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これからの青海さんについて

 角川書店から出ている「むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました」という本が面白いです。
 予防医学者の石川善樹さんとニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんの共著でとても柔らかい言葉でウェルビーイングという概念について書かれています。
 簡単にいうと、「する」で評価されるのではなく、「いる」で評価される世界観です。何かを「する」からあなたの存在が認められるというのでは無く、あなたが「いる」だけで存在を認められるし、幸せを感じられるという状態です。
 たとえば、自分にとって「推し」は、「いる」だけで幸せな存在ではないか、と自分の「推し」の休養と卒業を体験している人間としては、ひしひしと感じます。たとえば、これを読んでいるあなたにとって最悪の一日だったとしても、あなたの推しがSNSに挙げた何気ない「おやすみ」の一言と素敵な写真が幸せな気分にさせてくれる。これは、まさに「いる」だけで幸せを感じられる存在ですよね。
 なんとなく、ウェルビーイングの感じが見えてきたでしょうか?

 この本の中では「どうすれば、ウェルビーイングに生きられるか」という疑問について予防医学者の石川さんは、「自分よりも大事なものを見つけてください」と提案します。昭和時代の場合、それが家族や仕事だった。だから、家族や仕事が「推し」だったのではないかと。よく子育てがひと段落すると、アイドルにハマる方が多いそうですが、何か近いものがあるかも知れません。
 ううむ、確かに「推しと恋愛したい!」というファンの方は、僕の知っている方の中にはいませんし、どちらかというとリスペクトに近い感情の方が多いのではと考えています。そんな存在だからこそ、自分の大事な時間やお金を捧げられる。それは時として、自分よりも大事な存在になることもあるでしょう。

 本書の中で印象的なの箇所がもう一つあります。
 それはタイトルにある通り、昔話をヒントにしているところです。
 多くの日本の昔話は、主人公が遠くに旅に出て、もと居た場所に戻ってきます。
 人間の脳はサプライズがあまり好きではないのですが、サプライズに慣れる為に小さなサプライズは求めているそうです。な、なんて面倒なんだ、人間の脳。そして、一番、気軽にできる小さなサプライズが一時的な環境の変化。つまり、旅ですね。一つのところに留まるのではなくて、移動することで様々なことが閃くこともあります。
 オランダの歴史家であるヨハン・ホイジンガが提唱した「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」という概念があります。人間の本質は、「遊ぶ人」であり、移動を繰り返し、未知を追い求めることで人生は豊かになっていくそうです。
 「梁塵秘抄」の「遊びをせんとや 生まれけん」を僕は思い出しました。

 さて、上記の二つのことから思い浮かべた人物が一人います。
 それは、SKE48の青海ひな乃さんです。
 彼女は、先日、特別公演である「青海ひな乃を送る会」を経て海外へ旅立つことになりました。
 彼女の存在の稀有さは、他の記事でも書きましたし、その際にSKE48の中だけに置いておくのは勿体ないと書きましたが、まさか海外まで行くとは。しかし、これについては僕は大賛成です。浅井裕華さんが松井珠理奈さんと共に韓国に渡り、PRODUCE48で新しい表現とファンを獲得してきたように、まだ青海ひな乃を知らない人たちに彼女の魅力を見せつけてほしいです。
 扱いとしては、SKE48から籍が取れてしまうのか、そのままなのか分かりませんが、ぜひ、シングル選抜として帰ってきて欲しいです。SKE48に「海外組」というサッカー日本代表のような枠があっても面白いと思います。そうすることで、握手が売れる子がメディアに出られる子というゲームから脱却できるのではないかと思っています。握手売り上げで決めるのが完全に悪というのではなくて、ちょっとバランスが最近悪くなっているな、と感じています。ももたんが選抜に入った時に配信を頑張っている子にもチャンスがあるのでは?という希望が持てたように、海外で結果を出しているメンバーと日本で頑張っているメンバーが互いに良い刺激を与える場になるなら、シングル選抜の価値はグッと上がると思います。
 海外に行く基準は、人それぞれだと思いますが、センター経験者はその権利を与えるというのはどうでしょう?
 そうすることで、燃え尽きて卒業ということも多少は防げるのではと思います。

 話を青海さんに戻しましょう。
 彼女を送る会の中で非常に印象的な言葉がありました。

 私は向こうで頑張ってくるから、是非、会いに来てください。会いにこれなかったら、私が会いに来るまで頑張ります。
 だから、私のことを待ってなくていいし「頑張ってね」ってエールだけ送って、どんだけ距離が離れてても私たちの関係は変わらないので。

「青海ひな乃を送る会」より


 どれだけ遠くに居ても推しが頑張っていること。
 どれだけ遠くに居てもファンの方がエールを送っていること。
 あなたが今日も地球のどこかに居てくれるだけで幸せだと感じられること。
 ウェルビーイングだな、と感じました。
 多分、日本に居た方が楽だと思うんですよ。
 でも、自分が後悔しない為に知らないところに旅に出ていく。 
 その姿は本当に素晴らしいと思います。

 ふと思ったのですが、SKE48に出会ってなかったら、自分の人生に「遊び」は少なかったのでは、とふと思います。同じく、青海さん推しの方々はきっと、彼女に出会うことによって初めて行った場所、初めて買ったものや初めて食べたもの、そして、初めて持った感情も沢山あるかも知れません。
 青海さんが居たから、「遊び」が生活の中に新たに一つ生まれた。
 推しの存在は自分の人生を豊かにするんだろうな、と改めて思います。
 
 まだはっきりとした活動がどうなるか分かりませんが、きっと彼女の選択は、後輩たちに大きな希望やロールモデルを与えることになったのではないか、と思います。それこそSKE48の歴史の中に大きな1ページを残したと思います。
 
 生活の中で辛いこと、悔しいこと、やりきれないことがあります。
 でも、そんな時、遠くで頑張っている推しの存在、いつか迎えるであろう再会の日( プロレスファンとしては、ドームで凱旋希望 )、それを思い浮かべるだけで、今夜は超えられる、ということもあるかも知れません。
 推しがいることで、きっとウェルビーイングに生きられるのでは、と青海さんの選択から感じました。
 

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