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【読書感想文】Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔

(台北の寧夏夜市。2020年10月10日撮影)

世界にコロナが蔓延する中で、いち早く手を打ち国内の新規感染者がほぼゼロという状態を作った台湾。

7月末から台北にいる。それまでいた東京では、誰もがまず外出するかどうかを検討し、リスクをいかに減らすか…ということを考えていた。

こちらでは、乗り物やレストラン等で検温、マスクをしなければいけないこと以外、ほぼ普段と同じ生活ができる。withコロナ、アフターコロナ…起きたことは仕方が無いが、台湾にいると日常生活でそれを意識することはほぼない。花火大会やコンサートも、最近では人数制限などせず開催されている。

2003年SARSの経験から、色々なことを学び備えてきた台湾の人たちと政府が一体となって、今の状態を作っていることは台湾の人と話すとよく分かる。その立役者の一人として、最近世界で知名度を上げているIT大臣オードリー・タンの誕生から現在までをまとめたのがこの本だ。

彼女の生い立ちとそれに連なる台湾の社会史は、日本を始め世界がこれから直面するであろう問題だった。自分でできる勉強は自分でどんどん進めてしまう、学校の授業に意味を見いだせない、ホームスクーリング…親は子供の考えや動きに驚きつつも、本人に合った教育方針の学校を世界中で探す。

個人の考えに比較的寛容な台湾でも、彼女の子供時代は、まだまだ型にはめる教育のほうが主流だったと思う。そんな中でも迷ったり悩んだりしつつも、子供の資質や考えを尊重して環境を与えたご両親は凄い。

1990年代、インターネットが普及し始め、協働で参加者の考えを尊重しながらプログラムを作り上げることに生きがいを見出し、perl6のリリースに多大な貢献をする。その後siriの開発などに関わる。

そこで培ったフラットな世界の実現を、仲間と台湾の民主政治に持ち込む。国家予算をハックして可視化、政府に対して誰でも政策提案ができるコミュニティを立ち上げる(実際に政策検討の際にも使われている)。2014年、中国とのサービス貿易協定を政府国民党が強引に通そうとした時立ち上がった抗議活動「ひまわり学生運動」も通信の確保を中心にサポートした。

それを見て政府の人員に引き込まれる、というのもオープンマインドな台湾らしいが、その後の活躍は最近の報道を見るとおりである。結果、台湾は民主政治のDXが非常に進んでいる。可視化、アクセスのしやすさにより市民が政治や公的サービスに関わる意思決定に参加しやすくなっている。

マスク在庫可視化はプログラマーの一般市民が作り出したものだし、バスの運行情報やライドシェアの空き情報など、公共情報のAPIでアプリをどんどん作れるようにもなっている。日本もこういうDXがどんどん進むといいな。

(夜、迪化街にて。2020年10月10日撮影)

今年8月に亡くなった李登輝元総統の献花に行った時、展示で改めて知ったのは、台湾の民主の歴史はまだ25年ほどで、戒厳令下から今の状態を手に入れたことを、台湾の人は本当に大切にしているということだ。

そんな台湾でも、「自分の意見は政治に届かない」「何をしても無駄」という風潮の時期があった。それが今、オープン化によって変わりつつある。自分が暮らす地域の政治を、政治家だけのものにしないことは、自分の考え、行動ひとつで変えられる。

そんな世界を、日本を始め色々な地域で必要としているはずで、台湾はそのお手本になるんじゃないか。コロナ対応以外にも、台湾に学ぶことはたくさんあるなと思わされた本だった。

『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』

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