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公演という単位で考える

 北谷賢司さんの「エンタメの未来2031」が面白いです。
 著者の北谷賢司さんのキャリアに関しては、書き始めたらとんでもない量になるので一旦省略しますが、アメリカに渡って様々なエンタメの最前線とデータに触れてきた方の視点が非常に勉強になりました。
 映画・放送・音楽・スポーツ・演劇といったエンタメが10年後にどうなっているのかをビッグデータや海外の試みと、日本のエンタメ界を対比しながら、これからどうなり、どういった選択肢があるのか、ということが述べられています。
 その中で「演劇」の章が非常に気になりましてね。
 ブロードウェイを中心に2020年5月の「ブロードウェイ・オン・デマンド」のスタートや「ディズニープラス」での「ハミルトン」映像版配信開始など、ミュージカルが生き残っていくための動きが書かれます。
 日本国内でも配信サービスによる演劇作品のサブスク「観劇三昧」(壱劇屋さんの時はめちゃくちゃ勉強させていただきました)などがありますし、VR演劇の登場や劇団ノーミーツによるZOOM演劇の成功が挙げられています。その一報で博報堂生活総合研究所のデータ2020年版のデータによると、「よくする趣味やスポーツは何ですか?」という問いに対して、「観劇」と答えたのは1990年代前半には全体の13パーセント強だったのに対して、2010年代は6~7%台を行ったり来たりしています。
 付け加えておくと、同調査では、2020年で初めて20代の女性が増えていることも挙げられ、「2.5次元舞台」の貢献を分析していました。
 更にコロナ禍前までは、ブロードウェイに触れる層は富裕層がメインだったというデータを挙げながら、日本の演劇もブロードウェイに学びつつも一部のマニア趣味になっていくことからの脱却を提唱してこの章は終わります。

 丁度、「エンタメの未来2031」の最終章が「演劇」だったので、本を閉じて、ふと考えました。
 あれ、これってSKE48にも通じるぞ、と。
 
 「SKE48ってなんだい?」という方の為に驚くほど雑に説明すると、愛知県の栄に劇場を持つアイドルグループです。48グループの一つで活動を始めて13年を迎えました。劇場公演をしつつ、ファンとコミュニケーションを取るイベントをしたり、大きな会場でコンサートもしています。
※詳しくは公式サイトや公式サイトをご覧ください。なんとなく最新曲を貼っておくので、BGM代わりにどうぞ。

https://youtu.be/anUVytIaU0w

 さてさて、SKE48は劇場で公演をしていますが、チームが3つに分かれておりまして、別の別のタイトルの公演をしています。更に、研究生がいる時は、研究生公演もこの3つに加えて行われています。
 公演で歌われる曲はいずれもプロデューサーの秋元康さんの作詞でアンコールを合わせると15曲前後のパフォーマンスが行われています。
 ただですね。
 現在、48グループだけではなく、坂道グループも秋元康さんが作詞をしています。
 いや、なんなら他のアーティストの作詞もしています。
 そうなると、SKE48のためだけにガンガン新公演を作るわけにもいかないわけです。
 そのせいで、SKE48のチームK2というチームなんかは、待たされまくって総選挙の時にリーダーの高柳明音さんが「私達に公演をさせてください!」と直訴したこともあります。
 じゃあ、どうなるかというと、同じ演目を繰り返し続けていくことになります。
 この同じ公演をひたすら続けるというのは、毎週DMMで公演を観ている方からしたらなかなか辛いところがあると思います。定点観測的な楽しみ方をされている方以外なら同じ演目が続き、MCと出演メンバーとお客さんぐらいしか違うところがないと。
 
 僕はこれまで、あまり上記のことに対してマンネリを招くことではないかと考えていました。
 しかし、ブロードウェイについてより知っていくと、何か公演に対する考え方をもっと見直す必要があるのでは、と思いました。
 ブロードウェイで上演されたヒット公演は、ロンドン・ロサンゼルスという演劇人気が高い都市でも上演されるそうです。その際には、海外語版の上演権を販売することで収益も得られます( 日本であれば、劇団四季のディズニー作品を思い浮かべていただければと思います )。
 更に、ブロードウェイはニューヨークの観光の目玉という役割もあり、観客の65%が観光客であり、この65%の内訳は米国内が46%、海外が19%で、業界団体ブロードウェイ・リーグによれば食事や宿泊、買い物なども合わせると、174億ドルをニューヨーク市の経済に寄与していると述べています。
 また、ブロードウェイでは、7~8年をかけて公演の完成度を増していくんですが、そこまで続けられるのは一握りで、全体の70%の公演はそこまでいかずに財政的に失敗して上演が終わってしまうそうです。本当に素晴らしいものだけが生き残っていく。この試みを日本でもし出来るとすれば劇団四季ぐらいでは、と北谷さんは分析しています。

 ううむ、確かにSKE48でこれを全部していくのは難しそうですが、学べることは多そうです。
 たとえば、ブロード・ウェイの観客層について。
 SKE48の劇場公演のご新規さん率を上げる為には観光客のコースに入れるというのはどうでしょう?出来ることなら、修学旅行のコースの選択肢の一つとしても。アイドルの曲を聴かない人達の集団とどう向き合うか。
 おそらく、ミックスはないでしょう。名前のコールもないかも知れません。でも、自分たちを全く知らないお客さんたちを相手の心をどう動かすのか。全く違うアプローチが必要になってくるかも知れません。
 勿論、SKE48を愛する人達が沢山入る公演も、良いと思うんですよね。ミックスやコールで盛り上がり、ちょっとだけ内輪ネタのMCが通じる空間というのも良いと思うんですが、なんだかバランスが今は偏っている気もしています。
 出来ることならば、「アメリカンユートピア」のように様々な土地で公演をして、公演の完成度を高めて欲しいです。ちなみにこの映画はシンプルに音楽をぶつけてくる作品ですが、照明の凄さを体験できるので、予告編だけでもご覧あれ。

 実際、「アメリカン・ユートピア」は様々な土地で公演をすることで、公演が完成していったそうです。映画のパフォーマンスは2018年にアルバムが発表され、ワールドツアー終了後にブロード・ウェイショーになっているので、決して長期間の公演ではないですが、ここまで凄い公演があるのか、と作品を観た時は思いました。SKE48も日本のお客さんだけに限らず、文化や面白いポイントが少しずつ違う海外のお客さんの中での公演も体験してほしいです。
 「スターウォーズ」のプロデューサーであるゲーリー・カーツが1作目のプロモーションで世界中を飛び回り、ドッカンドッカン受けるのを見てきました。しかし、日本のプレミア上映では終わってもシーンとしているので、衝撃を受けたそうです。その後で、「本当に人生で最高の映画でした!」と上映に来ていたコメントを聞いて、「ここはちょっと違う」と感じたそうです。
 日本とは違う土地に応じた声援の波に乗ることで、表現のチャンネルも増えるのでは、と僕は思います。
 
 今は、お客さんについてブロード・ウェイと照らし合わせてみましたが、今度はそれを元に公演やチームについて考えてみたいと思います。
 まずは、公演映像ソフトの更新が必要だと思います。
 7月に新しいチームS公演が来るので、それに合わせて各チームの映像を撮り直し、それを各種サブスクリプションサービスで観られるようにしておくというのはどうでしょう?
 米モーニングコンサルタントの調査ではディズニープラスで「ハミルトン」を観た演劇ファンでない視聴者(劇場で観劇する回数が年に1回以下)の84%が「劇場での公演をもっと観たくなった」と答えています。
 配信を宣伝にし、映像だけでは満足できずに生で観たい、と思わせる効果を利用するわけです。
 生で観たければ劇場に足を運び、現在進行の成長記録を観たければDMMの劇場公演を配信で楽しむ。こういう住み分けができないかな、と考えました。
 そして、メンバーについても各チームに一人はスターが必要だと、僕は思っています。さっきの「アメリカン・ユートピア」でいえば、トーキングヘッズのボーカルだった、デヴィッド・バーンがいます。恥ずかしながら、洋楽は詳しくないんですが、そんな僕でもドラマ「THE BOYS」の影響で彼の名前と『サイコキラー』は知っています。

 各チームに一人は「この人知ってる!」というメンバーが配置できているか、という問題です。
 かつてのSKE48でその役目を担っていたのは、W松井だったのではと思います。
 2022年1月29日現在のSKE48ならば、だーすーこと須田亜香里でしょうか。でも、それだけでは、チームEだけになってしまいます。じゃあ、チームSは誰か、チームK2は誰かを考えていかなければいけません。だーすーのテレビなどの出演数が凄すぎるので、比較対象にするのはきついかも知れませんが、ジャンルによっては「この人知ってる!」というメンバーが多いだけにもう一息なのではとも思います。
 さて、公演の楽曲についてなんですが、できれば秋元康が並べた順番で公演を行うのがベストでは、というのが僕の意見です。
 その中でも歌詞の文学性の高い「制服の芽」公演が一番好きなんですが、この辺りは一人一人の好みのレベルになるので、是非、皆さんの意見も聞いてみたいです。
 
 ここまで書いた内容とSKE48の試みで、一つ繋がりそうなものがあります。
 6期生の静岡出張公演とプリマステラの静岡出張公演です。

https://youtu.be/DdWS5YBnIkw

 6期生単独が先に発表された時は「何故だ?何故6期生単独?何故、静岡?」と謎が多かったんですが、まだ公演に申し込んだお客さんの内訳は分かりませんが、上手く続けていけば新しい観客との出会いに繋がるのではと思います。
 また、メンバーたちもアウェーでコンサートを成立させていくことで、同じ公演をしたとしても纏う自信や丁度良い間の取り方も身に着けていくのではと思います。
 個人的には、「そろそろ本格的に四国も攻めてくれてもいいんじゃない?高松1週間とか」と去年から愛媛県民になった人間としては思いますが、いかがでしょう?
 どうしても売り上げなどの話題でシングル曲の単位でSKE48の楽曲を考えることが多いですが、公演という単位でSKE48を売り出す選択肢もあるのでは、と静岡出張公演という動きから考えました。
 皆さんが友達を誘っていきたい公演はどれでしょう?
 今年生まれる新公演が、SKE48を代表する素晴らしいものになることを願いながら、この記事を終えます。

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