創作大賞感想「仕事の中の必然」
※ この感想文は、創作大賞2024にエッセイ部門でエントリーしたはやか先生の作品の感想文です。こちらを読んでから読むもよし、僕の記事を読んでから読むもよしです。
新しい仕事に飛び込むことで見えてくるもの
みなさんは、海外への留学やホームステイをしたことがあるでしょうか?
それまでネットの動画やテレビの中の映像でしか知らなかった場所が、実際に過ごしてみることによって、一気に解像度が上がる経験だと思います。 ただ、留学やホームステイするには、勇気だったりタイミングだったりが関係してきます。決心して飛び込むこともあれば、ひょんなことから旅立つこともあるかもしれません。
僕が感想を書く、はやか先生こと五十嵐早香さんも、「初めて決まった仕事」という入口からプロの仕事の世界に4日間の留学をしていくことになります。
このお仕事の内容は、撮影の仕事のようで、映像関係でしょうか。
作品が完成しても出演したことを公表していはいけない、ということは、我々がはやか先生が出演した映像がどんなものかを知ることは、難しいかも知れません。ただ、彼女の文章から伝わってくるのは、プロの現場の大変さです。
さて、撮影初日は、まさに海外留学初日のような、自分が知らない世界に飛び込んだ戸惑いや発見が沢山描かれています。巨大な体育館のようなスタジオ、初めての個室楽屋、そして、めちゃくちゃ着るのが大変な衣装などの描写から、結構凝った映像作品のような気がしますね。
初めて体験する撮影の現場。はやか先生の表現を借りるならば、「ガチ感」の漂う現場は言い換えれば本気の空気に包まれているのが分かります。スタッフの方々もエキストラの方々もみんなが本気。ガチなわけです。AKB48の曲のセリフ部分で「マジになんなきゃ、勝てねえよ」というものがありましたが、やっぱりマジで頑張る人の姿は、その環境に入ってきた人にも良い影響を与えます。彼女は、プライベートの自分を一旦、置いてきて、役の中の自分になります。「ゾーン」に入ったわけですね。
最初は恥ずかしかったけれど、周りの本気を感じて、自分もその仕事に没入していく描写は読んでいるこちらも、心が前向きになります。
2日目は休日で、はやか先生はYoutubeなどを満喫します。
でも、その間もスタッフの方々は頑張っていたんですよね。
3日目の最初の描写でスタッフの方々の目の下に出来た濃いクマがあるところ。読み方によっては映像作品の現場の労働環境って大変すぎるのでは、と感じることもありますが、ちょっとでも良いものを作るために妥協しない本気とも読めます。
しかし、どんな仕事の現場にもハプニングは付き物。
彼女が着ていた特殊な衣装が壊れてしまいます。
修復するのが大変なので、絶対に壊してはいけなかった衣装。
もうね、この時の現場の空気を想像するだけで、心臓がきゅっとなりますよ。
この窮地を救ったのは、別の衣装の全く違う分野のパーツを作った女性。
時間が押している中で、どの選択肢が正しいのか判断する現場のスタッフの方々、素晴らしいですね。
結果として、衣装は綺麗に修復されます。
なんという奇跡。
撮影終了後、彼女が考えたところが本当に素晴らしくて、もし、あの女性がいなかったら、という発想からスタートして、作品に関わる人が1人でも違えば全く違った作品になっていたかも知れないということを想像します。そうなんですよね。偶然集まっているようでも、その作品を作るためにみんなが必要なピースなんだですよね。我々はそれを意識することは少ないですが、目に見えないところや耳に届かないところで、いくつもの必然が奇跡を起こしているかもしれません。それはあなたにとって当たり前でも、誰かにとっては奇跡の時もあるでしょう。
いよいよ最終日の4日目!
朝、ホテルから撮影現場に向かう車の中で一緒になったちょっと偉いポジションで指示をだしていた女性との会話する場面があります。この場面では、職場で頑張っている姿の延長線上には、家庭でも色々とご家族のお世話なんかを頑張っているんだろう姿が浮かびます。
そう、仕事場で会うプロの方々もここに来るまでは一人の家庭人でもあるんですよね。みんな色々なものと付き合いながら、仕事場に来ている。
そして、その現場で本気をぶつけ合う。
最終日は、残りの体力や気力をもう使い切るぐらいの勢いで、過酷な撮影が行われたことが彼女の文章から伝わってきます。この時、スタッフの方々の言葉や態度から自分の状態を想像するところは、彼女の俯瞰で自分を見られる力の凄さですよね。ちょっと上の方にカメラを置いて自分の様子を想像できるとでもいいましょうか。
この撮影中に朝、車で一緒になった女性と交わす会話もいいですね。初めて映像作品の仕事にかかわったはやか先生と長年映像作品にかかわっている女性の方。
この出会いも偶然ですが、必然だったのかも知れません。
いよいよ、撮影が終わる時に、彼女の胸に去来したもの。
それは、何かこの業界を頑張っていくための「お守り」を手に入れたような気がしました。花束と共に監督からもらった「五十嵐さんで良かったです」という言葉もきっと大事な大事な「お守り」になったのではないでしょうか?
そして、いよいよ映像作品の仕事という4日間の留学期間は終わりを告げました。しかし、本気で何かを作る人たちの中で過ごした期間で、彼女の中にも本気が宿ります。誰かの本気が誰かを動かす。そして、次の目標が生まれていく。それは人生の中で何回起こることなんでしょうか?
そんな貴重な瞬間を文章に残したエッセイだったと思います。
小物なんかではなく誰かにとっては必然
さて、このエッセイの中ではやか先生は自分のことを「小物タレント」と謙遜して書いています。キャリアだったり仕事の量だったりは芸能界の諸先輩方にと比較したら「小物タレント」なのかも知れません。しかし、彼女にこの仕事を依頼したり、実際に現場で走り回っていたりした方々にとっては、大小関係なく必然の存在だったのではないか、と思います。
だからこそ、本気で仕事に取組み、困難なトラブルも乗り越えてこられた。誰かの本気は誰かを動かす。それは、エッセイの中だけではありません。たとえば、彼女がこのエッセイを書くと宣言した時。僕は彼女の本気を感じました。
※Xのポストを参照。
締め切り4日前ですよ、お侍さん。
しかし、このポストを見た時に、彼女の本気を感じると共に、僕も心を動かされました。「今年はnote創作大賞は無理でしょう…。他の原稿でいそがしいし…」と完全に見送る方向だったのですが、そこから一念発起、構想2日、執筆2日の短期間でしたが、なんとか、最後まで書き上げることができました。これは、彼女の決意を読まなかったらそうはならなかったと思います。
今回のエッセイを読んで、再びこのポストを読むと、7月19日に読んだ時とはまた違った味わいがあります。一つレイヤーが重なるといいますか、そうか、あの本気の溢れる環境で頑張ったことが頭にあったのかな、と思いました。
昨今、誰かの本気を冷笑するような人も増えています。多分、だれかを冷笑することは、本気で何かをするよりも楽だと思います。そして、一見すると、なんだか頭がよいように見えるのかも知れません。でも、僕は頭が悪そうに見えたとしても、本気で何かに向きあう人の方が尊敬できます。誰かを笑うだけで何もしない人よりも、一つ一つの仕事に汗を流す人の方が尊敬できます。周りの顔色や自分の他者評価を気にするよりも、やりたいことを見つけてそこに没入できる「ゾーン」に入れる方がずっと幸せではないでしょうか?
そんな素敵なことに出会えるタイミングは偶然かも知れません、でも、本気で何かに向き合っているとそれは必然としてやってくるのではないかとこのエッセイを読んで思いました。
昨年度の作品との比較
ちなみに、はやか先生、実は昨年はオールジャンル部門でエントリーしています。
書く動機がこの1年で大きく変わったのではないか、と二つの文章を比較して感じます。
もしかすると、エッセイではなくフィクションを描く時は、この2023年度の作品のように「負の感情」が関係してくるのかも知れません。もちろん、締め切りが迫っていたというプレッシャーもあったのかもしませんが。二つ並べてみると、それぞれの文章の違った味わいが生まれてくると思います。僕の二つ並べた感想としては、昨年は内面ベースだったのに対して、今年は体験ベースで、その文章の書き方の違いも印象的でした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
明日、明日がだめなら今週、何かに没頭したり没入してみたりするのはどうでしょう?
あなたが本気になって何かに取り組む姿勢は、きっと、他の誰かも本気にします。そして、あなたを本気にさせてくれる誰かに出会うこともあるかもしれません。そんな発見を与えてくれたエッセイでした。
きっと、このエッセイも数年後に読み返したら、必然のピースを作る大事な留学期間をこの時書いていたんだ、とはやか先生や読書の方々にとってなることを願いながら、この記事を終えます。
こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。