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「Dear にっぽん」(ドキュメンタリー NHK)

「海獣のいる海 北海道・礼文島」

初回放送日:2024年6月23日

北海道・礼文島に半世紀以上、トドをしとめてきた猟師がいる。俵静夫、88歳。漁師でもある俵は複雑な思いを抱え、厳寒の海に向かう。俵にとって命と向き合う意味とは? 北海道・礼文島に“伝説のトド撃ち”がいる。俵静夫、88歳。厳寒の海で、体重1トンのトドをしとめ続けてきた。一発で的確に獲物をしとめる技に並ぶ者は、今後現れないとさえ言われている。昔、島民にとって、貴重なタンパク源だったトド。しかし今、猟の目的は深刻な漁業被害を減らすための駆除となった。漁師でもある俵はこう語る。「人間が魚を取りすぎたからだ」と。命と向き合う意味とは何か?北の海で暮らす老猟師の日々。
(以上公式サイトより)

海の話とは正反対だが、野生の熊が里に下りてきて、農作物や家畜そして人を襲うという報道が増えている昨今。その熊を撃つ事に「子熊だから可哀想」などというクレームが役所に届くという。そんな中途半端な優しさじみた思いは、むしろ生命を甘くみているのではないかと、自然の摂理についての認識を深めた番組だった。
またこの番組を見ながら、海ではなく山を舞台にした直木賞受賞作品「ともぐい」を思い出した。

漁業の網を食い破る害獣として、決められた数のトドを駆除しなければならない立場の俵さん。
仕留めたトドの腹に胎児がいた場合、罪のないものを殺してしまった弔いとして、彼らを剥製にしているシーンは見ていて切なかった。

揺れる船の上、険しい顔で銃を構える俵さん。
トドを苦しまずに死なせる為に、一発で仕留める。その裏にはかつてエキノコックス感染を止めるために、島民の飼い犬まで撃ち殺した過去があった話も衝撃だった。

しかしそれら全ては、生き物の生命に真摯に向き合う祈りと表裏一体なのではないかと思う。
俵さんは、末期の肺癌と診断されても手術をしない選択をした。
「子どものころから、生きてるものを金にするのに全部殺さなきゃダメだ。そういう生き方してきてるからね。死は死で認めるし、病気は病気で認めるし。ただそれだけだ」
生きる事の厳しさと向き合う一生を送ってきた俵さんだからこその言葉であり、一致した行動になるのだろう。

番組の終盤、銃をモリに持ちかえてウニ漁をする俵さんが映る。
「潮風かぶって育った人間だから、海が恋しくてとうもなんない。これが本当の職場だからね、死ぬが死ぬまでやっぱり変わることないな」
優しい笑顔でそう語る俵さんは、本当に海が好きで、できるなら海で死にたいと思っているように見えた。

番組のラスト。
トドの肉を捌き煮込んで食べている俵さんは、まさに「生命を頂いている」そんな表情をしていた。
こうやって、生き物は時に生き物を殺し、自分の血肉にして生命をつないでいくのだな、と思わせられた。


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