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黒板を引っかく音はなぜ不快なのか

人間はどんな音を「嫌な音」だと認識するのでしょうか。
2012年に調査した研究によると、「ガラスにナイフやフォークを当てる音」「黒板を釘で引っかく音」「悲鳴」が上位にランクインしました。

これらの音に共通しているものは音程です。
人間が聞くことのできる音の周波数は20〜2万Hzです。そして上記の音はどれも2000〜5000Hzの間にありました。
私たちの耳はこの範囲の音に最も敏感に反応するようです。

人間の耳の穴はこの帯域を増幅する構造になっているため、特に耳障りに感じます。
また、不快な音では音の高低の変化も、不快さの原因になりました。

以前は、周波数の高い音が不快に感じるという説が通説でした。
しかし1986年、3人の米国研究者が精神音響効果を調査し、高周波のせいという理論はあっさりと捨て去られることになります。

「高周波の部分を除いても不快な感情はそのままだったが、低周波部分を除いたところ、驚くべきことに被験者は心地よく感じた」と研究者は述べています。

さらに、黒板を引っかく音はニホンザルが発する警戒の叫び声に似ているという発見が報告されています。
この発見により、背筋がうずくような感覚は、私たちの進化の歴史の古い時期から取り残されている原始的反射らしい、と考えられるようになりました。

これらの音を聞いたとき、脳はどのような活動をするのでしょうか。
fMRIで測定したところ、これらの音は視覚野と扁桃体のふたつの脳領域の活動を高めることがわかりました。

扁桃体は感情の中枢と呼ばれ、特に不安や恐怖を感じたときに活動します。
私たちが生き延びるために必要な闘争・逃走反応を引き起こしています。

どうして黒板を引っかく音が人間の生存本能を刺激するのでしょうか。

悲鳴は、他の音と同様に複数の周波数で構成されています。
悲鳴を構成する音から異なる周波数を分離し、不快度に応じてランクづけをした研究があります。
その結果、最も耳障りだったのは悲鳴の最高音ではなく、中間周波数の音だと判明しました。

そして黒板を引っかく音の周波数は、悲鳴の中間周波数と完全に一致していました。
これにより科学者は、黒板を引っかく音が人間の脳に悲鳴と同じ警鐘を鳴らすと推測しています。

人間は生死にかかわる状況に遭遇したときに悲鳴を上げ、周囲に危険を知らせます。
私たちのほとんどは、悲鳴が聞こえたときに体を硬直させ不安になり、周囲の安全を確認したくなります。
これらはすべて身を守るための防衛反応だと言えます。

生存率を高めるため、私たちの耳は悲鳴のような耳障りな音を増幅させているという説も唱えられています。

現時点ではまだ科学的に証明されていません。
他にも、黒板の“金切り声”が、文明が起こる前に人間が野生生活を送っていたころの捕食者の発する声に似ている、という説もあります。

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