メガネを買った

初めてのメガネ店

先日、絵を描いていたら、それを見ていた奥さんが

「目近スギ。もっとハナレテ」

何を言ってるんだ、日本語は大丈夫か?思い出せるか?と言いたくなったのだが、どうやら僕の顔(目)と画用紙が近すぎるということらしい。

背中はとても丸くなり、とんでもない姿勢で描いていたというのだ。

「仕方ないじゃん。離れてるとよく見えないんだよ」

「メガネ買いに行くから支度シロ」

奥さんのメガ、ギラリと光っていた。メガギラリである。こうなったら、うちの奥さんは止められない。もう、僕はメガネを買うしかなくなってしまった。

でも実は前にもこういう時はあった。5、6年くらい前だろうか。その時の奥さんは今より優しかったので、

「メガネ買ってあげるから行こうヨ」

「いや、まだ見えるから大丈夫。忙しいからまた後で」

「ふーン」

こんなやり取りだった気がする。しかし今回はもう、「また後で」なんて言えない雰囲気だった。


「では視力を測定していきますねー」

メガネ屋さんに入ると、背の高いシュッとした店員さんが案内してくれた。そして青メガネだった。他に二人いた店員さんも、やはりメガネだった。黄メガネと、赤メガネだったように記憶している。

青メガネ黄メガネ赤メガネ。はい、どうぞ。

「青メガネキネガメ赤メガネ」

きっとこうなるであろう。

メガネ屋さんの店員さんはやはりメガネなのだな、と妙に感心してしまった。

「自分、視力は両目とも2.0です」

みたいな人は面接で落とされるのであろう。

そんな事を考えていたら視力検査は終わり、

「ひどい乱視ですねー、よく今まで裸眼で生活してきましたね」

けっこう笑いながら、青メガネ屋さんはそう言った。

「そんなにですか?」

「物を見る時。目を細めてますよね。目を細めるとギリギリ裸眼でも免許の更新ができる視力ですけど、目を細めていない時の視力は0,3ですね」

自覚はあった。

青メガネ屋さんの言う通りで、僕は物を見る時、目を細める癖がある。そして細かい字や、携帯の画面、絵を描くときもそうだ。すごく接近しないと、よく見えない。

「ちょっとこれ、かけてみてくださいー」

青メガネ屋さんがそういって渡してきた、やたらメカニックなレンズのメガネをかけてみると


「う、うそだろ…」

僕は声を漏らしていた。

めちゃくちゃよく見える…。

「み、見えます。あの遠くの、ダイソーの看板が見えます!!」

「乱視を矯正するメガネですから」

「あの看板も、あれも、ああ、この文字も…!目を細めなくても、よく見える…見えるぞおおおおお」

僕はもう、吠えていた。ちと盛ったが、とても、興奮していた。目頭が熱くなった。盛った。熱くなってはいないが、本当に感動していた。

「これが、メガネか…!」

「しかし、ここまでの度数のメガネは、さすがに置いておりませんので、10日間後にまた来てください」

「え」

「すみません、さすがにここまで乱視の方のメガネは、特注になりますので…」

「とほほ…」

とほほも、盛った。言ってない。しかし心の中では確かに言ったと思う。

10日後が楽しみである。

これで絵も、ねんど細工も、パソコンも、楽譜も、目を細めないで見る事ができる!と考えたら、ワクワクする。

もっと早く行っときゃよかった、メガネ屋さん。

とほほ。

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