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【月はいつも見ている 〜兎〜 】  第1章 ep.05

※過食嘔吐に関する、症状等の表現があります。




「え〜もう上がるんですか?あと2本ばかしお願いできないですか?」

「ごめん!今日はもう無理!」

「明日は、何時からいけます?指名入れといていいですか?」

「悪いけど、明日も全部フリーでお願い」

「え〜まぁ仕方ないですね。わかりました。」

残されたキャストに負担がかかり、申し訳ない気持ちはあるのだけれど自身の欲求には勝てなかった。

今の仕事になって、過食は休みの日と生理の日と決めていてそれでバランスが取れていたのだが、今回ばかりは‥ダメだった。まだ日が落ちていない時間、見送りもなく店を後にする

春の心地よさも、そろそろ終わりかなと思わせる、日中は少し汗ばみそうな陽気。顔が緩み足取りも軽く向かう先は、デパートの地下食料品売り場。

今晩のご飯の買い出しに来る人、得意先に差し入れを買いに来たサラリーマン、平日なのに色んな人でごった返している売り場。そこに myu は違和感なく紛れて、風俗で働くようになってから、過食嘔吐をする頻度は少なくなりお金にも余裕が出てきて。OL時代、お金がなくて躊躇していたものが、今では気にせず買えるようになり

目移りするもの、全て買った。買い物をやめる基準は、それを家まで持ち帰れるかどうかで決まる

両手にいくつものレジ袋を持って、家路に着くまでの高揚感もたまらない

家路に着くと、靴も脱がず、玄関のたたきに買ってきたレジ袋を置いて再び外に出る、今度はマンション近くにあるスーパーへと、今度は自転車に乗って向かう。自転車はこの時のために買ったようなもの。

2階建てのスーパーのショッピングカートを押して、売り場内を探索する。私にとってスパーでのホットなスポットは、デパ地下でも沢山買った惣菜コーナー。そして〆の菓子パン・惣菜パン

陳列されたパンを、どんどんカゴに入れていく様を商品が入ったカゴと私の顔を交互に見ながら去っていくおばさん達、私の姿を見るとパンがなくなっちゃうので一目散にパンコーナーに行くおばさん。私はここでは名物女になっているのか。

高揚感の高まりは止まろうとはしない、家路に着くと、デパ地下で買った大量の惣菜が入ったレジ袋

この高まった高揚感は、吐いた後、一緒にその高揚感も全て吐き出したかのように落ちてしまう。それを知っていてもやってしまう。一種の病気だろう‥でも私はそれを10年近く実家にいる時からやっている。それをやめちゃうと私じゃなくなる。

10年にもなると、20を超えるレジ袋に入った食品の準備をするのも手慣れたもの、吐きやすいように、水、炭酸水、牛乳、ほろ酔い程度に酔える炭酸のお酒‥

すぐに脱げるようなラフなスウェットの上下に着替え、メイクを落とし食品をテーブルに並べていく、長年こんなことをやっていると、吐きやすい食品、そうでないものがわかるようになって、どうのような順番で食べたら吐きやすいとか‥

時は、午後6時、時間はたっぷりある、実家にいるときは働いている母親が帰ってくるまでこれを続けていた記憶がある

吐き切りがわかるように、最初はある麺類を食べる。始める最初の麺が喉を通る時、至福な時と言うより瞬間で。そのあと吐くまでは記憶に残らない

無我に食を進めていると、ふと‥

今これを始めたきっかけは?

(そうだ、ヒロミさんからもらった肉じゃがが‥)

食べたもので重くなった身体を、ヨイショと言わんばかりに立ち上がって冷蔵庫から、入っていた肉じゃがと白米を出して、それをレンジにかけた

温まるのが終わるまで。レンジの中の肉じゃがを見続けた。冷蔵庫で冷やしてても粒だちのよさがわかる米も見続け熱くなった2つのタッパをテーブルの上に置いた。

それまで食べていた食べ物の袋や容器が邪魔に感じ全てを片付け、肉じゃがと米だけにした。

「いただきます」

何か少し罪悪感のようなものを感じながら、小さな声で

蓋を開けると、メガネをかけていたら一瞬で曇りそうな勢いの湯気がたった

さっきまでもかき込むような食は、一旦収まり。その湯気がたった肉じゃがに箸を向かわせる

大きな人参の塊。じゃがいも、肉ではなく、なぜか人参を myu は掴み上げた
そっとそれを口の中へ

「熱っ!」

ハフハフと転がし、ゆっくり噛んでいくと甘さが匂いに変わるように、なんだろう調味料の甘さではなくて人参が炊き込まれたことで甘さに変わったような

「‥ゎあぁ、美味しっ!」

次は肉

これは、味付けがしっかり肉に浸透して肉の旨みと綺麗に重なり合って、一緒に絡んできた糸こんにゃくが肉の弾力をさらによくしているような

じゃがいも

ホクホクっとこれもしっかりと芯まで味わいが入っている

「へぇ〜!見かけによらず、料理の腕はあるのね‥」

ここのところ過食中に、味わって食べたことは最初の一口目ぐらいで感じたことがない、やはり作った人の顔を思い浮かべながら食べたら違うのかな

そして米

これも甘みがあって、米がこんなに甘くて美味しいものなのか感動した

「ご馳走様でした」

しっかり手を合わせて

一息、大きく息を吐き出して、これを吐き出すのが勿体なく申し訳ない気持ちが込み上げてきた

でも、膨らみかけたお腹、服をめくって自分のお腹を見ると自分の乳房に追いつけんばかり膨らんできている

(これ、吐かないでいたら明日大変だろうな‥)


「ヒロミさん!ごめん!」


彼女は再び、食べ出した

お腹の中の肉じゃがが、わからなくなるまで

そして、服を脱いで素っ裸になりバスルームへ、鏡越しで自身の張り詰めたお腹を見つめさすり

全て出した




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何事も中途半端だった今年で55歳になるじじぃ。クオリティーは求めずまずは小説を完結させることを目指して書いていきたいと思っています。 書き上げたエピソードは何度も書き直し手直しをしちゃいますので、その点を踏まえて読んでいただければありがたいです。

過食症を抱える風俗嬢と、定職をもたない6歳下の青年との同棲物語。

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