本気なのか?彼の頭の中では、甘酸っぱい青春時代の記憶がフラッシュバックしていた。あの頃、フィーリングカップル5対5の番組で、密かに「この子、いいな」と思っていた相手がいた。それは…もしかしてプリンだったのか?
LINEの通知音が再び鳴り、オチボはハッとして画面に目を落とした。そこには短いメッセージが表示されていた。
「カフェに来て。大事な話があるの」
オチボは一瞬、思考が止まった。「大事な話」――その言葉が彼の頭の中で何度も繰り返される。胸の中には期待と不安が入り混じった複雑な感情が渦巻いていた。彼はすぐにカフェに向かう決心をした。長年、どこか心の奥にしまい込んでいた青春の感情が、今ふたたび表面に浮かび上がってきたかのようだった。
オチボが向かった先は、カフェ「プリンセス」。その名前は、彼女の愛称「プリン」にちなんで付けられている。店に近づくと、手書き風の看板が目に入った。そこには、温かみのある文字で「プリンセス」と書かれ、下には「手作りスイーツと特製プリン」と続いている。どこか懐かしいレトロなデザインが、オチボの心にふと過去を思い出させた。
カフェの外観はレンガ造りで、控えめながらも温かい雰囲気が漂っている。大きな窓からは柔らかな光が漏れ、小さなテラス席には色とりどりの鉢植えが飾られていた。その風景は、まるで昔の映画のワンシーンのようで、オチボは自然と微笑んでしまう。
店内に足を踏み入れると、木の温もりを感じるテーブルや椅子が並び、アンティーク風のランプが店内を優しく照らしていた。壁には、昭和や平成時代のレコードジャケットやポスターが飾られており、時代を超えた懐かしい空気がゆっくりと漂っている。特に、奥にある大きな棚には、プリン自慢の手作りスイーツが美しく並んでいた。目を引くのは、やはり看板メニューの「特製プリン」。この濃厚で滑らかなプリンは、少しほろ苦いカラメルソースと相まって、店の名物となっている。
「手作りのプリン…まさに彼女らしいな」とオチボは心の中で思った。かつて一緒に過ごした青春時代、彼女はいつも何かしら新しいものを作り出していた。今では、その創造性がこのカフェの看板メニューに生かされていることを知り、彼は一瞬、過去と現在が交差する感覚を味わった。
「お待たせ!」突然の声に、オチボはハッとして顔を上げる。そこには、普段通りの明るい笑顔を浮かべたプリンが立っていた。そして、その隣には見知らぬ5人の男女が座っている。彼らが、プリンがLINEで送ってきた写真のメンバーだ。オチボの胸が高鳴り、期待と不安が入り混じった感情が押し寄せる。
「実は、今日は特別な日なんだ」とプリンが言い、周囲の5人もニヤリと笑う。オチボは、彼女の口からどんな言葉が続くのかを固唾を飲んで待った。そして、彼女の言葉が次の瞬間、オチボを思いもよらない展開へと導いていく――。
青春時代、フィーリングカップル5対5のテレビ番組を思い出していたオチボ。しかし、今日このカフェ「プリンセス」で起こるのは、単なる懐かしい遊びではないことを、彼はまだ知らなかった。
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