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ILC誘致で日本が知の拠点となるかもしれない

ILC(国際リニアコライダー)とは、国際協力によって設計開発が推進されている次世代の直線型衝突加速器です。
電子とその反粒子である陽電子の素粒子を、電気や磁気の力で光速近くまで加速して超高エネルギーで正面衝突させる実験を行います。
宇宙の始まりである「ビッグバン」から1兆分の1秒後の状態を、人為的に再現することで、未知なる素粒子を探索し宇宙誕生の謎を探求します。

宇宙の始まり、宇宙の終わり、宇宙の組成、宇宙についてわからないことは様々ありますが、そもそも宇宙がどのような仕組みで動いているのか、その大元さえまだわかっていません。

人類が理解できている陽子・中性子・電子といった素粒子は宇宙を構成する5%です。
その他、重力はあるが電磁波を発しないため見ることができない未知の物質が27%、宇宙の膨張を加速させていると考えられている未知のエネルギーが68%を占めています。

宇宙の謎を解明する方法は3つあります。
① 宇宙に行く
宇宙ステーション、惑星探査などで探査を行います。
② 宇宙を観る
大型望遠鏡で宇宙を観測したり、重力波でブラックホールなどを観測します。
③ 宇宙の始まりを創る
加速器により宇宙誕生直後の再現を行います。

現時点で世界最大の加速器はCERNが運転するLHCで、2012年にヒッグス粒子を発見したことで知られます。
宇宙誕生時には質量を持たなかった素粒子が、直後の相転移によって質量を獲得したとされます。この仕組みをヒッグス機構といい、1964年に考案されました。
ヒッグス粒子の発見により、人類は目に見えない空間自体を研究できる時代に突入しました。

CERNのLHCは円形加速器です。円形加速器だと円軌道を周回する電子が放射光を放出してエネルギーを失ってしまいます。
さらなる高エネルギー電子加速器を実現するためには、放射光損失効果を受けない直線型加速器の実現が不可欠です。
直線型加速器の必要性は50年前から提唱されていましたが、技術的に難しく(※)、今ようやく世界中が協力して実現できるようになりました。
※円形であれば周回毎に加速させることができますが、直線だと1度の瞬発力勝負になります。また、衝突頻度も周回ごとに高めていける円形と違い、直線は加速後1回しか交差しないという難しさがあります。

ヒッグス粒子の存在は、LHCという大型加速器と、ATLASとCMSという2つの高精細な検出器によって突き止められました。
ATLASには日本の17機関が参加しています。ATLASのみならず、LHC本体とCMSの建設に、日本企業十数社が開発した素材や部品が使われ、推定で総額150億円相当のビジネスを生みました。

日本は素粒子物理学と加速器技術の分野において世界で第一級の成果を出し続けています。
素粒子物理の研究から派生する分野は幅広く、ILC周辺には、長期的に関連産業分野の企業立地が促進されることが期待できます。
ものづくり大国・日本の再生に向けた、次世代の科学技術・産業の土台となることでしょう。



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