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【虎に翼 感想】 7/4 臨界点を超えた寅子

今日の回は、誰しもが自由に感想を述べてよい回だと認識しています。どうぞご了承ください。


穂高教授は諦めていた。
教授の諦めは、“老い” のためでしかない。体調がすぐれず、死も意識し始めている。教授には、もう、体力も気力もないのだ。一度、生きることを諦めたことのある身としては、そう感じる。
寅子に共感するもしないも自由だ。昨日も言ったが、人間誰しも、自分のバックボーンや現状置かれている環境を元に、ものを考え、発言する。
だから私は共感しない。当然のことながら、共感している方々を非難するつもりもない。

もちろん、その当時の時代背景や、今とは比べものにならない女性の非力さ、立場の弱さがあるのは分かっている。だが私はそこには触れない。寅子の気持ちは、他の誰かがきっと書いてくれる。私は、老いと死を意識している人に対する振る舞いとして共感できないでいる。

ほとんどの人間が、“雨垂れの1滴” で埋もれて人生を終える。それを、“強いられた” と思って他人に怒りをぶつけるのかどうかは、自分で決めることだし、人それぞれだ。だから、寅子が教授に怒りを覚えて、謝らないと宣言し、怒鳴りつけて立ち去り、教授を一気に老けさせたのも、寅子が自分で決めたことでしかない。

昨日、寅子は、子どもたちに尊属殺の最高裁合議のことを話していた。
「判例は残る。たとえ二人でも、判決が覆らなくても、おかしいと声を上げた人の声は、決して消えない。その声が、いつか誰かの力になる日がきっとくる。私の声も、みんなの声も、決して消えることはない」

だが、教授にとっては、このときの無力感が、引退の決定打になった。だから、老いて力のない者は去ると、宣言したのだ。
これが、寅子の臨界点を一気に超えさせる結果となってしまったのが、本当に残念でならない。

さらに、教授の叫びにはびっくりした。今まで寅子に怒りをぶつけられても静かに受け止めていたが、もう受け止める体力も気力もない。出がらしの最後の一絞りだった。
弁護士を辞めたとき、よねと寅子は、カフェー燈台で今回と似たような会話をしていた。あのときのよねの涙を、寅子は知らない。


寅子が弁護士を辞めたとき、教授をはじめとした男性たちが、婦人弁護士としていろいろなものを背負っていた寅子の荷物を、後ろから一斉に剥がしたことによって、寅子は力尽きてしまった。今は、教授が自分で静かにおろした荷物を、”もういらないだろう” と、寅子が片っ端から蹴って歩いているのだ。

老いと死を意識したときに、おろせる荷物は全部おろして、次の人へ託したいと思うのは当然のことだ。そうでなければ、ギリギリまで理想という荷物を抱え込んで、最後の最期で手放して野ざらしになり、そのまま朽ち果てる運命になる。だからこそ教授は、「何もできなかった」とさらけ出して、その場にいた人たちに、荷物を受け取ってくれるよう頼んだのではないのか。せめて、自分の好きな荷物だけでもいいから拾ってほしいと。一度、荷物を剥がされた経験のある寅子からすると、勝手だとしか思えなかっただろうね。

教授が寅子を法の道に誘ったのは間違いないが、あれだけはるさんに地獄だなんだと言われても、その道に進むと決めたのは寅子だ。弁護士を辞めたきっかけは不本意だったが、遠回りしたがその道に戻ると決めたのも寅子だ。しかもそのときには「好きでここにいる」と宣言している。
教授が、数多くいる女子学生の中でも寅子を気にかけているのは事実だ。それと同じくらい、寅子も教授にこだわっている。そして、勝手に教授に課題を課し、完璧な回答を求めてしまっている。窮屈で息苦しくなる関係だ。
この息苦しさは、優未も感じている。今のままでは、今日の教授と同じように、いつか優未も叫びだすことが目に見えている。優未から ”私の思っているあなたではない” と責められたときに、どう答えるのか。

寅子と教授の出会いの場から一緒にいた桂場の目が潤んでいる。
二人が気まずいまま縁が切れるのを憂慮して、わざわざ寅子を誘ったのに、最悪の結果になってしまった。自分の行いを後悔しただろう。


共感はしないが、寅子は今のままでいいと私は思っている。周りの人々の心を、いい意味でも悪い意味でもざわつかせる存在は価値がある。

寅子は忘れているかもしれないが、裁判官には異動がある。
桂場人事課長の前であれをしたということは、
“私は、理想を携えて、どこの裁判所にでも行きます”
と言っているようなものだ。それとも、
“東京家庭裁判所が私を離さない”
とでも思っているのだろうか。
優未はかわいそうだが、きっと「一緒には行かない」と言うだろう。花江と直明と直人と直治と暮らしていけるから、大丈夫だ。自分の価値を引っさげて行けば、どこの裁判所でもやっていける。大丈夫だ。

寅子が祝賀会の場で途中退出し、中の人たちにも聞こえるように廊下で教授に怒りをぶつけ、そのまま立ち去ったことは、すべて彼女が、一人の社会人として自分で決めて自分で行動し、その結果については自分が責任を取るという強い気概があると宣言したということだ。だから寅子は今のままでいい。

穂高教授は、「後でゆっくり話そう」と言っていた。明日は金曜日だ。ちょうどよい、明日話そう。


「虎に翼」 7/4 より

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