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Bill One 2年強でARR1→37億円到達!SansanARR200億円突破!Sansan強さの秘訣に迫る!

2023年7月13日に、Sansanの2023年5月期通期の決算が発表されました。
https://ir.corp-sansan.com/ja/ir/news/auto_20230713521617/pdfFile.pdf

Sansan ARR200億円、Bill One ARR37.98億円到達

営業DXサービス「Sansan」のARRは2023年6月時点で200億円を突破しました。
そして、Bill OneのARRは2023年5月で37億98百万円に到達しました。

Bill OneのARRは37億円を突破

過去の決算説明資料に基づくBill OneのARR推移は以下の通りです。
2021年2月:ARR1.05億円
2021年8月:ARR3.91億円
2022年2月:ARR10.86億円
2022年11月:ARR21.24億円
2023年5月:ARR37.98億円

SaaSのT2D3を便宜上日本円の1億円スタートとすれば、T2D2までは「1億円→3億円→9億円→18億円→36億円」と本来4年かかるプロセスです。
Bill Oneはこれを2年強で到達したことになります。

Bill One 2024年5月末のARR目標は70億円以上

さらに2024年5月期末にはARR70億円以上目指すという目標が公開されています。

2024年5月期連結売上高の成長率は28%~32%に加速の見通し

また2024年5月通期業績見通しとして、連結売上高の成長率は前年同期から加速し、28%~32%の見通しとなると公表されました。

2019年に売上高100億円を超えて上場した企業が、新規プロダクトでこれだけのグロースを実現し、さらに企業全体としての成長率も再加速していることは、手前味噌ながら驚異的です。

私は6/1にSansanに入社したばかりですが、だからこそ新鮮な目で見られると思いますし、元Vertical SaaSを経営していた目線も踏まえて、Sansanの強さの秘訣に迫っていきたいと思います。

Sansanのカタチ

SansanではMission・Vision・Values・Premiseの4つをSansanのカタチとして定義しています。

Sansanのカタチの初版(当時はカタチという名前ではなかったそうですが)は、なんと、会社"創業前"に、創業メンバーの合宿で決まったもの。

Sansan創業メンバーであり、取締役の塩見さんによれば、その合宿では、カタチだけでなく、ビジネスモデルやプライシングなども議論する予定だったそうです。
合宿の初日にカタチ議論を行ったそうですが、なかなか終わらず、最後の方は言葉遊びのようになってきた。
エンジニアの塩見さんとしては、段々もどかしくなり「早くビジネスモデルなどの話に進みませんか?」という提案をされたそうです。
すると、寺田さんが「オレはこの合宿でこれ(カタチ)を決めに来たんだ!」と怒った(寺田さんは忘れてると思うけどとおっしゃっていました)。
結局、その合宿は全てカタチの議論に費やされたそうです。

塩見さんも当時はカタチの重要性について完全に納得できていなかったそうですが、経営をしていく中で、エンジニア的にいえば「ミッション・ビジョン・バリューは会社の設計図である」と理解するようになったとおっしゃっています。

スタートアップの皆さんには経験があるかと思いますが、ミッション・ビジョン・バリューの議論は、最終的には言葉遊びのようになりがちで、その意義が問われることもよくあります。
そこから逃げずに、創業前に決め切っているというのは、そう簡単にできることではないなと思います。

しかも、さらに凄まじいのは、カタチは更新を繰り返して現在Ver6.1に到達していることです。
言葉の表現を変えたり、順番を入れ替えたり、項目を一つ消して、また復活させたり、逆に項目を一つ加えてみて、やっぱり消したり。
カタチの議論に多大な時間をかけているのは多くのメディアでも語られていますが、表現の微調整や順序までこだわっていることを知って衝撃を受けました。

会社の理念として、磨き抜かれた言葉が存在することは、組織の行動や決断を導く揺るぎない指針になるのだと実感しています。

タグライン

Sansanのカタチにおける言葉へのこだわりは、タグラインとして実用的な価値をもたらしています。

現在、SansanのHP上に掲載されている4つのプロダクトのタグラインは以下の通りです。
Sansan:営業を強くするデータベース
Bill One:請求書受領から、月次決算を加速する
Contract One:契約データベースが、ビジネスを強くする
Eight:名刺管理に、転職に

これらのタグラインはプロダクトが顧客に提供する価値をシンプルな言葉で表現しています。
「このタグラインをもって営業に行った時、売れるのか?」という視点も考慮されます。
そして、マーケット環境の変化やプロダクトの進化に伴い、タグラインはアップデートされていきます。

Sansanのタグラインは以下のような変遷を辿っています。
2017年:営業を強くする名刺管理
2018年:名刺を企業の資産に変える
2019年:名刺管理から、働き方を変える
2021年:名刺管理から、営業を強くする
2022年:営業を強くするデータベース

現在のSansanは、"名刺の情報を入れなくとも"、帝国データバンクをはじめとした大量の企業情報・人事異動情報等が備わっています。
使い始めた瞬間から、営業に活用することが可能で、まさに「営業を強くするデータベース」へと進化しています。

Bill Oneのタグラインも立ち上げ当初は「あらゆる請求書をオンラインで受け取る」でした。
プロダクト責任者の柴野さんによれば、タグラインを"盛って"経営的なメリットを訴求するのではなく、プロダクトの価値がクリアに伝わるように、あえてシンプルな言葉を選んだそうです。
一方で、請求書をデータ化するサービスではなく、請求書を受け取るサービスであることにはこだわった。
当時は請求書受領サービス市場が確立されておらず、その中で郵送で届く紙の請求書、メールで届く電子請求書など、あらゆる請求書をオンラインで一括で受け取れることが価値だったためです。

その後、市場の勃興に伴う類似サービスの登場や、プロダクトとしての進化を反映し、現在の「請求書受領から、月次決算を加速する」にアップデートしました。

洗練されたタグラインは、プロダクト開発・営業・マーケティング・広報などなど、様々な組織をつなげる役割を果たします。

「言葉に魂を乗せる」、その文化こそが、Sansanの強さの源泉になっているのです。

営業力の源泉

Sansanの営業力の源泉は強い意思とやり切る力です。

創業メンバーの一人で、現取締役の富岡さんによれば、創業当初はアポイントが取れるところなら、どこでも売りに行ったそうです。
その一つが料亭。料亭では料理長がお得意様と名刺交換をすることが多いため、名刺管理のニーズがあるのではないかと考えた。
アポイントをとってお店まで提案しに行き、確かにニーズはあったが、ほとんどのお店でスキャナーを置く場所もスキャナーの電源を取れる場所もなかった。無理やりスキャナーの電源を取る場所を見つけて、導入してくれたお店もあったが、再現性がなかったため、流石に諦めたそうです。
社員数が数十名になる頃までは、取れるアポイントは全件営業に行っていたそうです。その後、4年目の途中の頃に、流石に効率が悪いとなって、優先順位付けをするようになったのだとか。

また、富岡さんはオラクルを辞める時に、オラクルの上司に「富岡さんはオラクルでのセールスの経験を活かして、ソフトウェアの価値を伝えるところを頑張って!」と言われていた。それもあって最初にSansanのプライシングを決める時に、意思をもって1ID月額1万円にすると決めた。
しかし、寺田さんが自費でアンケートをしたところ「数千円なら払う」という結果が出ていたので、創業メンバーの中でも「流石に高いのでは?」という議論になっていた。
最終的に創業メンバー全員で赤浦さんに相談しにいったところ「セールスをリードする富岡さんが1万円でいくというなら、1万円で良いのでは?」と言われ、最初のプライシングは1万円で決まった。
拡販するには高かったため、その後見直しされたそうですが、価格に見合う価値を作らなければならないという点で、良い意味でプロダクトづくりのプレッシャーになって良かったそうです。

もちろん、個々の営業力やSales Enablement等の体系的な施策も卓越していますが、その基底には創業時から続く"強靭な意思"が息づいています。

権限委譲

多くのスタートアップ経営者にとって、どのように権限委譲を進めていくのか、というのは常に頭を悩ませる課題です。
一方、寺田さんは「よく投資先から権限委譲について相談されることがあるが、権限委譲で困ったことがないから、よく分からない」とおっしゃっていました。

はて?、と思い、お話を伺ってみると「まず、自分で出来ることは全力でやる」と。そして「物理的な限界がきてから考える」とのこと。
なるほど。誰かに権限を委譲することより、自身で進めることを優先されてきたということなのかなと思ったら、「いや、採用も全力でやる。創業期から、採用に手を抜いたことはない。創業期のとあるメンバーの採用の際は、5次面接まで全部自分で設計したし、家まで行って口説いた」のだと。

また採用を強化する=スケールを図るタイミングについてお聞きしてみると、「人を採用しなければならないほど売れてきたら」とのこと。

ここまでお聞きして、ハッとしたのは、権限を委譲するテクニックや戦略を超えて、何より大切なのは、全ての仕事に対して全力を尽くすことだということです。
権限委譲に悩むのは、権限委譲の名のもとに楽をしようとしたり、物事の順序を飛ばしてスケールを図ったりするからではないか。

創業メンバーで現取締役の塩見さんは「事業をつくるというのは、そう簡単なことではない」とおっしゃっていました。
同じく創業メンバーで現取締役の富岡さんは「会社を大きくしようと思ってやってきた訳ではない」とおっしゃっていました。
そして、Sansan社内では「薄皮を一枚一枚積み重ねる」「非連続な成長を目指し続けて、はじめて連続的な成長ができる」という言葉がよく使われます。

事業づくりに真摯に向き合う。
全力を尽くし、その結果を受け入れ、次に進む。
その繰り返しが、Sansanの今に繋がっています。

チャレンジャー

Sansanは一見すると、Sansan・Bill Oneなど、数少ないプロダクトを確実に当てて成功させているように見えます。

実は、これらのプロダクトは数え切れないほどの新規事業の試行と失敗を経て生み出されています。
実にならなかったアイデアも、人知れず辞めたプロダクトも沢山あります。

創業以来グローバルへのチャレンジも続けていて、2017年にはEightでインドに進出したことがありました。
インドは通信環境が悪すぎてアプリがまともに動作しなかったそうで、現地にエンジニアを送り込んで解消を図ったそうです。
しかし、今度はインドでは同姓同名が多すぎて、名寄せ(同一人物を紐付ける)ができなかったのだとか。
Eightでは自動で名刺が名寄せされることを大きな価値としていたため、その時点ではEight本来のプロダクト価値を届けることができないと判断し、撤退したそうです。

今でもグローバルへのチャレンジは続いていて、Bill Oneは現在進行形でシンガポール・タイへの進出を進めています。また、フィリピン・セブ島にはグローバル開発センターを設立しています。毎月、海外拠点でも新しいメンバーが入社しています。
https://jp.corp-sansan.com/news/2023/0118.html

Sansan社内では「Bill Oneは運が良かった」とも言われます。(絶対に運だけでは成し得ない成果ですが...)
常にチャレンジャーであり続ける姿勢が、イノベーションの創出につながっています。

エッジ

第一人者であること、ユニークであること、もSansanの強みです。

・名刺管理サービスという市場の創造
・BtoB SaaSとして初のCS組織化
・BtoB SaaSとして初のCM放映
・請求書受領サービスという市場の創造
等々、数々のイノベーションを生み出してきました。

Sansan社内ではエッジという言葉がよく使われます。
エッジが尖っているか、すなわち、Sansanにしかできないことをやっているか、新しい価値を市場に提案しているかが、重要視されます。
そのエッジが真に市場に受け入れられるか否かは、営業力でもってプロダクト開発前に受注することで証明します。

そして、ユニークであるためにも、何から何まで自分たちでやっていることも特徴の一つです。
プロダクトを自社開発しているのはもちろんのこと、名刺スキャナーのセットアップも、名刺のスキャンも手入力も、自分たちでやるべきことは自分たちでやる。

新しい価値の提案にこだわり、垂直統合で価値を創造することが、ユニークなポジショニングと競合優位性になり、高い利益を生み出すことに繋がっています。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

Sansanの業績を上げる力については、以下の記事にもまとめましたので、あわせてご覧ください。

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