アニマルガールの心理(0) ~奇妙な「いい子たち」~

今回からアニマルガールの心理を、とくに発達心理学の面から分析していく。ただし本記事は、あくまで「問題提起」という程度の内容にとどまってしまう。まだあまり考察が進んでいないからだ。

アニマルガールの心理や言動は作品によって異なる。今回はけものフレンズ3をベースにして考えていく。

アニマルガールはジャパリパークでみんな仲良く暮らしている。彼女らは、無邪気で子供らしい面を持ちつつも、それだけでは説明のつかない言動を多くしている。例えば:

1. 相手の心理を推し量る

2. 生まれつき言葉が話せる

3. 自分の心理を言葉で表現する

4. 他者のために尽くそうとする

1. 相手の心理を推し量る

ことは、心理学の言葉では「メンタライゼーション」と呼ぶ。この能力は決して生まれつき備わっているわけではない。多くの経験や本、映像などから体系的に、相手の心理を推測する能力を育てていく。

また、その学習のためには「愛着」が重要な役割を果たしている。愛着とは、6ヶ月~3歳くらいの子どもが自分の養育者を認識して、その相手に自分の要望を伝えたり、守ってもらおうとひっついたりすることである。この養育者のことを、「安全基地」と呼ぶ。多くの場合これは母親であるが、母親以外でも養育者の役割を果たすことはできる。ただし、養育者は固定されている必要がある。

理想的な養育が行われると、「安定した愛着」が形成される。安定した愛着を持つ子どもは養育者を「安全基地」とみなす。子どもは安全基地から一定の距離を探索し、危険や不安を感じると安全基地に戻る。それが去ると再び探索するという行動を繰り返して、世界についての経験を深めていく。

養育者が固定されておらず次々と変わったり、養育者に拒絶される、放置される、虐待されるといった不適切な養育が行われると、「不安定な愛着」が形成される。すなわち、子どもにとっては養育者の近く=安全 であるため、危険や不安を感じると戻ってくるのだが、養育者自体が危険であると危険や不安を解消する方法が無く、混乱する。結果として、主に2つの行動がみられる:

A. 回避型 誰も養育者として認めず、他者を近づけようとしない

B. 依存型 誰かを強引に自分の近くに縛り付けようとする

愛着形成の結果は子ども時代だけでなく、その後の人生における行動全体に影響し続ける。

さて、メンタライゼーションも周囲の世界を探索して学んでいく事柄である以上、安全基地の存在は必須である。また、自閉症スペクトラム障害と呼ばれる、メンタライゼーションに(おそらく)先天的問題を抱える子どももいる。この場合は愛着が形成されていてもメンタライゼーションがうまくいかず、相手の気持ちが分からないので人間関係に問題を抱えることが多い。

2. 生まれつき言葉が話せる

についてはあまりいうべきことはないが、本来ならば言語を学習しなければ話すことも聞くこともできないはずであるが、今のところうまれつき言葉を話せないアニマルガールは確認されていない。一方、ほとんどのアニマルガールは生まれつき文字を読むことはできない。

3. 自分の心理を言葉で表現する

は、1. と2. が両方できたうえで初めて発達させることのできる能力である。大人になってもこの能力の発達が不十分な人間が多く存在する一方で、多くのアニマルガールはこの能力を生まれつき持っているというのは驚きである。ただし、けものフレンズ3の例ではブラックジャガーやオオサイチョウなど、一部のアニマルガールはこの能力が不十分で、コミュニケーションに問題を生じさせている。

4. 他者のために尽くそうとする

目の前にいる人をつい助けようとする人間は多い。それはなぜだろうか?道徳の授業で教えられたり、宗教で善い行いとされているから、という点もあるが、より根本的には「共感するから」である。相手が辛い、苦しい思いをしていると、それが自分の辛さ、苦しさにつながるため、それを回避するために助けようとする(あるいは見なかったことにしようとする)。

共感には2種類ある。1つは感情的共感で、相手の感情を自分の感情のように感じることである。もう1つは認知的共感で、相手の感情を理解することである。認知的共感は、先ほど述べたメンタライゼーションと同義である。

感情的共感に基づく手助けは、必ずしも相手の実情に合わないことがある。例えば筋トレをしている人は辛そうな表情をすることがあるが、その手助けをしても筋トレをしている人にとってはありがたみはない。そのため、人間は感情的共感に基づく奉仕を避け、認知的共感を発達させようとする。

ではアニマルガールはどちらの共感をもとに奉仕を行っているだろうか?

感情的共感は自分の感情をもとに構成されているため、相手を助けようとするときに「自分がされてうれしいこと」をしようとする傾向が強い。しかし、第7章ではホッキョクウサギのアニマルガールが「落ち込んでいるヒトを助けるためにどうしたらいいか」と相談しに来るシーンがある。これは、感情的共感のみでは生まれえない発想であるので、認知的共感をある程度は用いていると考えられる。9章の初めの方など他のシーンでも、認知的共感に基づいて奉仕をしようとしている描写が見られる。

このように、アニマルガールは何の記憶も持たずに突然生まれてくるにもかかわらず、本来幼少期に育てられる様々な能力を生まれつき持っている。

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