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【虎に翼 感想】第74話 寅子の “はて” は、女性法曹者たちの未来を守った

「今から、家族会議を開始いたします」
この時点で、ちょっと言い方がアレだな、とは思ったけれど……。

道男、いい時に居てくれた。道男も家族みたいなものだけど、寅子に扶養されているわけではないからこそ、強く言えることがある。

花江のスンから始まる家族会議。おい、全員スンじゃないか!
と思って観ていたら発動される寅子のスン禁止令。
しかしこれに、強要している側が禁止してどうするんだ!のスン勢の抵抗。

そこからは、スン勢の反撃開始だ。一矢一矢が寅子に突き刺さる。

直治「その道を極めろ、一番じゃなきゃダメって態度をされると、やりたくなくなる」分かるよ。
家でもやっぱり、「ありがとう」って言っていなかったんかい。
やっぱり朝まで酒残ってたんかい!
直明の就職相談も、ほっぽってたんかい!
「ぼくのしごとのはなしもろくにきこうとしてくれない。もうぼくにきょうみがないのがかなしい!(プイッ)」末っ子直明、寂しがりや砲発動!

「みんなが新潟に行っちゃうのもさみしい。みんなと離れたくない」
ここからが本題だ。寅子が一人で行くのかどうかの重大な局面だから。

「優未に決めさせよう」
まずい流れになったと思った。そんな重い選択をさせるのかと。子どもたちが盛り上がる。
でも、花江が止めなかったとしても、寅子は間違いなく優未に向き合っていた。

寅子が優未のすぐ傍まで近づいていったのを見て、あのときも、そうして欲しかったと思い返した。星長官の著書の改訂を手伝うことになり、休みの日も家を空けると家族に説明した日。ちゃぶ台のいつもの席で話すのではなくて、奥の部屋にいる優未の傍まで行って、その場所で話して欲しいと思っていた。

「お母さん頑張るから、生まれ変わるから、だから、一緒に、新潟について来て下さい。お願いします」
そのあとの優未の即答と目の泳ぎを、どう捉えたらよいのか、たしかに悩ましい。このシーンの後ろでは、風がかなりピューピュー聞こえていたから。今は素直に、優未の心の奥底の寂しさに寅子の愛情が流れ込んだと思うことにする。
これですべて解決、というわけではないと思うけど、新天地で物理的に二人きりとなる機会に、あらたな母子関係を構築できることを願っている。


「腹立たしいが、きみは有能だ!そして俺たちに…好かれてしまっている!それが問題なんだ」

桂場が、寅子の異動の理由を説明してくれた。
力のある男性たちに守られて、“虎の威を借る” 状態になってしまった寅子。影響力を持ってしまった “はて” に、ラジオの一件での竹中記者のように好意的に見ている場合ではない。通常の裁判官の道筋を通らせるための異動であると、伝えてくれた。

桂場が人事課長だった頃の穂高先生の退任祝賀会。寅子が自分のことのみならず、本人たちが望んでいるのかも分からないのに、かつての仲間たちのことを持ち出して、代表然として放出する “はて” に、翌週に繋がる傲慢さを感じとったのかもしれない。そして、人事局長となった頃には顕著となっていた。
さらに、山本長官に対する “はて” で、寅子の異動にゴーサインが出たと受け止めたと考えられる。先日の記事で書いたように、新潟地家裁三条支部は、判事としての最初の赴任地として、桂場なりに考え抜いた場所だと思っている。桂場なりの、寅子に対する期待と愛の表れだ。

多岐川には事前に相談しておかなくてよかったな。全力阻止されるのが目に見えていたから。でもそれに怒らずに「愛だ」と言える多岐川には、家庭裁判所に長く留まってほしい。
軽薄が売りの久藤だが、苦しい展開になっても、彼の醸し出す余白があることで、観る側も窮屈にならずに済んだ。総務局長は天職だと思う。
桂場……人事局長となった今、司法の独立と権力をはき違えないように……頼みましたぞ。

小橋が「うらやましい」と言った。法廷劇のときは女子を揶揄していた小橋が、今は素直に負の感情を吐露している。
小橋が無能な裁判官だとは思っていない。ビビリだから慎重に考え過ぎて、裁判の指揮進行は遅そうだが。
稲垣は、花岡と共に現役合格したくらいだから、理路整然と、テンポよく進行してくれそうだ。
多岐川はエンジンがかかるのが遅いから、最初の5~6回の裁判期日までは進行が遅いけど、その後は急に早くなるタイプだな。
汐見は……ごめん、思いつかなかった……香子によろしく。再会できたのはあなたのおかげ。
トリオ・ザ・裁判所の面々は別としても、ほかの皆は、いずれは異動する。また登場してくれるだろうか……してくれるよね……そういう作品だもの。


ラジオの一件。寅子の “はて” に注目がいきがちだが、山本長官の「家庭裁判所は、女性裁判官にふさわしい場所だ」の言葉には、かなりの重みがある。
長官がこのように言ってしまっている以上、女性司法修習生が裁判官を希望しても、家庭裁判所に回されるし、一生、留まらされるおそれがある。高等裁判所、ひいては最高裁判所判事など、夢のまた夢だ。
家庭裁判所は、裁判官に対する性別バイアスが特にかかりやすい。ここで、“第二、第三の佐田寅子” を背負わされるとなると、多岐川の言う “愛の裁判所” どころか、元裁判官:瀬木比呂志せぎひろしさんのお言葉を借りて、 絶望の裁判所 となってしまう。
竹もとでのあの修習生たちは、よく分かっている。

寅子は、長官の言葉にすかさず反論し、自らが異動することで、前例を作らず、絶望の家庭裁判所化を阻止するに至った。

結果的に、穂高先生と山本長官に対する寅子の “はて” は、後に続く女性法曹者たちの可能性と未来を守る結果となったのである。


「虎に翼」 7/11 より

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