幼稚園バス

私が幼稚園に通っていた数十年前。園児は小さなバスで送迎されていた。全員が一度には乗れないので、帰りのバスは毎日3回に分けて園児を運んでいた。どの回のバスでも子供たちはぎゅうぎゅうに詰め込まれ、座れるのは行きも帰りも園から一番遠い地域の子供たちだけだった。年長組の私はバスで通う子供たちの中では一番園に近いところに住んでいたので、いつもラッシュアワーの山手線並みに混雑した車内で立ちっぱなしだった。園では帰りのバスを1番バス、2番バス、3番バス、と呼んでいた。子供たちはバス毎にグループ分けされてバスに乗っていた。1番バスなら早く帰れるが、3番バスになるとかなり長い時間園内で待たなければならない。何をして待っていたのか思い出せないが、お昼寝、絵本を読む、などで時間をつぶしていたかもしれない。ある日3番バスに当たった私は思いついた。この待ち時間にこっそり園を抜け出し歩いて家まで帰れるんじゃないか?毎日乗るバスの通り道は覚えている。バスの運転手に見つかる可能性もあったが、その日は雨が降っていたので、道で幼稚園バスを見たら雨傘で姿を隠せばよい。早速友達二人を誘って歩き出した。先生にも誰にも見つからなかった。

しばらく歩くと広い道に出る。歩道はなく車も多い。道の端は土手で、大きな川の岸に通じている。バスに行き当たった時に隠れられるような物陰もない。黄色い傘をさしてとぼとぼ歩く女の子3人は行き来する車からどう見えていただろうか。どれぐらいの距離を歩いたのか記憶にないが、見覚えのあるマイクロバスがこちらに向かって来るのに気が付いた。園に戻る空っぽのバスだ。やっぱり見つかった!傘をさしたまましゃがんで身を隠そうとしたが、勿論無駄だった。ひどく叱られながら私たちはバスに乗せられた。いつもは座れないバスの座席にその時初めて腰掛けることができた。

園でも家でもきっとひどく怒られたはずだが、全く覚えていない。

当時住んでいた家から幼稚園までの距離を調べてみた。住居表示が変わっているので正確ではないが、約2.8kmだった。

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