【月はいつも見ている 〜兎〜 】 第1章 ep.04
駅で酔い潰れた女性を介抱して数日たったある朝、彼女のことを忘れかけてきたある朝、7時半ぐらい?私にとってはまだまだ深い眠りについている時だった
滅多に鳴らない、部屋のインターホンが部屋の中を響き渡った。
眠っていた脳に突き刺さるように
「ん?誰?」
ばさばさになった髪、目はまだ糊がついたように完全には開けられない。不審に思うようなことも考えることもないまま、ヨタヨタと玄関まで歩いて行き、覗き窓を見ると女性だった?誰だろう?こんな朝早くから、私昨日うるさくしていたかしら?ドアを開ける短い時間にこんなことを考えながら
「はい」
出ると大きく私の方に頭を下げ
「先日は色々ありがとうございました。朝早く申し訳ございません、夜いらっしゃらなかったみたいなので‥」
「あの、すいません、どちら様でしたっけ?」
「先日、駅で私が酔い潰れていた時に介抱していただいた。ノグチヒロミです。」
「あ〜ごめんなさい。全然わからなかった。」
あの乱れに乱れていた彼女とは、全くの別人だった。道ですれ違ってもまず気づかないだろう
「あのこの間のお礼にはならないのですけど、これよかったら食べてもらえませんか、ちょっと作りすぎちゃって」
「いや、そんなの気を遣わないでください。いいですよ」
「ご迷惑ですよね‥いきなりこんなの持ってきちゃったら」
「いや、そういう意味じゃなくて‥」
その時、そのやりとりを止めるように
私のお腹が、ぎゅりゅううう!と結構大きな音で鳴った。
ヒロミは、その音を聞いて口を閉じてキョトンと、私と目を合わせ、私が彼女を見ると笑顔になった
「肉じゃがですか?」
「はい、そうです、昨日作ったので冷蔵庫に入れて保存したら明後日ぐらいまでは持つと思います。それと実家の山形のご飯と」
「美味しそうですね。じゃぁ遠慮なくいただきます」
「急にお邪魔して申し訳ないんですけど、私仕事に行かないといけないので、これで失礼します。ムカイさんはいつも何時ごろお帰りになられます?」
「うーん‥深夜の1時か2時ぐらいですか」
「じゃぁ、その時間にまた、料理の方持ってきていいですか?」
「いいですよ、この間のことはホント、お気になさらず」
「もらっってくれる人がいたら嬉しいんです、一人分の料理作るのってなんか寂しくなっちゃうんですよね。ご迷惑だったらいいです。」
「いや、迷惑だなんて、私は一人だからありがたいですけど」
「じゃぁ、また来ます。今度は夜中に」
足早に、去っていくヒロミ。その後ろ姿は何かウキウキとしているように見えた。それと同時にこの彼女のペースにちょっと不安、嫌な予感さえも感じた。
玄関に残され手に持っているヒロミから貰ったタッパに入ったに肉じゃかとご飯。ズシっと重く男2人分ぐらいの量はあるだろうか。じっとそれを見つめていると再びお腹が鳴った
仕事の接客中、よくお腹が鳴りお客さんから指摘されることがあるのだが、またこんな時に鳴らなくても、とても恥ずかしかった。一度このようなボリュームのある食べ物を食べると、止まらなくなっちゃうので仕事はある日は、極力最小限の食事に済ましている。
ハッキリ言って仕事のある日は、こんな食べ物を見ると目の毒になってしまう。OLをしている時は毎日のように帰宅後、過食を続けていたが、今では休日にしか過食はしない、その休みの日の過食が今の私の最高のご褒美になっている
口の中でどんどん溜まる唾液、時折なるお腹。我慢に我慢を重ね、私はその料理を冷蔵庫の中に入れた
食べたい欲求が、最近なかった朝に起きてしまった。ヒロミ‥彼女のことを(なんで、こんな時に持ってきた!)一瞬彼女を恨みそうになったが、彼女は好意で持ってきてくれた、怨んではいけない。心の中で何度も葛藤を続け冷蔵庫に入れた
気を紛らわすため、ベランダに行ってタバコを吸って。でも何か強力な引力で目線は冷蔵庫の方に引っ張られてしまう。
(ダメだ、今日はもう‥止められないわ)
いつもは昼前の出勤だが、出かける支度をする myu
(今日は早出して、早く仕事切り上げよう)
朝の通勤ラッシュが終わろうとする9時過ぎ、この日はいつもより2時間早く、店は、風俗法が変わってから早朝から営業するようになって、店に電話すると丁度、キャストが全然足らないとのことで喜んでくれた
走り出した食欲は、自制できない
こんな悩みを持っているのは私だけ?
そんな思いを、揺れる電車の中で
貰った肉じゃがの為、頑張ってこようっと!
次の話
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月はいつも見ている 〜兎〜
過食症を抱える風俗嬢と、定職をもたない6歳下の青年との同棲物語。
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