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海と旅立ち STU48楽曲の魅力と変化

 STU48は、国内では5番目に生まれた48グループで、瀬戸内海を拠点に活動するグループです。船上公演という他のグループには無い特徴と、楽曲の中に瀬戸内海をイメージさせるモチーフが要所に登場します。
 秋元康が美空ひばりの「川の流れのように」からAKB48の「RIVER」に川のイメージを大きく時代の流れと共に変えたように、欅坂46の「サイレントマジョリティー」で社会の空気を表したように、STU48の曲の中にも何か特別なアプローチや楽曲の変化があるのではないかと考えました。今回は、STU48のシングル楽曲を中心に考えていきたいと思います。

1、「暗闇」から始まる迷いと気づき


 STU48の1stシングル「暗闇」は、アイドルのデビューシングルとは思えないタイトルでリリースされました。この背景には、既に48グループブランドが確立されていたことで、タイトルも冒険できたのかもしれません。
 タイトルの「暗闇」とは夜の闇のことで、1番では夕暮れから歌詞の世界が始まり、様々な分かれた事象が描かれます。
 空と海、故郷と都会、欲しいものといらないもの、現実と理想。
 様々なものに挟まれた曲の主人公の「僕」が見るのは、空と海の境界線とも言える「水平線」です。
 「僕」は防波堤で考えを続けますが、「詩人」という現実よりも理想や想像の方に近い人の言葉を否定します。あくまで無様に現実に即して生きて行きたいと。
 そう考えると、「僕」が実は分かれているもののどちらを選ぼうとしているのかも見えて来る気がします。
 防波堤に腰をかけて考え続ける主人公は、最後に「希望の足音」を感じて世界は終わります。 
 夕暮れの防波堤から夜に時間が移り、夜明けの光が来るまでの暗闇で沈思黙考するこの主人公の姿は、これまでの48グループ曲とは、まったく違う魅力がありました。
 この曲で描かれる海はSKE48の「羽豆岬」のような元気をもらえるような海でも無ければ、NMB48の「絶滅黒髪少女」のような賑やかさもありません( どちらかというと『僕はいない』の海の方が近い気がします )。主人公の迷いと気づきを受け止める場がSTU48の「海」ではないか、とこの曲を聴いて感じました。そして、多くの人にとっての「海」にあたる場所があるはずだ、とも感じさせます。
 未だにこの曲は、考え事に行き詰った時や夜に散歩する時に聴きます。


2、「風を待つ」が教えるもの

 前作の「暗闇」から一転して、「風を待つ」は暗喩的な内容が多い歌詞になっています。
 まずは、曲の冒頭に登場する「夢」というキーワード。
 寝て見る夢はすぐに消えてしまうのに対して、故郷を旅立った「君」の夢は都会でも残っているのか、そして、消えてしまったり変わったりするかもしれない夢に対して、「僕」の「君」への気持ちは、離れ離れになっても変わっていないことが描かれます。
 曲中で「僕」は海に面した「桟橋」に立って「君」を待ちます。
 「僕」は自分を「帆を畳んだ帆船」に見立てます。
 風を受けないと帆船は動きません。
 その風は何なのか?
 僕が待っている「君」なのではないでしょうか?
 「君」の訪れが「僕」という帆船の「風」になる。
 つまり、「僕」の行動開始を予感させます。
 そして、「君」に会いたいという気持ちが、「恋」であることに気がつき、歌詞の世界は終わります。
 「僕」自身はじっと動けない、何故なら「君」と離れ離れにいるからです。しかし、君への気持ちは「愛」としてずっと止まらずに動いていました。
 防波堤よりも海に面している桟橋で自分の思いに気づくというこの歌詞の世界は、「暗闇」と通じる「気づき」の要素があると思います。
 ちなみに、この曲のMVは静的な歌詞とは違い、動的な要素の強いものになっています。
 なんとなく、時間に追われない休日の朝に聴くと、凄く爽やかな気持ちになれる名曲です。

3、「大好きな人」で強くなる海と旅立ちの要素

 シングル3曲目の大好きな人では、1番の歌詞の始まりで、いきなり主人公は気づきます。しかも、「愛」について。これまで「暗闇」や「風を待つ」では、主人公は気づきを予感したり、サビの終わりで気づいていたのに、「大好きな人」では、先に気づきが提示されてそこからどのようなことが「愛」なのかを語っていきます。
 「僕」が住む、「この街」を出て行く君の不安な背中を押す為に、僕は「サヨナラ」を決めます。自分の意思を我慢させて。
 大好きな人の幸せを叫ぶ場所は、前2作と同じ「海」です。
 2番では「君」が「夢」を語っていたところが描かれます。自分と別れることで、「君」の「夢」が叶うのならば、それで良いと「僕」は思いますが、やはり、辛さもあって「無理」に微笑みます。
 この答えが正しかったのだ、と自分に言い聞かすような「涙よ ありがとう」で歌詞は終わります。
 都会に旅立つ「大好きな人」を見送る歌詞が本当に素晴らしくて、聴くと泣いてしまうので(特に最後の盛り上がりが弱いです)、なるべく聴かないようにしています。
 シングル同士の関係は薄いと思いますが、時間軸で並べると「風を待つ」の前日譚のようにも感じます。「風を待つ」の「やりたいことを見つけて都会へ行った 君」に「夢は見続けてるか」と問う部分の補完のようにも感じます。
 夕陽を浴びるSTU48号とメンバーたちのMVは、瀬戸内の海の美しさを感じますし、既に使われなくなったSTU48号視点でみると新しい世界へ旅立つメンバーたちへのメッセージのような楽しみ方もできます。


4、ギアが上がった「無謀な夢は覚めることがない」 

 4作目の「無謀な夢は覚めることがない」は、STU48のシングルの曲に現れる「夢」と「海」のモチーフの「夢」がタイトルとして使われています。
 今回主人公がいる場所は「夜明け前の海」。
 「暗闇」の時間をより「夜明け」に近づけた時間から曲の世界は始まります。
 見えないもの(曲中では『大陸』)を見たくなり、遠くのものほど欲しくなります。「近く」を否定し、「遠く」へ行けとメッセージを語ります。
 「手堅さ」よりも「トラブル」へとも。
 この曲中では「もしもう一度やり直したって」と曲中の人物が語っていることから、既に「無謀な夢」を見て旅立った人物が若者へと語っているように読み取れます。
 この人物の「夢」は時間が経っても瞼の裏に焼き付いて、覚めることがありません。この辺りは、「風を待つ」の「僕」とは大きく違いますね。また、「暗闇」の中で聞こえてきた「希望」も「言い訳」として、行動するべきだということも語っています。
 「無謀な旅」こそが、「孤独」を知り、多くの人や「愛」に出会い、自分を大人にするものであると曲の主人公は語ります。
 これまでのシングルをもし、時間軸で並べるとすれば、もう旅を終わえた主人公が若者に語りかける内容からかなり後ろに位置する曲ではないか、と思います。 
 曲の舞台が「夜明け前の海」ということで「暗闇」で二つの概念に悩む「僕」への答えをここで導き、悩んでいるだけでは始まらないので動き出せ、というメッセージソングにも読み取れます。
 個人的には、この4枚目が出た時に、一気にSTU48がギアを上げてきたな、と感じました。これまでの自分のいる場所である田舎の海を離れるような内容にSTU48の楽曲が新しい世界に進み始めた気がしました。
 MVも瀬戸内の美しさだけではなく、どこか力強さや広さ、遠くさを感じさせる場所でのダンスが多いように感じます。

5、「思い出せる恋をしよう」から想像する未来

 5枚目のシングル「思い出せる恋をしよう」は時間について意識させられる楽曲です。
 曲の冒頭から別れを連想させられる「違う空」や「思い出せる」というキーワードが出てきます。
 お互いを好きであることを知りつつも、手にいれることで失ってしまう不安。曲の主人公は何度も「思い出す」、「忘れない」という「今日」という時間の輝きを語ります。
 もし、別れたとしても「涙以上に微笑み」で思い出せる素晴らしいものにしたいと考えているわけです。
 2番の手を繋いで歩いた向日葵の道の描写でも、主人公は幸せな時間の貴重さを知っているので、今という時を少しでも長く味わうためにゆっくりと歩こうとします。
 上手く行っているはずなのに、どこかで不安の影が差す。
 ならば、その初恋の不安を一旦受け入れて、「今日」を「思い出せる」ほど大事にできればと考えます。
 この曲の主人公はSTU48の曲としては、珍しく曲の中で「夢」が叶ってしまいます。しかし、「夢」を叶えた後に維持しつづけることの難しさもこの曲では語っている気がします。
 「今」という時間が「昔話」になった時、どんな物語になっているかは、自分次第だ、ということとだからこそ、今となりにいる「君」を大事にしたいという思いが表されています。
 この曲はSTU48のシングル表題曲の中で、初めて「海」が登場しません。
 「海」という悩める者や旅立つ者に寄り添う場所とは関係が薄いのかもしれません。今回の曲のような「今」や「今日」というものを大事にする登場人物とは相性が悪いんでしょうか。
 少なくとも、この曲の主人公は「広大な大陸」のような場所的な遠さは確かに思い浮かべていませんが、「将来」という時間的な遠さはずっと意識しています。ただ、ある意味、「答えが出てしまっている状態」だとも言えます。その答えに至るまでの道順や決意を語るストーリー性の強い歌詞になっています。
 そして、このストーリー性は、次のシングルで一気に加速します。
 MVは、青春時代を連想させる学校の下駄箱や海辺の風景が描かれています。これまでのMVの中では、一番柔らかい印象があります。
 もし、他の曲との関連性を考えるならば、「大好きな人」との関連が一番あるのでは、と思います。お互いに両想いであるということは勿論なんですが、「別れの時」という「今」という時間について語っている歌詞でもあるからです。

6、「独り言で語るくらいなら」で到達する旅立ち

 6枚目のシングル「独り言で語るくらいなら」は、いきなり主人公の行動から始まります。それは、いつもとは違う「反対のホーム」から電車に乗ること。これは、今までの「故郷」や「田舎」にいる主人公のような場所にとどまっている主人公とは、違うスタートです。
 歌詞を読み進めていくうちに、主人公は「人混み」の中、つまり都会に居た人物だということが明らかになります。主人公が乗った電車は街から田園へ。これまでのSTU48の曲の主人公とは違う境遇です。
 ここで、主人公は今の場所で「語る」ことや「想像する」ことよりも、「行動する」ことの大切さに気付きます。更に、その「行動する」先は、みんなが目指す場所ではなく、自分だけの場所でないといけないと。
 この辺りは、一見すると、1作目の「暗闇」で描かれた世界の少し先に進み始めた気がします。
 終着駅に到着した主人公、そこには自分しかいませんでした。
 孤独になることで「心細さ」と「新しい世界」を主人公は感じます。
 そして、「風」が頬に触れた時に、「僕」は現実に立ち向かうことを意識します。
 ここまでで、何度も想像を否定し、行動することが語られます。
 ずっと街に居ては、気付けなかった何かを行動を起こすことで、知ることが出来たわけです。
 何かを掴んだ「僕」は、「街」に戻ることにします。
 他者と自分を比較せずに、自分の考えを発することが出来るようになります。
 「街」から「田園」そして「街」に戻る。
 これは、STU48の曲中に何度か登場する「旅立ち」を1曲の中で描いています。
 そして、今まで描いていなかった旅立った場所へ戻るところまでも。
 「夢」は「近く」にある、つまり、場所ではなくどんな行動を取り、自分の内的世界を新しくできるかなのではないか、と考えられます。そこに気づくための「旅立ち」であったと。
 「みんなの目的地」では当然、自分の目的地とは違うので「夢」とも接続しないわけですね。
 一つのところにとどまって、想像だけで終わるぐらいならば、自分の「夢」に気づける行動を起こすべきだ、というメッセージを感じます。
 他の曲との関係を考えてみると、「暗闇」や「無謀な夢は覚めることがない」との関連性が思い浮かびます。孤独を感じた時、つまり、「暗闇」と同じ沈思黙考の時間に、気付きがある。「想像」から「行動」へと描かれる主人公像の「成長」をこの6枚目のシングルでは感じます。
 MVは初のロケではない、CG撮影のせいかこれまでのSTU48色は薄いですが、空が本当に美しく、主人公が見た光景はもしかして、こういうものだったのではないか、と僕は感じました。

7、補足  二つの曲から見えて来る「海」という場

 まず、挙げたいのは「海の色を知っているか」です。
 この曲では様々な変化を見せる四国の海について描かれているんですが、大事なものを教えてくれる場所でもあると語られます。
 それは直接のメッセージではなく、自然現象や景色が教えてくれます。記憶の中の瀬戸内の海は「青じゃない青」である。
 変わらないものと変わって行いくもの、定まらずに流れていくその海は、我々の人生のように様々な色を経て今日も、広がっています。


 

 次に「思い出せる恋をしよう」のカップリングとして収録された「僕はこの海を眺めている」では、「海」は考える場として提示されます。それは都会の孤独とは違った心地よい孤独の場として描かれます。
 波の音を友に、曲の主人公は自分の内面を海に語っていきます。
 とっておきの場所を持っている「僕」の豊かさを感じます。

 ここまで挙げた2つの曲からは、秋元康の瀬戸内の海像が見えてきます。それは様々なことを教えてくれ、内面を聞いてくれる広大さだと思います。様々な曲の主人公の悩みを考える場、気付きの場として「海」があるのだと思います。


8、総論

 ここまで6作のシングル曲と海に関する2曲を補足として見てきました。
 STU48における「海」が、AKB48における「電車」やSKE48における「太陽」のように重要な場所であり、「想像」から「旅立ち」へとモードがシフトしてきた過程を書いてきました。
 次のシングルでは、いったい主人公がどんな気づきをするのか、楽しみです。

 また、今回考えながら、ふとSTU48における「早さ」についても、今気になっています。たとえば、「ペダルと車輪と来た道」や「一瞬のスリル」、「青春各駅停車」で描かれている世界の「早さ」が凄く気になっています。

※ 過去のSTU48の兵頭葵さんに関する記事はこちら!


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