見出し画像

物価上昇してもデフレ脱却できない理由

コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争により輸入物価が急騰したことで、日本では多くの商品が値上げしました。
長引くデフレに苦しめられていた日本で物価が上昇したことはデフレ脱却と言えるのでしょうか。

輸入物価上昇が原因で国内の製品やサービスの価格が上がる経済現象はコストプッシュ型インフレと呼ばれます。
デフレ脱却とは、需要拡大が牽引する形で物価が上昇することです。これをデマンドプル型インフレといいます。

私たちは生産者として財やサービスを生産します。生産された財やサービスに対し、顧客(家計、企業、政府、外国など)が需要(消費、投資)として支出することで所得が創出されます。
所得創出のプロセスにおいて、生産、支出(需要)、所得の三つは必ず一致します。
国内総生産(GDP)とは生産の合計ですが、生産、支出、所得の三つは必ずイコールになるため、GDPとは生産の合計であり、支出の合計であり、所得の合計であるということになります。
これをGDP三面等価の原則といいます。

問題は、三面等価の原則は地球規模では必ず成立しますが、国内ではそうならないケースがあります。それがコストプッシュ型インフレです。

本来、物価の上昇(生産価格の上昇)は生産者の所得の拡大になります。
しかし輸入物価上昇の場合は、支出が増えるのは日本国民、所得が拡大するのは外国の生産者です。
コストプッシュ型インフレは、日本の需要(支出面のGDP)不足解消には貢献しないということになります。

コストプッシュ型インフレは、短期的には需要に対して中立です。
民間最終消費支出拡大分を、輸入金額増大分で相殺するだけです。
中長期的には、国民の可処分所得を引き下げることで需要不足を促進します。すなわちデフレ促進です。

デフレとは「物価が下落する経済現象」ではなく、「需要(消費と投資)が供給能力に対して不足している現象」です。
まず需要の縮小(=所得の下落)であり、物価下落は二次的な現象にすぎません。

需要が減り始めたタイミングで政府が増税、政府支出抑制といった緊縮財政に乗り出すと、ただでさえ減っている需要が一気に縮小してしまいます。

供給能力を総需要が上回っているなら、企業は設備投資に乗り出し、生産性が高まります。そして価格を引き上げることになります。
これがデマンドプル型インフレです。

投資による生産性向上に成功すると、企業の実質の所得は増えます。労働分配率が一定なら、従業員の実質賃金が増加することになります。
豊かになった従業員、国民が増加すると、消費や住宅投資が増えます。
生産性向上で埋めたインフレギャップが需要拡大によりまた開きます。
企業の生産性向上のための投資は、GDPの二つの需要項目、「民間最終消費支出」と「民間企業設備」という二つのルートで総需要を拡大することになります。

総需要が供給能力を上回るインフレギャップという環境は、さらなる総需要拡大を引き起こします。
実質賃金が増え、そこにインフレ分が乗り、名目賃金がさらに大きくなるというのがデマンドプル型インフレの特徴です。
コストプッシュ型インフレとは全く違います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?