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血管ばら撒く丸ビル屋上

晩秋 白昼夢に視た木漏れ日と狼煙 

淡く柔らかな光は醜い世界の終わりを――

猟銃のワルツ 路上の歌 ひしゃげた空缶を踊らせ 薄紅色のマフラーを揺らす

半熟の紅葉が舞い散る×××小学校前にて。屋上で私が見た「或る少年少女の凄惨な死」をそれはソレハ陰惨な紙芝居に描き、

能面を被った子供たち、比率で云えばそう、女子八割:男子一割、生き人形一割といったところか。彼らが手を叩き涎を垂らすこの瞬間にも、砂場に埋葬されたルンペンと国語教師は砂上の丸ビル前にて陰惨な詩を書き殴っている。

ところで、私が芝居前に配る鼈甲雨 それに含んだ「青い死」に一体何人が苦しみのたうち回るのか――

「掌 錆びる釘を抜き 砂洲で破傷風 血管ばら撒く丸ビル屋上 結核広めて苦情に苦笑 自殺未遂にみんな陶酔 三島が自炊で作る雑炊」

 暴発寸前の脳神経 牛アキレス腱の秘密、万年筆のインクが切れた時、あの病んだ軽業師は韻を踏むことすら出来なくなり、某路線の快速が各駅停車駅を通過する刹那に身を投げるのかと問うが、彼はかの有名な『 』を著した大文豪であり、※ここで私が作品名を忘却してしまったことは、決して文盲だからとかなまえのないびょうきだからとか躁鬱が悪化してきているからという訳ではない。が、それにしても今夜から炬燵を使おうと思い、所謂コタツ布団をクローゼットの中から引っ張り出そうとしたのであるが、中からは丸ビルの未解決事件、頭蓋骨、星屑、涙の海、豆電球、太陽の断片、『海辺のカフカ』、焼き捨てたはずの貴女たちの化粧道具……といった得も云えない代物ばかりが、まるで生ける屍のように這いずり出てくる。床に降り積もるガラクタと雪のような埃、否ホコリのような雪、埋もれたままで積もりゆく罪。細菌感染で病棟封鎖、静脈と動脈の世界に連鎖と交錯が必然さ。

 それは兎に角、はてさて困った、ソウダ、かの無名な「最果ての映像」でも観ようとブラウン管の前で唸り唸って3時間後。寒い寒い丸ビル屋上の霊安室の中、結局私は桃色の薄い毛布を代わりに使い、無軌道にカシスソーダと惨めな血管を零しているのである。

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