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映画「女子高生に殺されたい」感想〜東山春人の危険だけど抗えない魅力

タイトルで敬遠している方もいると思いますが、ぞくぞくする心理戦とミステリー要素も詰まったとても面白い作品です。ぜひ劇場で見てほしいので、できる限りネタバレのないnoteを書いてみました。長いですが、読んでいただけると嬉しいです。

女子高生に殺されたいがために高校教師になった男・東山春人(田中圭)。
人気教師として日常を送りながらも“理想的な殺され方”の実現のため、
9年間も密かに綿密に、“これしかない完璧な計画”を練ってきた。
彼の理想の条件は二つ「完全犯罪であること」「全力で殺されること」。
条件を満たす唯一無二の女子高生を標的に、練り上げたシナリオに沿って、
真帆(南沙良)、あおい(河合優実)、京子(莉子)、愛佳(茅島みずき)
というタイプの異なる4人にアプローチしていく……。

古屋兎丸原作の「女子高生に殺されたい」の映像化。私は原作未読ですが、原作にアレンジも加えられているそう。無事映画を観終わったので、原作漫画も読んでみたいです。まずは私なりの感想の前に、各種媒体のインタビューなどを。一部内容を下記に引用させていただいています。

1.製作陣のインタビュー

〜テレビの田中さんのイメージから、最初は『エッ!?』と意外な気持ちもありました。ただ『哀愁しんでれら』を見て、怖い役も似合うなと思って、これは楽しみだと。春人をただの変態じゃない、そんなに悪人じゃないようにしたかった。自分の願望を、人に迷惑をかけずにかなえようと、一生懸命考える。女子高生を変な目で見てるんだけど、性的な、いやらしい目ではない。田中さんの清潔感あるキャラクターとあいまって、うまくいったんじゃないかな」〜

〜途中からは田中さんが作ってきた役作りに「なるほどな」と、それに乗っかってどう切り取るかが僕の仕事だと思って進めていきました。〜
〜真帆が豹変することに関しては原作と異なるところがあるので、アクション部と相談して映像でそのことが分かるような仕草をつけています。原作との違いのひとつとして楽しんでいただけたらと思います。とはいえ、そういったものがなくとも、南さんの目の芝居の変化だけでも表現できていると思います。〜
〜五月はより複雑な役柄で、春人への愛情を持ちながらも、彼を患者としても見ているという、元恋人の目と医者としての目、さらに教師としての目もあるので、春人を取り巻く物語に多角的な関わり方をしているのだと思います。〜

<城定監督と古屋先生の対談>

監督:田中さんには優しい雰囲気があって、春人の醸し出す「こんな先生がいたらいいな」という感じは、彼自身からにじみ出るものだなと。一方、春人がターゲットの女子高生を見る目つきは予想以上に怖くて、すばらしいなと思いました。田中さんが内面から作り込んでくれたものが、春人の目にきちんと表れていました。
先生:普段は優しく涼しげな表情をしているのに、突然見せるあのヤバい目つきは、僕がイメージした春人像ともとても重なりました。

監督:完成して「とてもいいシーンになったな」と思うのは、裸の春人が浴槽の中で胎児のように丸まっている場面です。田中さんが積み上げていった春人像の中にある“変態性”のようなものが、一枚の絵として表現できているなと感じました。

<プロデューサーさんインタビュー>

〜『女子高生に殺されたい』はタイトルとプロットの最強の2つを持っているんです。ずっと気になっていた原作でしたが、読んだ時にこのままでは無理だと感じて、自分の中で何か発明しなければと思っていたんです。いろいろ考えた結果、女子高生の人数を増やすことを考え、誰に殺されるかというサスペンスと、判明してからの計画性サスペンスの二段階サスペンスにしたら勝機があるなと。それが思いついてから企画を進めていきました。〜

〜田中さんは『総理の夫』でご一緒したのですが、その時期田中さんは良い人の役が続いていたので、僕の中で少し消化不良なところがあって。これまで脇役で少しサイコパス系というか、ヒールな役をたくさん演じられてきた方なので、今回は一度ひっくり返したいなと。〜

2.レビューいろいろ

〜特異な性癖を学園青春ドラマの枠に組み込むことで、己の欲望のために未熟な若者を騙して利用する狡猾な大人を描いた新手のサイコサスペンスに仕立てている。ただ、ターゲットにされた少女の「特殊な事情」がまたちょっと特殊なため、この設定を素直に呑み込めるかどうかで賛否は大きく左右されるだろう。〜

〜田中圭史上、一番、極端なダークサイドのキャラクターが見ることができたのが本作。『哀愁しんでれら』もそうでしたが、こっち側の映画の田中圭をもっともっと見たいと思わせてくれる一本でした。〜

〜主人公が圧倒的に気持ち悪いんです…。
しかし、比例するかのごとく圧倒的な人間的魅力も兼ね備えていて…。
その人物への興味だけで引き込まれてしまう映画が生まれてしまいました。
これは、ちょっとした事件なのかもしれません。〜

〜『哀愁しんでれら』を超えるサイコパス演技を魅せつつ、そこにしっかり色気やら優しさやらで説得力を持たせる田中圭〜

〜およそ映像化不可能とも思えるサスペンスを、あれよあれよという展開で見事に納得させてくれた。緻密さと力業という矛盾に充ちた課題を鮮やかに止揚した快作だ。〜

〜田中は、ねじれた欲望を実現するために、理想の教師を演じながら9年がかりの「自分殺害計画」を実行する男の闇と病みを好演。見た目もやることもかっこいいが、心の奥は泥々。最高に気持ち悪い。物語が進むにつれ、南沙良演じるヒロインの秘密も明らかになり、闇は深さを見せる。〜

〜本作の最大の魅力と断言できるのは、その「女子高生に殺されたい」主人公を、田中圭が見事に演じ切っていることだ。ただ役柄にハマっているという言葉だけでは収まらない、「映画開始5秒で田中圭のすごさがわかる」こと、「田中圭が演じたからこそ良い意味で気持ちをぐちゃぐちゃにされる」衝撃も凄まじいものがあった。〜

〜田中圭の気持ち悪さはなかなか新鮮でよかったです。そして重要な”女子高生”を演じた南沙良、河合優実、莉子、茅島みずきがイキイキとしていました。大島優子も最近は助演でとても頼もしい存在になったな、と思いました。〜

〜彼の計画は単純なものではなく、殺され方や自分が死んだ後の処理について深いこだわりがあり、さまざまな人物を計画のコマとして考えています。なので、パッと見て誰がどんな役割をさせられようとしているのかわからず、彼の秘密だけではなく、他にも秘密を持つ人物がいるとほのめかす演出にグッと引き込まれていきます。〜

〜「女子高生に殺されたい」…一見突拍子もなく、叶いそうもない願望なのだが、本当に9年間練られていたと思わせる綿密な計画がストーリーを追うごとに明らかに。予測できない展開に、気付いたらのめり込んで見てしまう作品だ。〜

3.キャスト陣のインタビュー

〜例えばサイコパスだったり、俗にいう普通ではない、簡単な言葉でいうならば“変態”と言われるような役って、ものすごくやりようがあるものだと思うんです。今回も“ザ・変態”という感じで、記号として演じることもできるのだと思いますが、僕はそれが苦手で。どうしてもリアルに落とし込んでしまう。どこまでもフィクションにしたくないという思いがあり、どんな役であれ、そう捉えてしまうところは僕の強みでもあり、弱いところなのかもしれません。彼の苦悩や願望を生きられたらと思っていました。〜
〜春人は“女子高生に殺されたい”という願望を突き詰めていて、僕はもちろん“女子高生に殺されたい”とは思えないけれど、ご飯をたくさん食べたい人もいれば、たくさん寝たい人もいるように、人それぞれに欲望ってあるものですよね。いろいろな癖(へき)を持っている人がいて、欲望の矛先は違えど、欲望を我慢している人もいれば、葛藤している人だっている。そう考えると、誰にでも当てはまることだとも思うんです。役づくりをする上では、その人そのものになることは不可能なので、どこまでも想像をするしかないですが、春人がある欲望を抱えているということは、想像できなくもないなと思いました。〜

〜真帆は常に不安の中にいるような感覚の女の子なんですけど、そういうところが自分にも重なるなって。お芝居をしている時もその感覚を大事にしながら演じました。〜

〜ストーリー上はシリアスな場面も多いのですが、皆さん楽しんで演じられていて、暖かい現場でした。城定(秀夫)監督も全体的に私に任せてくださいましたが、一部、真帆の内面が出る場面では監督の演出もあり、よい雰囲気で作品づくりができました。〜

〜先が読めない物語の展開になっています。いろいろなところからパンチが飛んでくるような感覚の作品なので、ドキドキしながら最後まで楽しんで欲しいです〜


〜共感できる部分はそんなになかったんですが、考え込んだり、常に不安を持っているというのは、自分の中にもたまにあるなと思ったので、そこはつかみやすかったです。〜
〜主人公の高校教師は、女子高校生に殺されたい、という欲求にとらわれるが、「そんな先生はイヤですね(笑)。田中圭さんはいい意味で迫力がありましたが、(本人は)すてきな方でした」。〜

4.私的感想ー東山春人の抗えない魅力ー

さて、ここまでですでに長いですが、ここからようやく感想など。

主人公の高校教師、東山春人。一見人当たりよく気さくで理想の教師のような彼は、実はオートアサシノフィリア(自己暗殺性愛)であり、自分が殺されることに快楽を覚える病的な嗜好をもっている。その春人が抱くと願望とは、女子高生に殺されたい。厳密に言うと、意中の女子高生に全力で抵抗し苦しみながら殺されたい。さらに女子高生が罪に問われてはいけない、というかなりアンモラルなものでありながら、彼なりの正義すら感じさせる歪なもの。これを考えても春人は悪い人ではないのだと思います。相手に迷惑がかからないように一生懸命考えている。一方、飼い犬のシェパードの犠牲は厭わないところもある。さらに、クライマックス、春人の目的が達成されたら意中の女子高生だけではなく、担任している他の生徒たちにとっても間違いなく心の傷になる。そういうところからは目的のためには手段を選ばない一面も垣間見えます。

また、春人の計画はとても緻密に細部にわたって入念に練られています。計画が予定通り完遂できるように、女子高生が罪に問われないように。そこからも、春人が衝動に任せて欲望を遂げるただの変態ではなく、ある種サイコパスのような周到さをもった知的な人物であると私は感じました。

私が、春人の一番恐ろしいと思ったところが人心掌握術で。ストーリーが進むにつれて、ターゲットにした女子高生たちがみんな春人を好きになり、春人の思うように動き出すんですよね。あおいはとある能力があるのでまあそうはいかないんですが、それはおいといて。普段の気さくで明るい教師として親しみを覚え、二人きりになったらふっと甘さや色気が増す。「先生、二人きりのときは名前で呼ぶんだね」ってセリフがありますが、ほんとそれ。しかも、それぞれの性格や特徴によって絶妙に心を掴むポイントを責めていて。さりげないボティタッチも。膝をコツンと触れさせてみたり、さりげなく手を握ってみたり。でも、全然いやらしくない。色気はあるけど、ありすぎるくらいあるけど、女性に嫌悪感を抱かせるようないやらしさがこれっぽっちもない。これも計画の一部として用意された罠だとしたら、あまりに周到で恐ろしくなります。

で、この東山春人を演じているのが、我らが田中圭さんなんですが。圭さんの一般的なイメージである爽やか、明るい、気さく…というところが、まず春人の表の顔としての人気教師の面にとてもリアリティーをもたせています。でね、この顔のときはすごく目が柔らかいんです。でもその目がターゲットとなる彼女を見るときに、すっと表情のないというか感情のない目や恍惚とした目…狂気をはらんでいるような目に変わるんです。それがもう一瞬の変化。特にキービジュアルになっている桜の中で振り返るシーン。あのときが、スクリーンで見るとぞくっと震えました。あれはかなり狂気でした。

圭さん自身も言っていましたが、狂気を表すのに大袈裟にする方法もあったんだと思います。でも春人はそうじゃない。日常の延長、いつもの顔の中に狂気が潜んでいてまるで多重人格のようにときおり顔を覗かせるんです。些細な変化なのに、表情だけでそれが分かる。全裸でバスタブに沈むとか、過去の妄想とか、衝撃的なシーンはあるんですけど、それよりも目がよほど怖かったです。

ネタバレになるから細かく書けないのですが、最後の頃の大島優子さん演じる元カノのスクールカウンセラー五月とのシーンがあるんです。そこのシーンが個人的にとても好きです。なんかもう心理戦だし、ここでの春人の行動を見てて本当にこの人は正常の中に狂気があって「女子高生に殺される」ことが生きることなんだなと理解しちゃったんです。春人の欲望は達成されるべきものじゃないし、春人には死なないでほしい、そう思っているのに、春人の計画がうまくいくことも願ってしまう。見てる私も春人の術中にハマってしまう恐ろしさ。

余談ですが、田中圭さんと大島優子さんの抜群の相性の良さはなんなのか。二人がお芝居をしているのを見るととてもしっくりくるんです。今回もそれを強く感じました。優子さんの五月、すごくよかったです。

映画の中で、過去の春人が涙を浮かべて苦しみながら、自分の願いを言葉にしようとするシーンが出てきます。そこには狂気も何もなくて、ただ自分の欲望に苦しむ男しかいない。このシーンを見てしまうと、変態とかサイコパスとは思えなくなるんですよね。五月と同じく救ってあげたい、という気持ちになる。

真帆役の南沙良さん、もっのすごく難しい役だと思うんですが、めちゃくちゃ上手かった。存じ上げてなくて今回がお初だったんですが、末恐ろしい女優さん。あんなにいろんな顔を自然に使い分けられるのか…。彼女の存在が映画の完成度をあげたんだろうなって思うくらい。

彼がターゲットにした「キャサリン」は誰なのか、彼女を9年間待ち続けたのはなぜなのか、なぜ彼女だったのか、とある殺され方にこだわるのはなぜか…ミステリーの要素も楽しめます。また、女子高生たちもそれぞれに闇があって、それも物語におおいに関わってくるところも見どころです。圭さんも自信作であり、傑作だ、と言っています。ぜひ劇場でご覧ください!