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夢は、夢との距離に絶望するところから始まる

去年まで通っていた傾聴の学校で、多くのことを学んだ。
苦しい時にどうすればいいのか。嫌いな人とどう付き合えば良いのか。そして自分の生まれ持った才能をどう花開いたら良いのか。
卒業近くになってこの学びを多くの人に、特に子どもたちに知ってほしいという気持ちが湧いてきた。

子どもに知ってもらうことを目標にするなら、紙の本を出すのが一番だと思った。
電子書籍では「図書館でたまたま」という出会いが遠のいてしまうし、学校や図書館に置いてもらえる本を目指すなら、自費出版ではなく出版社や本屋さんのお力を借りるのが一番だ。

そんな想いで出版を目指す講座というものに行ってみたところ、講座では本が世に出るまでの流れと、出版までに著者がすべき必要な道のりを丁寧に教えてくれて「子どもたちの希望になるような本を出すぞ!」という想いはますます強くなった。

しかし本づくりへの第一関門である「出版の世界を知る」というワークをしている中で、急に自分の足が止まった。
「本を出すぞ!」と目標を遠くから見ていた頃はただワクワクしていたのだけど、実際にその目標の高さをまじまじと見て、急に怖くなってきてしまった。

例えばこれまで私は本を買うとき、タイトルを見て中身をパラパラと読み、面白そうだなと思った本を買うのが普通だと思っていた。
ところが世の中の3~4割くらいの人は、まず本の後ろにある「著者の経歴」というところから読んで、著者に実績や成果があるかを確認してから本を購入するらしい。私、何の経歴もない。。

加えて紙の本は最低6万字は必要で、せっかく出版が決まった人の中でも「そんなに書けないよ」と脱落してしまう人が3割はいるらしい。私は文章を書くのが好きだけど、最高でも2万5千字くらいしか書いたことがない。果たして倍以上の距離を泳ぎ切れるのだろうか。

一旦手が止まってしまうと負のループに入ってしまい「編集者さんに馬鹿にされたらどうしよう」「本を出しても売れなかったらどうしよう」など、まだ何もしていないというのに不安ばかり大きく膨れ上がって、一時は本屋さんにいくのも嫌という状態になっていた。

そんなあるとき、宝塚に関するテレビ番組をたまたま見ていた。
その日はスターを目指す若手ジェンヌさんへのインタビューが放送されていて、その日は新人公演の主演を務めたジャンヌさんが映っていた。

新人公演とは、入団して6年目までの若手だけで本公演の演目をするもので、普段セリフをもらうことのない若手も活躍できる成長の場となっている。
トップスターが演じる役を新人公演で演じることになった若手のジェンヌさんが「まず本役のトップさんと自分との差を知って、絶望するところから始まった」と言っていて、ながら見で番組を見ていた私は画面に釘付けになった。

若手ジェンヌさん曰く、発声の仕方や所作1つからしてトップはレベルが全く違うらしい。

稽古中「トップさんは広い劇場を埋めるお芝居ができるのに、自分には出来ない」と悩んでいたとき「遠くまで球を投げるとき大きく身体を使うように、もっと自分を大きく使って」とアドバイスされ、徐々に広い空間を埋めるとはどういうことかわかってきた、と彼女は言っていた。

その後、映像で見た彼女の主演姿はとても堂々としていて、とてもそんな苦労があったように見えなかった。

思えば夢に向かって歩く時、最初につまづくのが「夢と自分との距離」を知ってしまった時なのかも知れない。だけどそれは終わりではなく、必要なプロセスの一部にすぎない。

無様でも初めの一歩を何とか踏み出せたとき、本当の旅が始まる。そうやって歩いて歩いて、ある日気づいたとき最初に夢見た場所にいつの間にか自分が立っていたというのが「夢」のリアルなのかも知れない。

宝塚では「一度でも主演を経験したジェンヌさんは、放つオーラが違う」と言われている。
私も夢との距離にいつまでも絶望していないでカッコ悪くても夢に向かって歩き続けよう、と、画面の中で微笑む美しい人を見て思ったりした。