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Red VelvetのホラーとaespaのSF

aespaは2020年11月にデビューしたSMエンターテインメントのガールズグループで、Red Velvetの後輩グループにあたる。現在までに「Black Mamba」「Forever」「Next Level」の三曲が公開されている。

以下はSM公式のグループ紹介。

aespa(エスパ)は、“Avatar X Experience”を表現した「æ」と、両面という意味の英単語「aspect」を結合して作った名前です。「自分のもう一人の自我であるアバターに出会い、新しい世界を経験する」という世界観をベースにしている、画期的で多彩な活動が期待されるSM ENTERTAINMENTの新人ガールズグループ。
現実世界の『aespa』のメンバーは仮想世界の「もう一人の自分」であるアバター『ae-aespa(アイ-エスパ)』と‘SYNK’を通じてお互いリンクする。それぞれの名前は『ae-KARINA』、『ae-WINTER』、『ae-GISELLE』、『ae-NINGNING』である。
aespa _ S.M.entertainment JAPAN

なんかめんどくせぇなと思い、半年あまり注目していなかったのだが、先週リリースされた「Next Level」を聞いてたら、段々と気になってきた。おそらく、このグループに関してはもっとシンプルな紹介が可能であり、それは、「Red Velvetはホラーで、aespaはSF」というものだ。脳が処理落ちするほど固有名詞マシマシな紹介も、SF的といえばしっくりくる。

ホラーが危険性と境界侵犯性によって特徴づけられるのだとすれば、Red Velvetのジャンルはまさしくホラーなのである、という話を前に書いたことがある。MVでは双子、ドッペルゲンガー、迷宮、陰謀といった主題が反復され、楽曲は個々の自律性が溶け合わさって消える瞬間(合唱によるサビ)に頂点を迎える。Red VelvetのMVはどれも映画みたいな物語性を持っており、考察が考察を呼ぶ点でエヴァンゲリオンみたいな楽しみ方ができるグループだった。

その点、aespaには頭を捻った。SMとしては6年ぶりの新人ガールズグループで、韓国人・中国人・日本人の混成グループなのも話題になったし、誰がどう見ても認めるようにカリナのビジュアルなんかは歴史的なレベルでキレてる。デビュー前からティザーに映る振り付けが卑猥すぎるとかで批判されたり、デビューしたらしたでMVに盗作疑惑浮上だとか、どうも悪い意味で鳴り物入りの新人だったが、まぁ、そのへんはいつものSMという感じで言うことはない。問題はMVの中身だ。「Black Mamba」も「Next Level」もほとんどパフォーマンスMVと言ってよく、まったく物語らしい物語がない(「Forever」はカバーだしB面的なポジション)。トラックも含め、BLACKPINKが2〜3年前からやっていた類の粋を出ず、手が込んでいるわりに無難なガールクラッシュにオチている。というファーストインプレッションだったのだが。

ところで、すっかりヨジャドルはガールクラッシュがデフォみたいになり切ったので、どう差別化していくかは考えたいところだろう。最新作は格好つけすぎた感が否めないが、ITZYなんかはずっとうまい立ち回りをしていたと思う。TWICEゆずりのポップでキュートなキャラクターは残しつつ、ほどほどにチャラい。曲では「マフィアだぜ!!!!!」と脅してきても、ユナを筆頭にきゃぴきゃぴ感が包み隠せていないというか、イェジを筆頭に真面目さが透けて見えるというか、とにかく親しみやすい良いグループだと思う。

対して、aespaの面々はだいぶとクールに仕上がったギャルたちだ。一人称は絶対に「ウチ」。ただでさえSMのガールズは気が強いイメージな上に、最近はもはやパワハラなイメージなので、グループ自体になんだか近寄りがたいオーラがある。この辺は単純に私が親しんでいない、というだけかもしれないが。

ということでaespaとSFの話になるのだが、SFといえばCherry Bulletのデビュー曲もSFコンセプトだし、TWICEの「FANCY」もSFだった。残念ながらどちらも大した曲ではない。前後を見てもコンセプトとして間グループ的にSFが流行ったことはなく、ぽつぽつと使われる印象。aespaさん、こんな内装にしちゃって後で飽きがきませんか?というのが心配ではある。

とはいえ、aespaはMVが単調なかわりにマーベル映画みたいな映像コンテンツも提供していたりと、さすがにCherry BulletやTWICEよりはお金がかかっている。巨大毒蛇がなんなのかさっぱりわからんが、「Black Mamba」といい「Next Level」といい、サビの印象的なポージングやスローでうねる振り付けはヘビの表象になっていて、芸が細かい。なるほど、Red Velvetが情報の秘匿による「わけわからん」で駆動していたのだとすれば、aespaは情報の飽和による「わけわからん」で動いているとも言えそうだ。こちらはこちらでエヴァンゲリオン的といえば的か。

メンバーとæメンバーが共演するなど、この辺のギークなノリについて行けるかどうかが分かれ目な気がする。個人的には、まだ不気味の谷の谷部分に落ち込んでいて、どう見ればいいのか分かっていない。

少なくとも、Red Velvetとはコンセプトも売り方も全く異なるグループらしいのは見るも明らかなので、ないものねだりして見るべきものを見逃してもしょうがない。そもそも、SF的なガジェットにそんなに興味がなくて、ダークでホラーなRed Velvetのほうが良かった、というだけの話かもしれない。

ということで、後はRed Velvetがもうおしまいな感じがして悲しい、という話。

Red Velvetがもうおしまいな感じがして悲しい。考えみても、2019年末からRed Velvetは気の毒なこと続きだった。三部作の集大成「Psycho」で年末カムバをぶちかまそうという矢先、リハーサルでウェンディが負傷。来日公演はコロナで中断。2020年6月にはアイリーン&スルギで悪くないカムバを果たし、8月にはBoAのトリビュート企画でウェンディが合流、新作を準備中との話も出たが続報はなかった。10月にはアイリーンが大炎上し、実質的な自粛期間が始まる。半年以上の沈黙を経て、2021年4月には、戻ってきたばかりのウェンディがソロ活動開始という奇妙な話になり、今月末にはジョイもソロ・アルバムを出すとのこと。完全に各々のキャリアを敷いていく流れになっている。Red Velvetは2014年8月のデビューなので、今年で7年になる。7年目といえば専属契約満了の節目だが、少なくとも一ファンとして見てきた限り、メンバー全員が契約更新してグループ続行の見込みは低そうだ。

せめて最後にもう一作、という思いだが、今のレッベルに割く予算がSMにどれだけあるのかは気がかりなところだ。aespaを素直に見れない背景には、少なからずRed Velvetの現状がある。

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